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お人好しの愚か者

 紹介も済んで、早速ディアさんの胸部にいるチェストバスターを殺す準備に取り掛かる。



「服は脱がせたほうがよろしいのですかな?」

「い、いえ! そのままで大丈夫です!」


 彫像のようなディアさんの美しさはこの世のものとは思えない。 そんなディアさんの裸なんか見せられたら集中なんかできなくなりそうだ。


 (キャロン)を構えて、正面に立つディアさんに集中する。

 ニークアヴォさんはその様子を少し離れた位置から楽しげに眺めていて、どう考えても心配しているようには見えない。


 この2人の不思議な関係に疑問を抱きつつもディアさんをジッと見つめると、今まで虚ろだった瞳がハッキリと僕を見つめてきて、何かを伝えようとでもするかのように目を動かしてくる。



 そうなってくれば先ほどの助けてというのも、実はニークアヴォさんからという意味ではないか? そんな思いが出てもおかしくない。


 僕が構えを解くとニークアヴォさんが、どうしたか尋ねてきた。



「まだディアさんから感じ取れるチェストバスターの気配は小さすぎます。 失敗するわけにはいかないので、同じ条件にしたほうが良いと思います」


 一瞬疑いの眼差しを向けてきたけれど、すぐに頷いてくる。



「そうですな、私も彼女は失いたくない。 『(オーラ)斬りのマイセン』の言う通りにいたしましょう」


 ほっと一息ついて、改めて今いる場所を確認してみる。

 なんだか廃墟じみた建物の中のようで、ヒンヤリとまるでダンジョンの中のような空気だ。



「ところでここはどこなんですか?」

「ダンジョンの中の古代の町のようですな。 魔物の気配が無かったのと、こんな非人道的な行為を人目のあるところではしたくなかったので、ちょうど良い場所が見つかりましたよ」


 となるとここはディルムッドが捜索するのを拒んだ場所だ。 そしてディルムッドはダンジョンの突然の出現を裏で手を引く者がいるとも言っていた。


 ……まさか、ね。



 ディアさんの顔からフェイスハガーが落ちてまださほど経っていなかったようで、たまにディアさんの胸部の気配を感じ取ると少しずつその気配が大きくなってきているのがわかる。



「どうですかね?」

「やっぱり先ほどより気配が大きくなってきているようです」


 ふむふむとニークアヴォさんは頷きつつ、僕がディアさんに近づかないようにしているようにも見える。



「ところでもう1つ商談などはいかがなものですかな?」


 僕が怪しむ様子に気がつかれたのか、ニークアヴォさんが商談という形で話題を振ってきた。



「一体なんの商談ですか? 先に言っておきますけど、刀は売りませんよ?」


 嫌な予感がして、(キャロン)とは言わず、あえて刀と呼んでおく。



「はっはっは、先を越されてしまいましたな ……っと、冗談はその辺にしてそろそろではないですかな?」


 話に気を取られている間にディアさんが胸に手を当てて苦しみだしている。

 なんだかうまい具合に僕の気をそらされたように感じた気もする。


 迷いながらも(キャロン)を構えて、今度こそディアさんの胸部にいるチェストバスターを殺さなくては助けられそうにない。



 正面に立つディアさんがまた目で訴えてきているように見える。 でも神官でもない僕にできることは、体内にいるチェストバスターを殺すことぐらいしかない。



 鯉口を切って(キャロン)を抜いて———



「殺して!」


 チンッと鞘に収めるのは同時だった。

 居合斬りが成されてチェストバスターの気配がなくなった。 それと同時に殺してと叫んだディアさんの言葉の意味がどっちだったのか迷った。


 ディアさんが意識を失って倒れるのをニークアヴォさんが支える。



「彼女の希望通り殺していただきありがとうございます。 これにて商談は成立です。 あとは好きになさってくださいな」

「え……?」

「用事が済んだので私は帰ると言ってるだけですよ」


 こんなデプス8にもなる場所に1人置いていかれて、水も食料も無しに生きていけるはずもないじゃないか。 何を言っているんだ?



「待ってください、僕も一緒に連れて行って……」

「はっはっは、ご冗談を。 先ほどそちらから商談を断ってきたじゃないですか? サヨウナラ、『お人好しのマイセン』」


 そういうとニークアヴォさんはディアさんを抱えて、詠唱もなく姿が消えていってしまった。



 この時になって僕は利用されたことに気がつき、そしてディアさんの「殺して」が、ディアさん自身のことを言っていたことを理解した。



次話更新は明日になります。



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