もう1人の7つ星の騎士
町を腕を組みながら歩く僕たちはまさに幸せそうなカップルそのものだ。
そんなところにアラスカを呼ぶ声が聞こえて、声がした方を見ると7つ星の騎士団の外套を着た男が立っている。
「お前は……プリュンダラーか? どうして君がここにいる?」
「はっ、アラスカ卿が長引かれているようだという事で、私が選抜され馳せ参じたのですが……ところで隣にいる方は……」
「長引いているというより事が大きくなってな」
うん、アラスカさんサラッと僕の事は無視したね。 やっぱり同僚とかに言うのは恥ずかしいとかあるのかな?
そしてプリュンダラーと言われた7つ星の騎士は、歳は20代中ほどで髪の毛をオールバックにした細目のイケメン。
「なるほど、それでは及ばずながら私もお手伝い……」
「イヤいい、お前は騎士団領に戻ってその旨を報告をしてもらいたい」
うわ、またまたバッサリ切り捨てたよ。
「それは困ります。 私は評議員からの命令でここまで来たのですから、アラスカ卿に帰れと言われて帰るわけにはいきません」
「その評議員の1人である私が言っているのだ」
プリュンダラーさんも引く気が無さそうで、なんだか見ていてかわいそうに思えてきた。
「アラスカ、プリュンダラーさんも困ってるじゃん。 7つ星の騎士が2人になればかなり楽になるんだからそんなに邪険にしなくてもいいんじゃないかな?」
「すまないが君は少し黙っていて貰えないか? これは7つ星の騎士団の会話だ」
驚いた。 プリュンダラーさんではなく、まさかアラスカの口からそんな事を言われるなんて。
「だいたいお前はしょっちゅう何かしら理由をつけて私の元へ来たがる。 まったくもって迷惑な話だ!」
ん? 今のはわざとっぽい。 アラスカが僕にわかるように言ったみたいだ。
「評議員とはいえ1人の指示には従えません。 申し訳ありませんが、ご同行させていただきます」
「……好きにしろ。 明日の朝……麓で待機だ」
諦めたのかため息まじりにプリュンダラーさんに告げて僕に行こうって促してきた。 もちろん僕の腕を掴む事もなく、苛立った顔を見せている。
テクテク、テクテク、テクテク…………
なんかついてきてるんですが……
「私は彼と行動する。 お前は自分で宿を探すんだな」
「なら私もアラスカ卿と同じ宿を利用させていただきます」
「それは無理な話だ。 私は彼が育った孤児院で世話になっていて、そこはもう手狭でお前が寝泊まりできる場所はない」
そう言い捨てて歩きだす。
そんな状態だからなんだか話しかけ辛くて、無言で歩くだけになった。
そして振り返らなくても気配でプリュンダラーさんがついてきているのは気がついていたけど、アラスカもわかっているはずなのに完全に無視している。
町外れに来て孤児院に着くと、さすがに中にまで押し入ってくる事はなかった。
「お帰りなさいマイセン様、アラスカさ……マダム アラスカ」
すかさずカルラが僕とアラスカの結婚指輪に気がついて言い直してきた。
そのままアラスカに引っ張られるようにしてシスターテレサが開けてくれた寝室に連れ込まれる。
「最初に、すまなかった。 気分を害させてしまったと思う」
「うううん、別にそれはいいんだけど、なんであんなにプリュンダラーさんを避けるの?」
実は……と話しだす。
プリュンダラーさんは7つ星の騎士団を作った最初の7つ星の騎士団の1人の血を引いていて、そのおかげもあってか早い段階で一人前の騎士になったのだという。
でも他の7つ星の騎士たちのように厳しい節制生活なんかを避けて育ったため、一人前になって世界平和のために世界各地に赴いても失敗が多かったんだそうだ。
その時の尻拭いをアラスカがよくしていたらしいんだけど、ある日事もあろうかそんなアラスカの寝込みを襲いかかってきたんだそうだ。
もちろん寝込みを襲われようが、アラスカの前ではなす術もなくコテンパンにのされ、そのまま騎士団領に強制送還されたそうだけど。
7つ星の騎士団の教えを守らなかったプリュンダラーさんは、神の加護がなくなって騎士魔法が使えなくなるまで至ったらしい。
そこで初めて心を入れ替えて修行をしなおして騎士魔法も使えるようになったんだけど、それからというもの事あるごとにアラスカと接触を試みてくるんだそう。
いくら心を入れ替えようが、1度でも寝込みを襲われたアラスカは信用も何もできなくなった。 と、ぷんすか怒っている。
「だから君のことも紹介しなかった。 したくなかった」
「そんなことがあったんだ」
そしてこの後プリュンダラーさんの執念すら感じるほどの行動力を目の当たりにすることになるとは、この時は微塵にも思いはしなかった。
次話の更新は明日の予定です。
また次話でこの章も終わって、ダンジョンに向かう事になります。




