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スリをした理由

 宿屋の主人が訝しげな表情で見つめてくる。



「お客様、いくら7つ星の騎士団の方であろうと無銭宿泊は困るんですがねぇ」


 あう、どうしよう。 あそこに全財産を入れてあったのに……


 と心配したのもつかの間、アラスカが主人に支払ってくれた。



「ごめんアラスカ」

「それは構わないが、これで私もほぼ文無しだ。 場合によっては明日、仲間の募集は早めに切り上げて迷宮に向かった方がいいかもしれない」


 ここの迷宮は生きる分には困らない程度には稼げるって笑顔を見せてくれたけど、僕は自分の愚かさのせいで妻に迷惑をかけてしまった事に情けなさでいっぱいだった。




 部屋に戻った僕はアラスカに接触した相手で怪しかった猫の女獣人の事を話してみると、冒険者である確認や名前を聞いておかなかった失敗点を挙げていかれ、情けなさに頭が下がってしまう。



「まぁ仕方があるまい。 相手もそれを生業にしているのだから、防ぐのは容易いものではないよ」


 慰めの言葉をくれるけど、それはそれで凹むよ……


 その日の夜はさすがに自分の愚かさ後悔しながら丸くなって横になってたら、アラスカが後ろから優しく抱きしめてきてくれてそのまま眠りについた。




 翌朝、朝食を済ませてゲッコとガーゴには離れの馬小屋で『ステイ』をしてアラスカと宿屋を出た。



「なんで7つ星の騎士団の外套を着ているの?」

「霊峰の町であれば、君の名前で十分だがここは迷宮の町だ。 昨日のスリだって霊峰の町であれば君に手を出す愚か者はいなかったはずだ。 それと依頼主が依頼主でもあるしな」


 7つ星の騎士団の外套を着た時はくっついたりするのを結婚式の時に禁止されているから、横並びに歩きながら冒険者ギルドに向かう。


 冒険者ギルドの前まで来るとアラスカはここで待っている、と中へは入らないようだ。


 冒険者ギルドに入ると中は霊峰の町の冒険者ギルドみたいに混んでいなくて、10名程度の冒険者がいるだけだった。


 そんななか僕は受付に向かうと、昨日依頼をお願いしたお姉さんがいたから声をかける。



「あの、昨日依頼を出した……」

「はい、マイセンさん承っております。 今あちらで待機している方々が、希望者とギルドで推薦する冒険者です」


 全員冒険者ギルドに登録していて身元も保証できるということで、早速ギルド職員のお姉さんと一緒に向かい紹介してくれる。


 最後の1人の紹介で僕は目を見開く。

 その人物こそ昨日声をかけてきた猫獣人の女の子で、手元にチラ見せするように僕のお金を入れていた袋を持っていた。



「あっ!」

「うわぁい、ご指名ありがとうにゃりよ!」


 くるくる回りながら僕の側に近寄ってきてお金の袋をこっそり手渡してきて、耳元で小さく声をかけてくる。



「中身は見てにゃいし、取ってにゃいにゃりよ」


 作戦成功とでも言わんばかりに喜んでいるようだけど、こんな人の物を盗むような子を仲間になんてできない。



「僕の財布を盗んでおいて仲間にしてほしいなんて無理な話です!」

「うにゃ! それをここで言うにゃりか! 手癖の悪さは盗賊(シーフ)のサガにゃりおー!」


 叫ぶなり逃げだそうとする。


 ギルド職員のお姉さんも理解したのか警笛を鳴らして捕まえるように叫ぶも、身軽な猫獣人の女の子は出入り口に軽やかに向かって逃げだそうとする。



「そこまでだ!」


 そこへアラスカが7つ星の剣を手に出入り口に姿を見せると、猫獣人の女の子は動きが止まった。



「にゃ! にゃんでこんなところに7つ星の騎士がいるにゃあ!」




 というわけでさすが7つ星の騎士団の効果とでも言うのか、猫獣人の女の子は諦めたようにその場に座り込んでしまう。



「これで奴隷落ち確定だにゃあぁぁぁぁ!!」


 泣き出してしまった。


 自業自得とはいえ、カルラを見ているから奴隷落ちはさすがに可哀想になる。


 アラスカを見ると、容赦なく引っ捕らえて冒険者ギルド職員に引き渡そうとしていて、猫獣人の女の子もベソをかきながらおとなしくなっている。



「ちょっと待ってください!」


 僕がそう言うと動きを止めて僕を見てきて、アラスカもやれやれと呆れた顔を見せている。

 猫獣人の女の子の側にいってなんでこんな事をしてまで加わりたかったか尋ねてみると、ヒックヒックと鼻を啜りながら理由を説明しはじめた。


 それによると、猫獣人の女の子のお兄さんが、迷宮に潜ったまま帰らないらしく探しに行きたかったらしい。


 それを聞くとさすがに可哀想に思ったんだけど、アラスカがその兄の名前を訪ねてギルド職員のお姉さんに確認をしてもらっている。



「間違いありません。 確かに迷宮探索組のチームの1人です」

「そうか……」


 どうする? とでも言いたげに僕を見てきて、僕はそういう理由があったのなら許してあげることにした。



「ありがとうにゃりよ! それで……一緒に連れてってほしいにゃり……」


 許したからといって一緒に連れて行くかは別だ。



「迷宮探索はした事あるの?」

「1階層だけにゃり……」

「それだとさすがに厳しいなぁ。 じゃあこうしよう、集まってくれた冒険者の中に良さそうな人がいなかったら、その時はお願いする。 もし別にいたら君のお兄さんは探索ついでに探してあげるよ。 それでいいかな?」

「……わかったにゃりを」



 というわけで改めて集まってくれた冒険者に、まずは神官と盗賊(シーフ)に分かれてもらって、人選はアラスカと一緒に大雑把に説明しながら話をした。



 結果、神官は頑強な男のドワーフ族で【鍛冶の神スミス&トニー】を信仰トールさんに決まり、盗賊(シーフ)は女のドラウのスカサハさんが選ばれる。

 2人とも熟練した冒険者のようであった事と、特にスカサハさんは女のドラウ特有のソーサラー能力も所有しているからだった。



「ごめん、君のお兄さんはちゃんと探すから待っててくれるかな?」

「わかったにゃりを……」


 一緒に来てくれる仲間が決まった僕たちは、早速2人とギルドの一室を借りて詳しい話をすることにした。




次話更新は明日です。

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