裏切り者
「プリュンダラー! なんでお前がここにいるんだ!」
「偶然だ、偶然……」
「一緒にいた相手は誰だ! アラスカが向かっただろう!」
クククッと笑いだして、僕らが悪いんだとかわけのわからないことを口にしはじめた。
「私を……俺を信用しない代行者に、いつまで経っても靡かないアラスカ、そして7つ星の騎士の真似事をして俺の女を奪った貴様……ああそうだ、だから手を組んだ……」
「そんなのお前が悪いだけだ!」
「あの方は俺にアラスカをくれると言った。 だから俺はその恩に報いるために、まず貴様を血祭りにしてくれる!」
「あの方ってまさか!」
「ニークアヴォ様に決まっているだろう!」
そういった後プリュンダラーが剣を抜いて迫ってくる。
僕も刀の柄に手を掛けて身構えるとプリュンダラーが足を止めた。
「急がないとお前の大事な奥さんが、俺のものになってしまうぞ?」
「なっ! どういう事だ!」
「さぁてな?」
楽しげにプリュンダラーが僕を挑発してくる。 それと同時にアラスカに言われた、騎士魔法を使えるプリュンダラーに真正面から戦いを挑んでも僕に勝ち目がない事を思い出す。
今はプリュンダラーを相手にするよりも、アラスカの救出が先だ。
しかしアラスカを助けに行くにはプリュンダラーが行く先を邪魔してきている。
ならば……作ればいい。
素早く刀を抜き放ち、プリュンダラー目掛けて衝撃波を放つ。
「そんなもの防壁で防ぐまでだ!」
土煙を上げながらプリュンダラーに衝撃波が襲うけど、片腕を前に突き出して衝撃を防いでいる。
そこへ更に今よりも強めの衝撃波をプリュンダラーの横に放って、建物ごと吹き飛ばし、新たに作った道を一気に走り抜ける。
プリュンダラーは土煙で見えていないはずだ!
その浅はかさが危険にさらされる事になる。
突然剣が僕に向かって振るわれて、スレスレのところで気配を感じて躱して、プリュンダラーが7つ星の騎士で予測が使える事を思いだした。
だけど位置的には一応出し抜けている。
僕はプリュンダラーは無視して建物へと走り中へと飛び込んだ。
「アラスカっ!」
そこで目に映った光景に絶句する。
部屋の中にはアラスカとニークアヴォが入りのは間違いなく、立っているのはニークアヴォで、アラスカは両手足を何かに叩き潰された状態で地面に転がっていた。
「う、うわぁぁぁぁぁ! アラスカ! アラスカ————!」
僕の姿を見てアラスカが涙を流しながら済まないごめんなんて謝ってくる。
駆け寄ってアラスカを抱き上げた。
「す、済まない……君との約束は守れそうになさそうだ……」
「アラスカ、死んだらダメだ! 僕を置いていくな!」
そこへ後方からプリュンダラーも追いついてアラスカの姿を見て笑いだした。
「クククッ……あははははは! ひゃーはははは! おらっ、ドケッ小僧が!」
蹴飛ばされた衝撃でアラスカが僕の腕から離れてしまい、身動きとれないアラスカにプリュンダラーが近寄り抱き上げた。
「アーラスカ卿! いいや、我が妻アラスカよ、今日からお前の面倒は俺が見てやるぞ!」
「ふざけるなっ! 誰が貴様なんかに!」
アラスカが舌を噛み切ろうと見せる。
「それはやめた方がいい……そんなことをしたら、俺はやり場のない怒りからそこにいる小僧を殺してしまいかねんぞ?」
「くっ……貴様そこまで地に堕ちたか!」
「なんとでも言ってくれたまえ」
アラスカの顔に舌を這わせる。
もちろん僕はそれをただ見ているわけではなく、怒りに身を任せてプリュンダラーを殺したい、だけどそれよりも今僕は恐怖に怯えきっていた。
この感覚は覚えている。
首を動かして見つめる先にはニークアヴォがいて、僕の事を見ながら首を傾げてきた。
「またお会いしましたねぇ『気斬りのマイセン』。 それと、聞いた話と噛み合わないので聞かせて貰えますかな?」
そう言って僕とアラスカの関係を尋ねてくる。 だから僕は恐怖に怯えながらも叫んだ。
「アラスカは、僕の妻だぁぁぁぁ!」
それを聞くとニークアヴォがプリュンダラーに顔を移して、どういう事か確認しだした。
「どういう事ですかな? 先ほど貴方は自分の妻が寝取られたと私に言ったはずでしたが?」
プリュンダラーが答えられないでいるとニークアヴォが睨みつける。
「どうやらとんだ茶番に付き合わされたようですな。 このケジメは自身でつけていただきましょうかねぇ」
それだけ言うとニークアヴォは立ち去ろうとする。
「勘違いでやらかしたのなら、せめてアラスカを、僕の妻の治療したらどうなんだ! それとも同じように見捨てる気か!」
つい我慢ができなくなって、知り得た情報を口にしてしまった。
「……そこまで調べましたか。 ふむ、連中と一緒にされるのは確かに嫌ですなぁ……」
ニークアヴォが立ち止まると、胸元から1枚の燃えるような綺麗な羽を地面に置いた。
「復活と再生を司る不死鳥の羽です。 本来なら非常に高額な品ではありますが、当方のミスと、同じ思いはさせたくはありませんからな。 特別に無償にて提供いたしましょう。 ではこれにて……もう貴方とは2度と会う事はないでしょうな、それではさようなら『気斬りのマイセン』」
丁寧なお辞儀をして立ち去ってしまう。
僕は羽を拾ってアラスカに使おうとしたけど、プリュンダラーがそうはさせまいと言わんばかりに立ちふさがってきた。
次話更新は明日の予定です。




