故郷を離れて
新章に入りました。
結婚式翌日に僕はアラスカと一緒にシスターテレサに挨拶を済ませる。
「必ず戻ってきます。 その時は孤児院を僕も手伝いますね」
「別にカルラがいるから無理して戻らなくたっていいんだよ?」
「夫の夢なのだそうだよ。 ここで私と子供を育てながら孤児院をやっていきたいらしい」
「まったく、本当に律儀な子だねぇ。 まぁそれならそれまで待ってるさ。 世界を旅して見てくるといいよ」
「はい! それじゃあ行ってきます!」
シスターテレサ、兄弟たちに見送られながら手を振って歩きだす。
後ろを振り返るとまだみんなが手を振って見送ってくれていた。
「ちょっと待ってて」
アラスカにそう言って走って戻って、シスターテレサに抱きつく。
「行ってきます、母さん」
「いってらっしゃい、お前は私の自慢の息子だよ」
シスターテレサの頬に口づけをして数歩下がる。 これが今生の別れでもないのになんか凄く寂しさを感じた。
「じゃあ、行ってくるね」
「いってらっしゃいな、マイセン」
こうして僕とアラスカの旅がはじまった。
まずは町で馬を購入して食料と水を調達する。 アラスカはこっそり下着を大量購入していたのをしっかり僕は見たけど、一応知らないふりしておく方が良いのかな?
町の出口の方まで行くとディルムッドが待っていて、僕たちを見送りに来ていた。
「世界は広く楽しいぞマイセン。 存分に楽しんでくるといいさ」
「うん、見送りに来てくれてありがとうね、ディルムッド」
互いの腕と腕を組んで親指を立て合う。 ディルムッドは年齢こそ差があるけど、僕にできた良き理解者で苦楽を共にしてきた大切な仲間だ。
もちろんカルラもそうだけど、唯一男同士という意味でね。
「戻る頃には俺の子を見せてやる」
「僕だって!」
そう言って離れて行こうとした時に馬に乗ってギルガメシュさんがやってきた。
「マイセン! 餞別だ! 持っていけ!」
何かを投げつけてきて、それだけ言うとそのまま反転して戻っていってしまう。
宙を舞ってくるものを掴んで受け止めて振り返った時には、既にギルガメシュさんの姿は見えなくなっていた。
袋の中身を開いてみると、大量の金貨と手紙が入っている。
手紙を見るとこう書かれていた。
『もし厄介ごとに巻き込まれるようなことがあったら同封してある指輪を遠慮なく使え。 俺様の身分を明かすもので、たいていの国で通用するはずだ』
コロンと指輪が出てきて、シグネットリングが出てきた。
馬に相乗りしながらアラスカに見せると驚いた顔を見せてきて、ギルガメシュさんはメビウス連邦共和国の現代表である王の子息であることがわかった。
「あの人、そんなに地位のある人だったんだね」
アラスカの話では貴族の子に生まれて、いくら後継者ではなくても命の危険に身を晒すような冒険者の道を選ぶ者は珍しいのだそうだ。
まぁ当然だよね。
まずは7つ星の騎士団領を目指して僕たちは街道を進んでいく。
軽快に走る馬のおかげで移動は非常に早く、その日のうちにホープ合衆国の迷宮の町まで辿り着いた。
「ここが迷宮の町なんだ! 凄く賑わってるんだね」
「名前の通り地下迷宮がある場所だからな」
日ももうすっかり落ちていて暗くなっていたけれど、辺りの酒場らしき場所は冒険者だろうと思われる人たちで賑わいを見せていて、僕たちもこの町で1泊する事になる。
宿を取ってから1番大きな酒場に入ると、数名の客から注目される。
今のアラスカは7つ星の騎士団の証である外套を身につけていないため、普通に美人のエルフにしか見えない。
「おおぉう、こいつぁエラいべっぴんさんじゃないか! 俺らと一緒にどうよ? もちろん隣の兄ちゃんもだぜ?」
ナンパされるのかと思ったけれど、僕もしっかり誘われる。 どうするか迷ってアラスカを見ると、頷いてきたため同席する事にした。
声をかけてきたのは、大柄な男で名前をマックスと名乗ってくる。
そして連れられていった席に仲間らしい人たちもいて、多少出来上がっているようだったけど自己紹介してきた。
そして僕とアラスカも自己紹介を済ませて、夫婦であることを告げると大きな溜息が漏れた。
「あんた羨ましいなぁ、マイセンつったか? 一体どうやってそんなべっぴんさん捕まえたんだ?」
「そうですねぇ……お互いビビッときた感じですね」
羨ましがる声があがり、話をしていくと凄くいい人たちだとわかった。
「そんで2人は夫婦で冒険者ってところか?」
「そんな感じですね、これから7つ星の騎士団領に向かうところなんです」
「なんだい、迷宮に挑みにきたんじゃないのか?」
がっかりした顔を見せられて、とりあえず謝っておく。
少しだけ迷宮は気になったのは確かだけど。
そして忘れずにプリュンダラーの事も聞いてみたけど、旅人や行商人、冒険者も数が多くてわからないそうだ。
宿屋に戻ってやっと2人きりになる。
思えばダンジョンから帰ってからはアリエル様やサハラ様に色々聞かれ、ディルムッドとカルラの結婚のあと僕たちの結婚式で忙しくて2人でゆっくりする時間もなかった。
「そう簡単に情報なんか得られるもんじゃないね」
「それもあるが……」
そもそも情報を集めたいなら場所が違うそうで、人探しの場合は詰所や腕を失っているから教会なんかを当たるべきなんだって。
「ならなんで止めなかったの?」
「楽しかった。 今までずっと7つ星の騎士として生きてきたから、任務としてではなく自由に愛する人と生きれる事に幸せを感じていた」
「そんな嬉しい事言うと、このあとどうなっても知らないよ?」
「あなたと結婚した時点で覚悟はしているし……何より私も、嫌ではないよ」
それなら遠慮なくいただいちゃおう。
ベッドに押し倒してちゃんと夫婦になってはじめて愛しあった。
まぁ案の定僕の熱烈な愛を注いだら、アラスカは気を失ってしまったんだけどね。
刀を手に取って次にやるべき事に移る事にした。
次話更新は明日の予定です。




