エリニュス
なんとか更新できました。
休憩をしてしばらくするとディルムッドだろう気配が戻ってくる。
ただその速度は速く、まるで何かから逃げてきているようだった。
「済まない! 魔物に見つかった!」
一斉に立ち上がって交戦の準備をするのだけどディルムッドは違った。
「逃げるんだ! あれは危険だ!」
あのいつも余裕を見せているディルムッドが逃走する事を進言してくる。
そうこうしている間も気配がどんどんこっちに向かって近づいてきている。 アラスカとプリュンダラーも感知で気づいてはいるみたいだけど、リーダーであるアリエル様の判断を仰いでいるようだ。
「あたし達はこの先に行かないといけないの! だから、危険な相手であろうと戦うわよ!」
アリエル様がそう叫んだものの、追ってきた魔物が姿を見せると急に顔色を変えた。
「エ……エリニュス……」
怯えにも見える表情を浮かべてアリエル様が相手の名前を言う。
「我の名を知る貴様は何者だ? まぁよい。 死んだほうが楽だと思うだけの苦しみと恐怖を与えてやろう」
アリエル様が口にしたエリニュスというその魔物の姿は、男性にも女性にも見える非常に美しい人の様な姿をしているけど、背中からは黒く染まった翼が生えている事で違う事がすぐにわかる。 そして手には不思議なロープを持っていて、無慈悲な瞳でこちらを見つめてきた。
手に持ったロープでアラスカを巻きつけようと投げつけてきたけど、それを容易く避けた。 ……はずだった。
だけどまるで意思を持つかのようにロープはありえない方向に向きを変えてアラスカを追いかけてくる。
「なんだと!?」
アラスカもそれを見て驚く。 そこへディルムッドが2本の槍ではなく、2本の剣の方を抜いてロープを切断しようと斬りかかった。
ガツッと音はしたもののロープが切断されることはなく、アラスカを追うのをやめて今度はディルムッドに巻きついてしまう。
「く……そ……しくじったか」
ディルムッドに巻きついたロープはダンジョンの天井まで持ち上げられ……そこで止まる。
エリニュスは僕たちを見つめていやらしく笑みをこぼしてくる。
「叩きつけてやろうか? 串刺しにしてやろうか? それとも射殺してやろうか?」
その言葉に全員の動きが止まった。
「ディルムッド様!」
カルラだけが我が身よりもディルムッドを心配して叫び声をあげて、それを見たエリニュスはカルラを見た後ディルムッドを見つめて頷く。
「奴隷とドラウが両想いとは罪深い……」
直後にエリニュスはカルラの側まで来て、いつの間にか手にした剣でカルラの心臓を貫こうと身構えてくる。
「カルラ!」
ディルムッドが叫ぶけどなぜか嬉しそうな顔をしたままカルラはディルムッドを見つめて動こうとしない。
そこをエリニュスの剣が無慈悲に突きだされ……それをアラスカが防いだ。
「7つ星の剣! 私に力を貸せ!」
yes my master
アラスカが命じると6振りの剣が宙に現れてエリニュスに狙いが定まる。
「ほう……なかなか面白い芸を披露するな。 それで我を傷つけるのと、あの男が頭から叩きつけられるのはどちらが早いのであろうな。 どうだ、試してみるか?」
「くっ……」
エリニュスの余裕の態度とディルムッドが捕らえられている状況を見て、何かを感じたのかアラスカは攻撃に出れないでいる。
仲間を確認するとプリュンダラーは聖剣を使って身構えたままで、アリエル様はなぜか怯えたままだった。
そんな中僕はエリニュスから1番離れた位置にいたためか気にもとめられていないようだったけど、エリニュスの気配は既に感じ取っている。
ディルムッドと視線が合って頷いてみせた後、刀の鯉口を切って抜き放ち居合斬りを放った。
————————————チンッ!
鞘に刀が収められた直後、エリニュスが一度大きく身体をビクンッとさせて僕の事を見つめてくる。
まさか居合斬りが効かない!?
一瞬だけそんな不安がよぎったけど、間違いなく僕はエリニュスの『気』を絶っていて、今も気配が小さくなっていっているのは間違いない。
少しだけ間を置いた後ドサっとエリニュスは地面に倒れて動かなくなり、ロープも緩んでディルムッドも無事に着地した。
「ふぅ……ディルムッド大丈夫だった?」
「ああ、ナイスサポートだった」
大したことではなかったようにハイタッチをして互いの腕を交差させて親指を立て合って笑うと、僕たちに向けて怒声が上がった。
「なんだ今のは! 貴様どうやって倒したというのだ! なぜそんなに余裕ぶっていられる!」
声の主はもちろんプリュンダラーなんだけど、その声を遮ってアリエル様が謝ってきた。
「まさかエリニュスが現れるなんて思わなかったの、ゴメンなさい。 そしてありがとう」
「そんなアリエル様、謝らないでください。 僕はただ仲間を助けただけなんですから」
「仲間を助けただけって……あの悪鬼を一撃で倒したのよ!?」
そう言われてもなぁ……
どうやらこの1年ほどで僕の『気』を絶つ力が強くなっていることを知らなかったアリエル様が驚愕した顔で見つめてくる。
「それにしてもアリエル様は一体どうしちゃったんですか?」
「エリニュスにはちょっとだけ嫌な思い出があるのよね……」
その昔、まだ冒険者時代のしかもサハラ様と出会った頃の話まで遡るらしい。 途中まで話してくれたけど、突然吹き出しはじめて夫の恥部は口にできないわねっていってそこで昔話をやめてしまった。
次話は夜中に更新予定です。
更新できなかったら、明日のお昼辺りになるかもしれません。




