迷宮探索
日帰りできる距離なら問題ないだろう。
そう思いながら、自分の武装を一度確認して古城の傍にある場所へと向かう。
中に入るとそこは元牢獄だった場所っぽくて、今は開け放たれたままの鉄格子の部屋がいくつも並んでいた。
迷宮の入り口はいくつも空いていて、冒険者たちは思い思いの入り口に入っていく。
僕は身近な入り口から迷宮に入った。
ダンジョンとは違い、非自然的なブロックでできた壁で出来ていてうっすら明るい。
灯りを持ってこなかった僕はホッと胸をなでおろした。
情報も何もないまま入ったはいいけど、罠とかあるかもしれないから気をつけないとなぁ。
迷宮を歩きながらそんな事を考えていると、奥の方に扉が見えてくる。
「と、扉があるんだ……」
霊峰しか知らない僕は扉があるだけで驚いて、扉まで近づいたとこで中に気配を感じ取った。
「1、2、3……5つの気配か……」
チンっと刀の鯉口を切って抜き放つ。 多数を相手にするなら居合斬りは有効じゃないからだ。
扉に手をかけて恐る恐る開けはなつ。
中には150㎝ほどの大きさの人型の姿の魔物がいて、鱗に覆われた皮膚は鈍い灰色で、トカゲの顔に長い尾があり、頭部と背中にトサカがある。
そんな魔物が5体、手にはジャヴェリンを持っていて僕の姿を見るなり一斉に投げつけてきた。
「うわっ! と危ないなぁ」
慌てて扉を閉めるとドカカカカカカカッとジャヴェリンが当たった音が聞こえて、あのまま入り口にいたら串刺しにされるところだった。
そこで不思議なことが起こる……
扉の先にいたはずの気配が一度消えて、また気配を感じたと思ったら数が1つに減っている。
どういう事かと扉を開けると、今度は1メートルを超える大トカゲが僕目掛けて走ってきた。
「ちょー!」
そしてまた扉を閉める……
するとまた一度気配が消えて、今度は気配がないままだ。
扉を開けると中にはスケルトンが6体いて、僕の姿を見るなり向かってきた……のだけど、扉を閉めて少し待つとまた中から気配が2つ感じられる。
どうやらどういう理屈かわからないけど、扉を開け閉めするたびに扉の先は変わるらしい。
このままここにいても仕方がないから、戦う覚悟を決めて扉を開けて中に入り込んだ。
中にいたのは、猫背で毛皮に覆われたハイエナのような頭の人型生物がいて、槍を構えて僕に向かって走ってきた。
気配が読めるからその2体の魔物の攻撃は難なく躱せて、ふと扉の先にいる魔物はみんなこんな感じで襲いかかってくるのか? なんて事を考えて思わず笑ってしまう。
所詮はデプス1だし、久そぶりに『気』で1体づつ一刀で切って倒した。
「デプス1なら楽勝かな?」
刀を鞘に戻しながら1人つぶやいて、この部屋らしい場所の先に見える扉を開けて先へと進んだ。
扉の先はまた通路になっていて、途中道が分かれていて迷路になりだす。
迷って帰れなくなったら大変だから、ダンジョンの時のように僕だけ分かるようにコインを置きながら先へと進んでいった。
どうやら扉の先には魔物がいるみたいだ。 だけど開け閉めすることで変えられるのであれば、僕が苦手なアンデッドも回避できるとなるとずいぶん楽勝なんじゃないかな?
また扉のある場所まで来て、中からは気配が5つ感じられる。
5体程度ならデプス1なら楽勝だろうと扉を開けると、そこには座って休む冒険者たちがいた。
「っと……」
「俺ら休憩だから先いっていいですよ」
危うく衝撃波を放つところだった。
それよりもこんなところで休憩して魔物とか出ないのかな?
「あの、まさか1人なんですか!?」
別の人が僕に声をかけてきて頷くと凄く驚かれた。
「もしよかったら少し話でもしませんか?」
前情報なしで来ちゃったからちょうどよかったかな。
お互い自己紹介しあって、冒険者ギルドメンバーの証明であるドッグタグを見せてくる。
そういうならわしなのかと思って僕もドッグタグを見せた。
「そのギルド証って霊峰のだよね。 霊峰から来た冒険者なんだ」
「はい、妻と観光ついでにちょっと来てみました」
えええええって声があがって、奥さんいるんだとか結婚してるんだとか、挙げ句の果てには自殺でもしに来たのかまで言われる。
「デプス1とはいえ、たった1人で来るなんて相当腕が立つんでしょうね」
「あ、その剣知ってるよ、霊峰の方で今流行ってるんでしょ?」
なんていうか、聞きたいことは聞けずに質問攻めにあってしまい、答えるたびに感嘆の声があがった。
一通り質問が終わった後、僕もこの迷宮の情報を聞いてある程度理解できた。
どうやらこの迷宮はなんらかの魔力によって、扉を開け閉めするたびに中が変わるらしい、まるで霊峰のダンジョンのようだと思った。
そこで一瞬だけ何か引っかかるものがあったけど、他にも情報を教えてくれていたので後で考えることにする。
聞ける限りの情報を聞いた後、お礼を言って僕は更に先へと進んだ。
次話更新は明日の予定です。




