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屈服

 部屋に入ると人型の魔物が2体いて、緑の鱗に短い牙がむき出しの鼻先を備え、ワニに似た顔と太い尾があるリザードマンがいた。


 迷宮で最初にあったのはリザードマンに似ていたけど少し違って、今度のは間違いなく実物を見るのは初めてだけどリザードマンだ。

 あとでアラスカが教えてくれたけど、最初に見たのはトログロダイトという魔物らしい。



 リザードマンは僕の姿を見ると、その2メートルはあるずんぐりとした巨体に手に持つ槍を構えて、グアグアと話しかけているようだけど言葉がわからない。


 すると身振りで(キャロン)を指差してきて、リザードマンの持つ槍を(キャロン)に見立てて抜くようなポーズを見せてきた。


 (キャロン)を抜いていないからだろうか、僕が(キャロン)の鯉口を切って抜くと片方のリザードマンが前に出てきて、もう1体は後ろに下がる。

 どうやら僕と一騎打ちを求めているようだ。



 (キャロン)を抜いて構えると、リザードマンが頭を下げてくる。

 全く意味がわからないけど、同じように真似をすると槍を構えて見合う形になる。


 リザードマンは誇り高いっていうのは聞いていたけど、いざこうして対峙するとその意味がよくわかった。




 とは言ったところで、デプス1でしかも気配が読めれば僕にとって敵ではない。

 リザードマンの槍による突きを躱しながら、間合いを詰めていく。 しかしリザードマンも槍という武器の特性上、僕が間合いを詰めようとすると見た目よりも素早い動作で距離を取ってなかなか近づけない。



 だから威力を抑えた剣圧(ソードプレッシャー)を放つ。 理由はなんだか正々堂々と挑んできた相手に失礼に思ったからだ。


 剣圧(ソードプレッシャー)の圧力で地面に叩き潰されたリザードマンは、表情こそわからないけどきっと驚いた顔をしているんだろう。

 起き上がらないで顔を僕に向けたまま口をあんぐりと開けている。 ついでに後ろに下がって見ていたリザードマンも同様だ。



 やっぱり卑怯だったのかなと心配もしたけど、立ち上がったリザードマンが槍を手放して頭を下げてきたじゃないですか……

 当然後ろに下がっていたリザードマンも同様だ。



 これって降伏っていう意味なのかな?


 さすがに敵意がなくなった相手を攻撃する気にはなれないから、警戒は怠らずに(キャロン)を鞘に収めたまでは良かったものの、この迷宮のシステム上問題ないのか心配になってくる。



 とりあえず入ってきた扉の先には気配を感じないから、そのまま部屋を出て後から来るであろう冒険者に任せることにした。



 ………………はい!?


 先に進む扉を開けて出ようとするとリザードマン2体も、槍は手に持っているけど矛先は向けてこないで僕の後をついてくる。


 わけがわからないけどそのまま部屋を出ると、リザードマンたちも部屋を一緒に出てきてしまう。

 


「えっと、どういう事?」


 言葉はわからないけど、僕の言いたい事がわかったのか2体とも片膝をついて頭を下げて敬意を表しているようだ。


 まさかこれって、ずっと僕についてくる気でいるのかな……




 ひとまずもう少し先へ進むと僕の前に部屋に入った冒険者たちが休んでいて、僕の姿を見て親指を立ててくる。

 そして僕の後にリザードマンがついてきているのを見ると驚きの声をあげてきた。



 その冒険者たちの話によると、僕はどうやら2体のリザードマンを屈服させたのらしい。

 もちろんそんなつもりはなかったんだけど。

 で、もしいらないというのであれば、決別……つまり殺さなくてはいけないんだそうだ。


 こんな事はそうそうあるものなのか尋ねると、魔物の屈服はやりたくて簡単にできるものじゃないらしい。

 少なくともそれ相応の実力を示すなどして、相手を納得させなければいけないんだとか。


 振り返ってリザードマンを見るとおとなしく控えていて、そんな2体を殺すなんて僕には到底できない。


 いろいろと町では不都合も出るらしいけど、屈服させたのなら連れても問題ないらしい。

 正直らしいだらけで不安はあったけど、ひとまずこのまま連れ帰ってアラスカにどうするか聞く事にしよう。


 ……やっぱり怒られちゃうかな。





 他の冒険者と一緒に帰り道のルートをついて戻った僕は、2体のリザードマンを連れて町へと戻っていく。


 町中に入ると、リザードマンを連れた僕を見て驚かれているんだか、好奇の目で見られているのか、とにかく注目を集める。


 宿屋について中に入ろうとしたところで宿屋の主人にやっぱり止められてしまうんだけど、相手が相手だけに馬小屋に行かせるわけにもいかないようだ。

 そうこうしていると兵士たちが姿を現れて、だんだんと大事になってきた。


 規定では屈服した魔物であれば連れても問題は無いとされているらしいけど、過去に屈服させて魔物を自在に操った人物というのは、マルボロ王国の女王ララノア様のグリフィンだけだそうで、それ以外に前例が無いそうだ。



「ん? マイセン戻ったのか」


 そこへ騒ぎを聞きつけてかアラスカが姿を見せ、兵士たちの姿を見てカバンから7つ星の騎士団の証である外套を羽織りながら近づいてきた。



 ひとまず僕にではなく兵士や宿屋の主人に話を聞いたあと、僕の事をじと目で見ながら大きくため息をつかれてしまう。



「観光にとは言ったが、迷宮にと言った覚えは無いはずだが」

「あはは……ごめん、つい覗きに行っちゃったよ」


 おでこを押さえながら僕の後ろに控えているリザードマン2体をしっかり見ていた。



「あとの事は7つ星の騎士団、評議員アラスカに預からせてもらう」


 7つ星の騎士とアラスカの名前を聞いて兵士たちは驚いた顔を見せた後、敬礼をして立ち去っていく。

 宿屋の主人も宿泊名簿に夫婦とあったのを覚えていたようで、僕とアラスカの顔を見比べたあとお辞儀をして作業に戻っていった。



「まったく君というやつは……」

「アラスカすごくカッコよかったよ!」

「う……あ、ああ、そう、か?」


 今のやり取りを見て、久しぶりに7つ星の騎士団としてのアラスカの姿を見て素直な感想を言うと顔を赤くさせて照れだす。



「と、とりあえずだ。 そいつらをどうにかしないといけないな」


 言葉がわからないリザードマンたちは、時折グアグアと話し合う様子を見せていたけど、特に騒ぎ立てたりしないでおとなしくしているので放っておく。



「1度私たちの部屋へ連れて行こう。 キャロンなら魔法でなんとかできるかもしれない」

「そっか、なるほど!」


 という事で宿屋の部屋に向かいキャロに出てきてもらうまではよかったけど、ゴーストのキャロの姿を見たリザードマンたちは手にしている槍を構えだす。



「ちょ! ダメ! 攻撃しようとしない!」


 僕が手を広げて立ちふさがるようにしてみせると、リザードマンたちはグアグアと僕に抗議してきたけど何を言ってるかわからない。



言語会話(タンズ)を使えば話せるけど……この魔法、その相手に接触しないといけないのよね、おとなしくさせられる?”


 これには困った。 いくら身振りで説明しようがリザードマンたちはゴーストに触れられるのを嫌がってくる。


 仕方がないから槍を没収して強行手段に出たことで、やっとキャロの通訳を通して会話ができるようになったのだった。




次話更新は明日の予定です。

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