チェシャ
僕が話に行こうとすると、コークさんが「俺から話をするよ」といって猫の獣人の女の子の元へ向かっていく。
しばらくすると案の定泣き声が聞こえてきた。
コークさんが僕の方を向いてきて、ドッグタグをと言われて女の子に手渡して何か声をかけるべきか迷っていたら、アラスカが僕の肩に手を乗せてきて首を振ってくる。
「私たちにできることはそっとしておいてあげることだ。私たちにどうこうできることではないし、冒険者という道を歩めばこういう事は起こり得るものなのだからな」
冷たいな、正直そう思った。
コークさんたちに別れを告げて冒険者ギルドを出て行き、なんだか重い雰囲気になっている。
「冷たいと思ったか?」
冒険者ギルドを出て早々にアラスカが聞いてくる。 なので頷いてみせるとアラスカが理由を話だそうとした時だった。
「分配がまだなんだが?」
すっかり状況が状況だったせいで忘れていた。
スカサハさんがついてきていて、片手を差し出している。
謝りながら宝箱から得た小袋を取り出そうとして無いことに気づき、焦って持ち物全てを調べ出そうとしたらアラスカが笑いだした。
「何がおかしいんだよ!」
ちょっとムッとして言うとアラスカが指差していて、そちらに顔を向けるとスカサハさんがいるだけだ。
「お主が思っている以上にあの小娘はしたたかだぞ」
そう言って空いた手に僕の小袋を持って見せてきた。
「まったく、お前さんの甘さが心配じゃよ」
そういって猫の獣人の女の子がトールさんに引きずられながら連れてこられた。
まるでさっき泣いていたのが嘘のようで、今はトールさんに逃げられないように掴まれながらバタバタ暴れている。
「手癖の悪さは盗賊のサガにゃりよ」
「私も盗賊なんでな、お主と同類扱いされるのは少しばかり許せんぞ?」
「うな! 猫獣人のサガにゃ!」
「それを他の猫獣人の前でも言えるか是非試してみたいものじゃのぉ」
「うなっ!? た、達成感を得たかったにゃりよ……」
「では見つかってしまった以上覚悟はできている、という事だな?」
「うな! 嫌にゃ、奴隷落ちだけは嫌にゃー!」
次々と墓穴を掘っていく姿は可愛らしく見えなくもないけど、盗んだ事実に変わりない。
アラスカが僕に視線を移してきて、これが冒険者ギルドを出た理由だと言ってくるけど意味がわからない。
「もし冒険者ギルドでまた盗み騒ぎが起きたら、今度こそ本当にあの子は奴隷落ちだった」
つまり冒険者ギルドを出たのはアラスカの優しさだったようだ。
それにしたって今までよく無事だったと感心して聞いてみると、今までは亡くなったお兄さんが尻拭いをしてくれていたらしい。
そうなると今後も繰り返せば間違いなく遠くない未来に犯罪者として捕まり、奴隷落ちもない話ではなくなる。
アラスカもその事を猫獣人の女の子に説明して、盗みをやめておとなしく生きるようにと説いていた。
「家族も親戚もお金もないのにどうやって生きるにゃりお!」
「「「働け」」」
アラスカ、スカサハさん、トールさんが同時に同じ事を口にする。
「はう! じゃあ泥棒さんを……」
「やはり今のうちに捕らえておくべきか?」
すっかり蚊帳の外になっている僕は、お金なんかが入っていた袋も無事に返ってきていたため暇になっていた。
ゲッコとガーゴも言葉が理解できないから退屈そうに辺りをキョロキョロしている。
「君はどうしたいの?」
いい加減に飽きてきて僕が話を終わらせようとすると……
「一緒に連れてって欲しいにゃり」
「一緒にって……君は戦えるの?」
「猫だから盗みと逃げるのと隠れるのは得意にゃりお?」
今も十分盗みを失敗していて逃げ切る前につかまっていると思うんだけどなぁ。
かといってこのまま放っておくなんて僕にはできないし……
「じゃあ約束を守れるならいいよ」
「マイセン!?」
「本当にゃりか! 守るにゃりよ!」
「このままじゃラチがあかないし、どこかで奴隷落ちした姿を見たりするのは嫌だし、それに、あの子もこれで僕と同じ孤児になっちゃったからね、放ってはおけないよ」
アラスカが微妙な顔を見せたあと、ため息をついてから笑顔を向ける。
「私は君の妻だ。 君が決めた事に従うよ」
「ありがとうアラスカ」
そして残る2人を目を向けると、
「私はパーティ解散すればそれで終わりの関係だ。 好きにするがいいさ」
「そうじゃのぉ」
というわけで話は決まり、改めてまだ聞いてなかった名前なんかを尋ねてみる。
「名前はチェシャにゃ。 面倒なら猫でもいいにゃり。 年齢は13歳にゃりよ」
う……ま、まだ成人してないじゃん。
仲間に目をやるとお前が決めたんだろうとでも言いたげな顔を見せてきた。
「はぁ……仕方がないな。 私が弟子にとってやる。 その代わり日々鍛錬してもらうからな」
「わかったにゃりよ!」
こうしてチェシャ……猫ちゃんが僕らの仲間に加わる。
って、あれ? でも今後どうするかなんて決まってないじゃん。
「まぁ飯でも食いながら先の事は話せばいいじゃろう?」
気がついたのかトールさんが僕の肩に手を乗せてウインクして見せてくる。
「そうですね」
僕たちが冒険者ギルドの前から立ち去ろうとした時にコークさんたちが姿を見せて、何か話したい事があるようだから一緒に酒場へ向かう事になった。
所用がありまして次話更新が少し遅れます。
毎日楽しみに待ってくれている方たちには申し訳ありません。
次話更新ははっきりとした日にちは未定になりますが、今週末までには更新できると思います。




