互いを知り合う
「あ……」
僕の番と思っていた扉は1階層の最後で、いわゆる階層主がいる場所になってしまう。
まぁ……別にいいか。
順番待ちをしている他の冒険者たちの列に加わって待つことしばらくして僕らの番になる。
「それじゃあ行きます!」
扉の先に気配は4体。 勢いよく中に入り込むと、そこにはゲッコとガーゴを見た後だと小さく貧相に見えるトログロダイトが待ち構えていて、先頭の僕の姿を見るなり前回の時同様槍を投げつけようと構えてくる。
今回は1人ではなく後から仲間が続いて入ってきているため、一度下がって扉を閉めるなんてこともできない。
ほぼ無意識に近い状態で刀の鯉口を切って上段の構えから振り下ろして衝撃波を放った。
「ハァッ!」
霊峰のダンジョンとは違い、石壁でできた迷宮の床の上を『気』の衝撃波が、まるで暴風が吹き抜けるような勢いで槍を今にも投げようとするトログロダイトたちを襲いかかり、吹き飛ばして衝撃波で切り刻んでいく。
「ふぅ、間に合った」
そう言って振り返るとアラスカ以外の仲間が目を見開いて僕のことを見ている。
ゲッコとガーゴも口を半開きにしながら縦に割れた瞳孔が大きく開いていて、驚いているのが見て取れた。
「なんじゃそりゃーーーー!!」
立ち直ったトールさんが雄叫びをあげて、その大きな声が耳に響いて痛い。
「今のがお前さんの『気』斬りというやつか?」
「まぁそのうちの1つです」
「ほぉ、そのうちの1つときたか……お主は私の好む可能性溢れる存在のようだな」
「こ、好む!? 痛っ!」
アラスカが僕の足を蹴ってくる。
案外嫉妬深いんだなと思いつつ、手を擦り合わせて謝っておく。
「好む……といっても色恋沙汰という意味ではないぞ?……いや、それもいいかもしれんな。 お主のような男を縛り、拷問しながら蹂躙してみる、というのも一興か?」
口元を歪ませながら見つめてくる顔に、背筋に冷たいものがヒヤリと流れる。
「ぼ、僕にはアラスカという妻がいますので、その、遠慮させてもらいます」
どこかで聞いたことがある。 ドラウはその昔、人種に加わる前までは女尊男卑の社会で、男性はみんな奴隷同然のような扱いなのだと……
人種に加わって未だ100年程度ではその性質の根底は変わっていないみたいだ。
スカサハさんはフッと笑うと部屋の隅にある宝箱へ向かっていく。
「君という奴は節操はないのか!」
「別にそんなつもりはないよ。 僕にはアラスカだけだよ」
そうハッキリ答えるとアラスカは口ごもりだして、「そ、そうか、それならばいい」なんて照れてくる。
「儂もお前さんみたいな男は好きじゃぞ」
ト、トールさんってば、そっち系ですか!? そっち系だったんですか!?
身の危険を感じてアラスカを抱き寄せて苦笑いを浮かべながらやんわりお断りしておく。
「ううむ、性別なぞ子が出来るか出来ないかの違い程度で穴ならどちらにもあるというのにのぉ……」
ひぃぃぃぃ!!
トールさんの身の毛もよだつ恐ろしい言葉に、慌てて空いた手で自分のお尻をおさえる。
今更ながら僕はとんでもない人たちとパーティを組んでしまったんじゃないだろうかと心配になったのは言うまでもない。
1階層の最後の部屋を抜けて、下の階層につながる階段を降りていく。
特に迷宮の作りに変わったところはなく、ただ1階層の魔物よりは少しばかり数が多くなったり、強目の魔物が出るようになった気はするけど難なく先へと進んでいく。
意外だったのはゲッコとガーゴが思っていた以上に戦えることで、1体であればオーガとも渡りあえることとその表皮を覆う鱗は硬いだけではなく、人種よりも酸や熱や冷気などにも強く、そして怪我をしても治癒速度が早いようだ。
「次の部屋をやったら一息つかんか? そろそろ腹が減ってきたわい」
トールさんに言われて気がついて今いるデプスを確認すると、すでにデプス2の半ばまで来ているらしかった。
「初めてで半日でここまで来た奴はそうはおらんし十分じゃろう」
「わかりました、次で休憩に入りましょう」
というわけであっさりと部屋にいた魔物を排除して休憩する事に。
「しかし本当にお前さんの『気』斬りは凄いのぉ、なにしろ魔物に刃が触れてない」
ここまで来る間に連携の練習をしながらだったため、最初の衝撃波以降は通常の『気』で斬る戦いしかしていない。
それでも初めて見たトールさんとスカサハさんには十分だったみたいだ。
食事を済ませたあと、パーティを組んで初めてノンビリと親睦を深めるために思い思いの相手と話をしはじめる。
僕はトールさんと、アラスカはスカサハさんとで、ゲッコとガーゴはキャロが相手をしてくれていた。
「……でじゃなドワーフの場合は、こう後ろから髭を掴んで引っ張るようにしてするのが最高なんじゃよ!」
「トールさんは本当に神官なんですか!」
「お互い合意の上であれば問題なかろう。 儂は……」
「そうじゃなくて、そういった会話自体の事を言ってるんです!」
「お前さん、ちと神官に幻想を抱きすぎじゃぞ?」
とまぁとんでもない話を聞かされていたんだけど、その中で僕は気がついていた。
それは、トールさんは会話の中で一度たりとも相手の性別を口にはしていなかった事に……
ちなみに交代で見張りの時の僕が休む番が来た時だ。
“それじゃあ生気を貰うわね”
「うん」
いつものようなイメージでいた僕にキャロが触れてくる。
実際には触られた感覚とは違うけど、とんでもなく冷たいキャロの手が触ってきて、僕の身体から何かが吸いとられている感覚に変な声が出る。
“やだ、そんなキモい声出さないでよ”
「そんなこと言ったってぇぇぇ、あひょぉぉぉぉぉぉぉ!」
結論、いつもの方がいいです……
次話更新は明日の予定です。




