依頼される
キャロの通訳でリザードマンたちと意思疎通が叶う。
それによりわかったことは、一騎打ちをした際に剣圧で叩き潰したつもりだったのが、リザードマンたちには強制的にひれ伏せさせたと思ったらしい。
そしてその実力に感服して、僕のお供というか、主君として付き従いたいと改めて片膝をついて頭を下げてくる。
「どうしよう……」
「私を頼るように見るな。 君がしでかしたことだろう?」
“マイセンはどうしたいの?”
うーん、アラスカの話では屈服した魔物を解放することもできるけど、やはり魔物は魔物。
それが原因で後々被害が出たりするのを危惧しているようだ。
だからと言ってこうも平服しているリザードマンを殺したりなんて僕には到底できっこないしそんな事はしたくない。
なのでキャロに通訳して、人種社会の最低限守るべきルールを守ってもらうように伝えてもらう……のだけど。
“できる限りは守るようだけど、リザードマンの誇りにかけて挑まれた戦いには応じるのが礼儀だとか言ってるわよ”
他にもいくつかあるけど、リザードマン社会でのルールで曲げれないものもあるようだ。
「じゃあ今から言う言葉だけ覚えてもらおう!」
というわけで、僕はリザードマンと意思疎通ができない代わりに指示だけはできるようにと幾つかの言葉を教える。
もっとも教えるのはキャロなんだけどね。
なんとかこれでリザードマンの件が終わったところで、アラスカに迷宮で気になった事を尋ねてみる。
そうするとアラスカも迷宮には過去に行ったことがあるみたいだけど、変化することまではそれが当たり前だと思っていたから気にもとめていなかったらしく、僕の指摘で改めて感じるところがあるのか「少し考えさせてくれ」となにやら考えはじめだしてしまった。
そうなると僕は暇になってしまい、キャロの通訳の元にリザードマンたちの名前を聞いてみたりして、情報をあるめてみると幾つかわかった部分が出てきた。
名前はゲッコとガーゴらしいけど、はっきりいってどっちがゲッコでどっちがガーゴなのか僕にはわからない。
キャロの通訳でかろうじて違いを教えてもらってやっとわかったようなわかってないような……
そしてゲッコとガーゴはリザードマンの集落に住んでいたところ、突然迷宮の中に転移させられて僕と出会ったのだそうだ。
「それってよく悠長に構えていられるよね。 だって突然迷宮に転移させられて、場合によっては殺されたかもしれないんだよ?」
“そうね、これがもし自分だったらって考えるとゾッとする……え?”
「どうしたのキャロ?」
“えっとね、リザードマンたちの間ではこの現象は誉れな事らしいよ”
どうやらリザードマンたちの間では神隠しと言われているらしく、竜神様に選ばれし者なんだとか?
そこでふと竜神様が誰か気になってキャロに聞いてもらうと、答えは思った通り赤帝竜様だった。
「少し出てくる」
突然アラスカが有無を言わさぬ勢いで出て行こうとするから、慌てて僕はどうしたらいいのか尋ねた。
なにしろ言葉の通じないリザードマン2体と会話をするには、それ以上に見られるわけにはいかないゴーストのキャロが必要となる。
「安心してくれ。 そう時間はかからないで戻れるはずだ」
微笑みながら部屋を出て行ってしまった。
つまりここから出るなって事なんだろうけど、そうすると戻ってくるまで暇になってしまう。
今更ながら軽はずみな考えで迷宮に入った事をちょっとだけ後悔した。
キャロは長時間姿を出していられないからすでに刀に戻ってしまい、残った僕とゲッコとガーゴだけになって微妙な空気の中、部屋で小一時間ほど経った頃にアラスカが戻ってきて、その後をサハラ様と赤帝竜様が続いてきた。
「おかえり! っと、サハラ様と赤帝竜様!?」
僕が名前を言うとゲッコとガーゴがすごい勢いで後から来た2人に視線を送る。
そりゃ神様と同じ名前を呼んだら驚くはずだよね。 もっとも同じ、ではなく本人なのだけど。
「話はアラスカから聞かせてもらった。 リザードマンはマイセンに判断は任せることにして、迷宮の方はアラスカとマイセンで調査をお願い……いや、依頼したい。 ここには少しばかり苦い思い出があってね、俺は出来れば関わりたくないんだ」
はははってなんか苦笑いを浮かべながらサハラ様が言ってくる。 理由を口にしないって事は言いたくないんだろうから、とりあえずゲッコとガーゴをどうするかだけど……
「ゲッコとガーゴはどうしたいのか2人の判断に任せたいと思います」
サハラ様が赤帝竜様に何かを言うとゲッコとガーゴがつかってるようなグアグアと赤帝竜様も喋り出して2人と話しているようだ。
「ふむ……こいつらは貴様を主君と認めたから、出来れば同行したいと言ってるぞ」
「わかりました。 でも迷宮の調査は危険じゃないですか? こう言ってはなんですがデプス1で出てきたって事は、実力もそのぐらいしかないとなると死んじゃうかもしれません」
「リザードマン族はある意味バカな種族だ。 奇襲などを卑劣としたり、戦う相手に礼儀なんかを大切にしている。 だから戦いで死ぬのであれば本望だろうから、貴様が気にやむ必要はない」
うーん……それってバカなんだろうか。
「赤帝竜そういうのを正々堂々と言うもんだぞ? まぁ融通が利かないっていう意味ではわからなくもないけどな」
サハラ様も褒めてるんだか貶してるんだかわからないんですが……
何はともあれ、僕たちは迷宮探索を任されてしまう。 深追いだけはしないように注意されて、サハラ様がアラスカに指輪を手渡そうとしたところで手を止めて僕に指輪を渡してきた。
「俺と連絡を取れる指輪だ。 人妻になったアラスカに渡すよりも、こういうのは旦那に渡すべきだな。
報酬は後払いだ」
片目をつぶりながらそう言ってくる。
指輪の能力は1度きりのものらしいから、調査終了か行き詰まったところで連絡をするように言われてサハラ様と赤帝竜様は行ってしまった。
次話更新は明日の予定です。




