ニークアヴォの仕掛けた罠
宝箱の中にはゼノモーフの卵が敷き詰められていた。
卵の数は6個、これは大抵パーティを組む際の人数分で明らかに狙って仕込んだものだろう。
「すぐに離れて! 卵から出てきた奴に顔に張り付かれないようにしてください!」
僕は後方に飛び下がりながらスカサハさんとみんなにも聞こえるように大声で叫んだ。
飛び離れる瞬間、卵が十文字に口を開いてフェイスハガーが飛び出して1匹は僕に飛びかかり、もう1匹はスカサハさんに襲いかかる。
残る4匹は地面をものすごい速さで走りながら獲物を求めて動きだした。
「ハッ!」
飛びすさりながら居合斬りを放って、僕に向かってきたフェイスハガーの『気』を絶つ。
体勢を崩しながら着地して、『気』が消えているのを確認してから僕の近くを見回す。
スカサハさんに襲いかかってきたフェイスハガーを次元扉で回避すると、代わりに僕にフォローして近くにいたガーゴの顔に張り付こうと飛びかかっていった。
ゲッコとガーゴが槍を構えたのを見て慌てて『ガード』命令を出す。
『ガード』命令は攻撃をしないで身を守らせるもので、ゲッコとガーゴは命令を守りはしたものの不満そうにグアグア抗議の声をあげる。
ならば論より証拠とばかりに『気』でフェイスハガーを絶つと強酸が飛び散り、触れた箇所がジュウジュウ音を立てて泡立った。
それを見たゲッコとガーゴがおそらく驚いた顔を見せた後、口を半開きにさせたまま僕に頭を下げてくるのを見て、ちょっぴり可愛いと思ったのは内緒だ。
残る4匹はどうなったか見回すと1匹はアラスカが仕留めたようだけど、残る3匹はペップさんに張り付いてコークさんが知らずに必死に引き剥がそうとしていて、トールさんも顔に張りつかれていた。
「ヴオォォォォォォォォォォォォォ!!」
ガラナさんは指のような足をワキワキさせながら、すでに首に巻きついた尻尾のようなもので張り付こうとしてくるフェイスハガーを、地の底から響いてくるような雄叫びをあげながら両手で掴んで食い止めていた。
顔は見えなかったけどきっと物凄い形相をしているんだろう。
僕はそんな必死に食い止めていたおかげで間に合うガラナさんのフェイスハガーを居合斬りで『気』を絶って救出する。
「助かった、ありがとう」
2メートルは優にあるガラナさんが片言っぽい口調でお礼を言ってくる。
おそらく間に合わなかったであろうペップさんとトールさんの元に駆け寄ると、アラスカがコークさんとスカサハさんにどういうことかを説明しているところだった。
「つまり、もうペップは助からないということか……」
同郷の友人の姿にガックリと肩を落としたコークさんに、アラスカはさらに次の選択を迫る。
「今意識のないうちに楽にしてあげるか、それとも胸をつきやぶられる直前まで待ってやるか決めるといい」
このさらなる選択にコークさんがついに涙をこぼしてしまう。
アラスカはそこで一旦離れてコークさんとガラナさんに選択を任せると、僕とスカサハさんとでトールさんの元に向かう。
「どうするマイセン」
判断を僕に尋ねてきて、顔にフェイスハガーが張り付いて倒れているトールさんを眺める。
「せめてトールさんが無事だったら助けられたんだけどね……」
「お主それは……どういう事だ?」
フェイスハガーが胸のあたりにフィストバスターを植えつけて、成長した後に胸を突き破って出てくる瞬間にショック死しないでいられれば治療魔法で助けられることを説明すると、スカサハさんは顔を引きつらせながら頷いてくる。
「つまり、儂より先にあちらさんの胸からフィストバスターというのが飛び出てくれば救える可能性はあるというわけじゃな?」
ぐむぅ、と声を出しながら身体を起こして、顔に張り付いたフェイスハガーをどかしたトールさんが僕に聞いてきた。
「トールさん!」
大丈夫じゃとでも言うように手をあげると立ちあがって1人コークさんの元に向かいだした。
「凄いな……トールさんは」
「ああ、自分は死ぬとわかりながらも、それでも救えるものがいれば救おうとしている」
ここでスカサハさんが落ち込んでいるのに気がついて声をかけると、あの時宝箱を開けた自分のせいだって自分を責めていた。
「ここでは部屋に出る魔物を倒せば宝箱があるというのは当たり前の事なんですから、いずれは誰かがこうなっていたに違いありませんよ」
そうだ、もしもコークさんたちのパーティがあの悪鬼を倒していれば、未然に防ぐ事もできずに僕たちの知らないところでゼノモーフが誕生していた事になる。
「お主は……優しいのだな」
スカサハさんがそういってくると、なぜか僕の後ろに立っているアラスカから殺気が感じられる気がした。
それにしてもこの宝箱に仕込んだのは間違いなくニークアヴォだろう。
僕はゲッコとガーゴにステイさせて、アラスカの手を取ってみんなから離れた場所に連れて行く。
「少し嫌な予感がするんだ」
僕の思っている事をアラスカに話す。
それは今回のようにもし世界各地でもゼノモーフの卵を用意されていたら大変な事になるんじゃないかという事だ。
「確かに十分考えられるな。 こいつらの増える速度は異常な速さだし、これといった対策も取りようがない」
「だから思ったんだ。 迷宮の謎は解けない事になるけど、サハラ様に少しでも早く報告したほうがいいんじゃないかって、どうかな?」
アラスカが僕のことを真っ直ぐに見つめてきて頷いてくる。
「あなたは私の自慢の夫だ」
アラスカが2人きりの時にだけ見せる可愛らしい表情でそう言ってきた。
そうと決まって僕はサハラ様から貰った指輪を教わった通りに使う事にした。
次話更新は明日の予定です。




