暫しの別れの前夜
この章の最終話になります。
あくまで可能性の話ではあったため、あとは各個人の判断に任せるとアラスカは言って口を閉じた。
「俺はペップと故郷に向かおうと思う」
コークさんとペップさんはこの話を信じたのか、もともとそのつもりだったのかわからないけど明日には故郷に向かう事に決めたようだ。
「儂は故郷と言える場所は無いしのぉ、とりあえずここにでもいるかのぉ」
「俺、お前、一緒にいる」
「おう! 頼りにしてるぞ、母ちゃん!」
「それまだ、早い」
2人のやり取りに周りから笑いが溢れる。
トールさんはここ迷宮の町に残る事にしたようで、ガラナさんも一緒に残るようだ。
そして2人はすっかりできているように見えた。
「僕はアラスカと……」
「いや、7つ星の騎士団領へは私1人で向かう。 あそこであなたの事を知ったら面倒になりそうだからな」
僕の事は内緒にしたいのかなって思ったら慌てて剣技の事を言ってきて、間違いなく7つ星の騎士団に取り入れたようとしてくるからなんだそうだ。
「そっか、じゃあしばらく離れ離れだね。 どれぐらいかかりそう?」
「馬を使って往復なんかを考えると、おそらく50日ほどだろう」
「わかったよ、じゃあ僕は霊峰の町に戻って孤児院で待ってるね」
50日もアラスカと離れ離れは寂しいけど、困らせるわけにもいかない。 ただ少しでも寂しさが紛れる孤児院で待つ事にした。
「ふむ、私は……そうだな。 こいつを連れてマイセン、お主と行動するとしようか?」
「ついていくにゃり」
今一瞬チラッとアラスカを見ていった気がする。
なんで? と一瞬思ったけど、ディルムッドに会わせる約束をしていたのを思い出して頷いた。
「じゃあ、短かったとはいえトールさんとはここでお別れですね」
「名残惜しいのなら、その身に刻んでやるぞい?」
「う……い、いやぁ、遠慮しておきます」
腰をクイクイやってみせるトールさんに必死にお断りすると笑い声が上がった。
食事も済んでスカサハさんとは明日の朝に冒険者ギルド前で待ち合わせの約束をして、トールさん、ガラナさん、コークさんとペップさんに別れを済ませた僕は、ゲッコとガーゴを連れてアラスカと宿屋へ向かい、離れの馬小屋にゲッコとガーゴをステイさせてから自分たちの部屋に戻って、久しぶりの2人きりになったんだけど……
酒場を出てからアラスカが一言も僕と喋らなかったのが気になる。
今だってベッドに腰を下ろして僕の事を黙り込んで見ているだけだ。
「どうしたの? さっきからずっと黙り込んじゃって」
返事が返ってこない。 僕が何かアラスカを怒らせるような事をした?
でもアラスカの顔を見る限りでは怒っているようには見えなくて、なんていうか……むくれているっていうか? むくれているだとやっぱり怒っている事になっちゃうんだけど……
「その……自己嫌悪に陥っているのだ」
「うん? じゃあ怒っているんじゃないんだよね?」
「怒ってなんかいない! わ、私は……君の事を独占したいと思っている事に自己嫌悪しているだけだ……」
独占したいって、僕とアラスカは夫婦なんだから当たり前だと思うんだけどな?
「私は……マスターのように何人目の妻というのは嫌なんだ!」
ああ……そういうことか。
アラスカの横に腰を下ろして肩を抱き寄せると、抵抗することなく僕に寄りかかってくる。
「安心して。 僕の妻はアラスカだけだよ」
「その言葉、信じていいのだな?」
「もちろん!」
「私のいない間に他の女と、その……関係を持たれるのも嬉しくない……」
これはさすがに了承しにくいかもしれない。 だって……
僕が返答に困るとキャロが姿を見せてくる。 しばらく生気を吸っていなかったけど、姿も出さなかったからか未だに実在するように見えるほどハッキリした姿を見せている。
ただし、ふわふわ浮いていなければだけど。
“たぶんマイセンってば私のことを心配しているんでしょ? 私のことなら霊だけに例外だから大丈夫よ? アラスカさんが心配しているのは、スカサハってドラウのことよ? 鈍感マイセン”
そういうことか。
まさかスカサハさんが僕に対してそんな気持ちがあるわけない。 仮にあったとしても、スカサハさんが好むようなプレイは僕はゴメンだ。
「ははは……ないない、それは絶対にないって。 キャロもなんだか久しぶりな感じだね」
“まぁ迷宮に潜っていたんだから仕方がないわ”
少し落ち着いたのかアラスカも話に加わってきて、アラスカがいない間に僕が何処ぞの女に手をださないようにキャロにお願いしはじめて、キャロもそんなことがあれば相手を驚かして追い払うなんて話で盛り上がり始めた。
「僕ってそんなに信用ないのかな?」
ついボソッと口から出るとアラスカとキャロが慌てて冗談だって笑いながら答えてくる。
そこでアラスカが真剣な表情に戻って、僕にくれぐれも気をつけるようにと、特にニークアヴォにだけは絶対に出会うことがあったとしても挑まないように注意された。
「大丈夫だよ、だって2度と会うことはないって言っていたじゃないか。 それでももし出会うことがあるようなら……ニークアヴォには気配がある以上、『気』を絶ってやる!」
そう、ニークアヴォには気配がある。 それははじめてニークアヴォを見たときに感じ取れた。 ならば気配が読めるのであれば、僕は神様だって殺してみせる。
「それをやめてほしいのだ。 あなたは既にニークアヴォに居合斬りを見せている。 仮にも元は神で神算鬼謀の持ち主だ。 その策略はキャビン魔導王国の女王をも優に凌駕する。 加えて武器を交えた私が一番よくわかるが、ニークアヴォは私をあっけなく倒したほど白兵戦にも長けていた」
最後の方は悔しそうに口にしていた。
ちなみにキャビン魔導王国の女王というのはキャビンの血と言われていて、歴代の女王はウィザードとしての能力はもちろんのこと、頭もずば抜けて良いんだとか。
「わかったよ、ニークアヴォと出くわしても戦わない。 それないいんだね?」
「ああ……是非そうしてほしい……だが、な……真剣な話をしている時に……くっ……そういうことはやめて、ん! ほしい」
「そういうことって?」
“マイセン、そういうの変態おやじ臭いよ?”
「ぐふぁ!」
といいつつも、そのあとはアラスカとたっぷり愛しあう。
これでしばらく会えなくなると思うと、いつも以上に歯止めが効かなくなって、気がついた時にはキャロはいなくなっていた。
こうしてしばらく会えなくなる夜は更けていくのだった。
次話更新は今週の水曜日を予定しています。
あらすじの更新もままならない状況で申し訳ありません……




