全滅
「やった!」
「やった、じゃねぇ! まだ3匹残ってんだぞ!」
「そのうち1体はオーガメイジだ!」
フレイさんが叫ぶのと同時に走り出して、仲間のオーガが倒されたのを見ていたオーガたちが我に返りだす。 そのうちの1体がたどたどしく何かをつぶやきはじめた。
「真ん中の奴だ!」
フレイさんが叫んで、アレスさんと僕も走りだした。
フレイさんが一気にオーガメイジに間合いを詰めようとした時、残る2体のオーガがオーガメイジを守るように立ちふさがってくる。
「くそぉ! 詠唱の邪魔はさせないってか!」
アレスさんが叫んでオーガに突進していく。 フレイさんもオーガメイジを諦めてアレスさんとは別のオーガに斬りかかっていった。
——————————なら僕が!
2人がオーガと戦っている隙間を走り抜けてオーガメイジに向かう。
「小僧! オーガの陰に隠れてろ!」
「危ない!」
2人のそんな声が聞こえた時は既に遅かった。
オーガメイジの脇に浮かんだ3本の魔法で作られた矢が、僕に指を指し示すと勢いよく飛んできた。
またイメージが浮かんで、1本目の矢を剣で振り払……えずに直撃を受ける。
「ガッ!」
痛みに堪えようとした直後に残る2本も僕を貫いてきて身体が後ろに飛ばされた。
「マイセン!」
手を伸ばして捕まえようとしたアレスさんにオーガの棍棒が振り下ろされ、僕と同じく地面に叩きつけられる。
身体を起こそうにも起こせそうにない。 隣で倒れているアレスさんも、死んだりはしていなくてホッとしたけど片脚を砕かれたようだった。
アレスさんがボロクズのようになった僕を見て、手でゴメンみたいな仕草をしてくる。
「フレイ! お前だけでも逃げろ!」
そう叫んだ。
つまり、アレスさんは脚をやられて逃げられそうになく、僕も意識はあっても全く身体が動かない状態にもう無理だと、それなら全滅するよりはとフレイさんに逃げるように言ったようだった。
「ふざけるなよアレス、この状況でそもそも逃げ切れると思っているのか?」
どういう意味で言ったんだろう。 僕たちを見捨ててなんて逃げられない。 なのか、オーガ2体とオーガメイジに進路を邪魔されていて逃げられないという意味なのか?
フレイさんが雄叫びをあげて決死の覚悟で立ち向かっていく姿が見える。 だけどたったの1人でオーガ2体とオーガメイジを倒すには無理がありすぎたようだった。
フレイさんもかなり善戦して、オーガを1体仕留めこそできないものの無力化まではしたけど、そこでまたオーガメイジの魔法により倒れてしまう。
起き上がってこないところからみて、生死も不明の状態のようだ。
「悪かったなマイセン、助けにきたつもりがこんなことになっちまってよ……
あぁ、嫁さんと子供の顔がもう見られねぇのか……」
アレスさんがこの後起こる事を考えて、奥さんに謝罪してた。
僕も今日まで育ててくれたシスターテレサに言う事を聞かなかった罰だろうなと思いながら、覚悟を決め……れなかった。
死にたくない。 まだ死にたくない。 死にたくない。 死にたくない。 死にたくない。 死にたくない。 死にたくない。 死にたくない。 死にたくない。 死にたくない。 死にたくない————————
でもそれも虚しく、動かなくなった僕たちへゆっくりとオーガが近づいてくる。
オーガ……別名人食い鬼。 その名の通り、きっと僕たちはこれから食べられるんだろう。
生きたまま食べられるのは嫌だ。 せめて殺されてからがいい。 できれば一思いに殺されて……
自分でもわがままな要求だなと思いながらも、未だなんとか助かる術はないか考えている。
でもそんな考えもオーガに持ち上げられた時に無駄なことだと思った。
恐怖のあまり失禁してしまい、涙を流しながら助けを乞う。 だけど言葉がわからないオーガは気にも留めない。
そして持ち上げられた僕は、生きたまま頭の方からオーガの口に運ばれそうになった。
1番最悪に思っていた踊り食いを、僕は今まさにされそうになっているところだった。




