人気者マイセン
デスの襲撃のせいで遅れが出たけど、別に急ぐ必要があるわけじゃないからいいかと思っていたら、スカサハさんが急かしてきた。
「できるだけ急いだ方がいい。 連中が戻らないのを探しに必ず来るはずだ」
「ひつこいにゃりな」
「発見されれば……今回は過小評価していただろうが……次はもっと腕の立つ相手が来るはずだ」
デスは本当にしつこいらしい。
そして今回のことで、僕らは連中の標的になった可能性もあり得るのだという。
「アラスカ……大丈夫かな……」
「安心しろ……いくらデスと言え7つ星の騎士団に喧嘩を売るようなバカなことだけはしない」
7つ星の騎士団の対極の存在とは言っても、7つ星の騎士団は神の力と言われる騎士魔法が扱える、ある意味神のしもべのような存在らしい。 そのため7つ星の騎士団にあまりにも損害を与えようとするものがあれば、神が動く可能性があるらしい。
それを聞いてなんとなく神というよりもサハラ様が動いてくれそうな気がしたのは気のせいだろうか?
そうこうしているうちに日の暮れだしてしまう。 小さいながらの宿場町まではもう少しかかるだろうというところで、スカサハさんがここで夜営するって言い出した。
「宿場町は確実に狙われるだろうな。 野宿であればやり過ごせる上に、追手があるかもわかるかもしれない」
なるほど、って、僕は戦う以外何にもできないなぁ。
「役に立たなくて済みません……」
「いや、先ほど十分に役に立ってくれたよ。 正直なところあそこまでお主が強いとは思わなかったほどだ」
「うにゃり、マイセンカッコよかったにゃりよ」
あはは……やっぱり戦いだけだなぁ。
そんなわけで食事は早めに済ませて、街道から少し外れた身を隠せる場所で野宿することにする。
そこまではいいとして問題はデスのメンバーかどうかをどうやって見分けるかじゃないかと思って聞くと、落ち着いて休めれば分かろうが分かるまいがどっちでもいいんだそうだ。
「別に返り討ちにするわけじゃないんですね」
僕がそういうとスカサハさんが笑いだして、それはそれでいいかもしれないなんて言い出す。
「判別できたら捕らえて尋問でもしてみるか?」
こんな感じでまったりしながら街道を監視する。
昼ぐらいまでに町を出れば日が落ちる前には宿場町には辿り着ける距離にあるため、特別急ぐようがあるか、僕らのようによほどのことがない限り、日が落ちてから街道を歩く人の姿はまずない。
そんな中、真夜中に2人の気配で気づく。
「2人通るみたいです」
「ほぉ……どれどれ」
僕の目には月明かりで見える程度だから人の姿があるぐらいしかわからないけど、ドラウ族は光が一切無い真っ暗な中でも普通に見えるんだそうだ。
ちなみにエルフ族とドワーフ族は暗い場所であっても、熱源感知という温かいものは赤く、冷たいものは青く見る能力を持っていて、ドゥエルガル族とオルクス族とドラウ族は虹彩のない目をしている代わりに昼間のように見えるらしい。 その代わり陽射しの強い場所は眩しくてしょうがないんだとか。
大半の獣人族は例外で暗闇も見渡すけど、元となる動物同様に目が光ってしまうらしい。
「どうですか?」
「うむ……わからん」
あう……
「2人共ローブ姿でフードを深く被っている。 どうみたって怪しいが、デスかと問われれば刺青を確認せねばわかるまい?」
そういう意味だったんだね。
どうする? とでもいう顔で僕を見てくる。
どうしようか迷ったけど、もし間違いだったら後々面倒なことになりかねないと思ったから首を横に振って放っておくことにした。
結局その後に街道を歩く人はいないまま日が昇りはじめて、また街道を歩く人たちの姿が見えだしたのを見計らって僕たちも移動を再開した。
宿場町は立ち止まらずに通り抜けてそのまま霊峰の町へ向かい、お昼を過ぎた頃に霊峰の町に辿り着いてその足で霊峰竜角山の麓の側にある訓練場に向かって町中を歩くと、ゲッコとガーゴの姿に魔物だと驚かれるも、僕の姿を見て僕を知る冒険者たちが集まってきて大変な騒ぎになってしまった。
「お主はここではたいそう人気者のようだな」
「押しつぶされるにゃりよ」
ここで気になったのがこんな時間に冒険者たちが大勢町にいることで、身近にいた冒険者に聞いてみると「もうすぐララノア感謝祭じゃないですか!」って言われて思い出した。
ララノア感謝祭とは当然ララノア協定も作ったマルボロ王国の女王様で、最初の頃は年に一度お祭りがあったらしいけど10数年前から5年に一度に変わった世界規模のお祭りだ。
その昔はいろいろ趣向を凝らした大会なんかがあったようだけど、今はそういうのも無くなって感謝祭というお祭りを行っている。
「そっか、もうララノア感謝祭だったっけ」
いろいろありすぎてすっかり忘れていたよ。
スカサハさんや猫ちゃんを見ると2人も忘れていたようだった。
「なんだか人だかりが出来ているかと思えば、マイセンお前がいたのか」
「ギルガメシュさん!」
「ん、貴様の嫁はどうした? 喧嘩でもして別の女でも作ったか?」
「ち、違いますって!」
はっはっはってギルガメシュさんは笑い飛ばしながら冗談だって言ってくる。
「これまた随分と面白いものを連れているじゃないか……ふむ、トンボ帰りに近いのには理由がありそうだな。 マイセン、少し顔を貸せ」
自分勝手というか何かを読み取られたかのように、有無を言わさぬ勢いで連れて行かれるままついて行くことになった。
次話更新は明日を予定しています。




