変化するダンジョン
こそっと
「少しは周りを警戒しなくて良いのか!」
僕の後ろからそんな声が聞こえて足を止める。
「この辺りで警戒していたらこの先疲れちゃいますから」
「はっは! 確かにこの辺りなら出会った瞬間マイセンになぎ倒されるだけだな」
ディルムッドに至ってはメイン武器である2本の槍を背中に背負った、僕の言葉の後を付け加えてくる。
「そんな若さで冗談も……」
「へぇそんなに強くなっちゃったのね?」
プリュンダラーさんの嫌味をアリエル様が横から喋ってきて搔き消してくる。 絶対にわざとやってくれてるんだと思う。
「プリュンダラー、お前こそ7つ星の騎士として緊張しすぎなのではないか?」
そしてトドメを刺すアラスカ。 たぶんプリュンダラーさんに対して怒ってるんだと思う。
カルラを除く全員に窘められたプリュンダラーさんはそこで黙り込んだんだけど、アラスカの追撃は止まらない。
「いいか? プリュンダラー、お前は7つ星の騎士としてもっと己の感情を抑え常に冷静さを保てるようになれ。 今のお前では簡単に感情が読まれてしまうだけだ。 大体だな……」
とだんだんお説教に変わっていき、気がつくとアリエル様とアラスカが位置を変わって僕の横をアリエル様が歩いている。
「あの真面目っぷりは昔から全然変わらないわね」
「そうなんですか?」
「そうよ、初めて会った時なんて……」
「魔物が近づいてきます!」
刀に手をかけて身構えて仲間を確認すると、アラスカも既に説教をやめて7つ星の剣を抜き放っていて、プリュンダラーさんも剣を手にしている。 さすが7つ星の騎士だ。
それに対してカルラとディルムッドは僕の呼びかけですぐに反応した。
「1、2、3……ん? マズい! 挟み撃ちだ! 後ろはカルラとディルムッド、頼んだ! 前は僕がやる!」
「はい!」
「了解した」
まだ魔物の姿が見えない段階で指示を出したことに驚いているプリュンダラーさんが目に入った。
「アラスカとプリュンダラーさんはアリエル様を!」
「わかった!」
プリュンダラーさんからは返事が返ってこなかったけど、アリエル様の側に動いた気配を感じたから問題ないだろう。
そしておそらく近づいているのは、ここはまだデプス1だからバグベア辺りだと思う。
「魔法の支援はいるのかしら?」
「この程度は必要ありません」
アリエル様の支援を断って、僕の正面から姿を見せたバグベア3体に刀を抜き放って衝撃波を放った。
ダンジョンの砂埃を巻き上げながら衝撃波がバグベアたちを包み込んで、砂埃が晴れるとバグベアたちは衝撃波でズタボロになった。
前方から近く気配はもう感じられないから、後方から来る2体を相手をするカルラとディルムッドの方へ顔を向けると、お互い1体づつ一撃ですぐに仕留めた。
「バグベアが徒党を組んで挟み撃ちか。 初めての事だな」
ディルムッドが倒したバグベアを見つめながら呟く。
確かにバグベアはほとんどが単騎で襲ってくる魔物だ。 それが徒党を組むなんて今までなかった。
「どうやらまた少し変化を起こしたのかもしれません」
僕がアリエル様に結論を話す。
「どういうことかしら? まるでダンジョンの姿が変化していってるみたいじゃない」
「みたいじゃなくて、していくんです」
実はここ1年でわかったことなんだけど、このダンジョンの中は不思議な力によって時間とともに変化を起こしている。
1年前と今ではダンジョンの形状も変わっていて、マッピングしてもすぐに変わっていくから、デプス8まで行けても次に同じ道のままで行けるとは限らなくなっている。
その変化基準が魔物の数や行動パターン、現れる魔物で判断するしかなかった。
「今、何をしたんだ!? それに魔物の接近に視認より早く気づいたな? まるで我ら7つ星の騎士団のようだ」
そしてダンジョンの心配より僕の事を気にしているのはプリュンダラーさんだった。
「そこの7つ星の騎士さんは『気斬りのマイセン』の事を知らないのか?」
「『気斬りのマイセン』?」
「そんな事は今はどうでもいいわ。 それよりも変化したという事は町までたどり着けるのかしら?」
アリエル様って……
とりあえず、変化が起きても多少程度だから問題はない事を伝えた。
「変化するダンジョン……ね。 これだけで十分普通じゃないって事はわかったわ」
その後もう少し進んだところまで来たところで僕とカルラとディルムッドで場所の確認を取る。
「ここは変わってないようだ。 もう少し進みたいところだが、変化を起こしているのであればここで一旦休んでおくべきだろう」
「僕もディルムッドに同意見だよ」
カルラも頷いてくる。
「ここで休憩をしましょう」
3人の意見が一致したら無理をしないのが鉄則にしている。
アリエル様も僕の指示に従って、ダンジョンに腰を下ろした。
「見張りは僕とカルラとディルムッドで交代でします。 3人は休んでもらって構いません」
そう言ったところでアラスカが僕を睨んでくる。
「私たちがまるで役立たずな言い方をするな? 私も見張りはする」
「私もだ! 冒険者ばかりに任せてばかりでは7つ星の騎士団の名が泣く」
そうなるとずいぶんな人数で交代になる。 なので、今回は僕たちで見張りをすることにして、次の時にアラスカとプリュンダラーさんにお願いすることにした。
本日はのちほどまた更新します。




