謎の人物と決戦
キャロが捕まっていた最奧部と思われる場所に近くまできてそっと覗き込む。 中には案の定また無数の卵が生み出されていて、それを数匹のゼノモーフが守るようにしている。
そしてここから1番遠い場所に、一回り大きなゼノモーフ……ハサンだったゼノモーフがいた。
この数であれば最大出力の衝撃波で卵ごと破壊してやればいい……
そう思って飛び出そうとした時だった。
ハサンだったゼノモーフの近くに1人の人らしい姿が見えた。
慌てて身体を隠しなおして様子を伺ってみると、ハサンだったゼノモーフ……ハサンがおとなしく従っているかのように見える。
「あれは一体……仮にハサンの仲間だったとして、今のハサンにその識別能力があるはずは……」
“女王は別格なのかもしれない、と言いたいところだけど有り得ないはず”
キャロも思わず霊体で現れて驚いているようだ。 だとすれば異常なのはあそこにいる、人らしい人物となる。
……あそこにいる気配は感じ取ることができている。 それなら居合斬りで倒してしまえば……
その考えを押し留めたのはハサンが襲いかかったからだった。 尻尾やインナーマウス、掴みかかろうとするその攻撃をその人物は悠々と躱しながら、何かを探しているようだった。
たくさんある卵の中から1つを選び出して引きちぎるようにして卵を抱える。
ザワッ…………
突然その人物が恐ろしくてたまらなくなる。 震えが止まらなくなって必死に耐えてなんとか声は出さずに済んだけれど、何かされたわけでもないというのにとんでもない恐怖感が襲ってきた。
震えが収まって恐怖感もなくなったと思ったら、その人物の姿は何処かへと消えていた。
「今のは一体なんだったんだ……」
“ゴーストなんかが使える恐怖心を与える力に似てたけど、少し違うみたいね”
「キャロは平気だったの?」
“うん、だって私はゴーストだもの”
そうなんだと言いつつも、前かがみになって胸がプルプル揺れているのを目の当たりにすると、さすがに目のやり場に困る……
「そのさ……キャロはスッポンポンなのは気にならないわけ?」
薄っすら透けているとは言っても、形のいい胸やその先端の突起、下の毛まで見えていて、足を開いたら秘部まで丸見えになりかねない。
“恥ずかしくないって言ったら嘘になるけど、マイセンと話すにはゴーストで姿を見せなくちゃいけないんだから仕方がないじゃない? それにマイセンになら見られてもイイヨォ?”
どうせ触れないしなんて言うから、手に触れようとしたけど素通りしてしまった。
っと、それどころじゃなかった。
「その辺はあいつを倒してからゆっくり聞かせてもらうとするよ」
そう言うとキャロも頷いて姿が消えていった。
広間に飛び出して、刀の濃口を切って抜き、今の僕にできる最大出力まで高めた『気』を乗せて衝撃波を放った。
「喰らえっ!」
刃先から『気』の強烈な衝撃が放たれて、土煙を上げながら卵とそれを守るようにいたゼノモーフたちが次々と衝撃の波に刻まれていく。
卵はことごとく割れていき、ゼノモーフも最大出力の衝撃波でズタボロに刻まれていった。
土煙が晴れて辺りを見回すと、大半の卵は割れるか潰れてゼノモーフもほぼ死に絶えていたけど、ハサンのいた場所に姿はなかった。
———ッ!
直後、気配を感じて慌てて身体を動かす。
ハサンの尻尾が僕のすれすれを掠めていき、顔を上げると目の前にハサンの顔があって、その口からインナーマウスが飛び出してきた。
「くっ!」
なんとかギリギリで躱す。 やはりゼノモーフはベースとなった者の力を引き継ぐようで、少し違うとはいえキャロの時は魔法が使えて、ハサンの場合は暗殺者の能力はそのままのようだ。
この1年で自分でもかなり腕を上げたつもりでいたけれど、それでもその差は大きかったようで『気』を読めても躱すので精一杯だ。
苦し紛れに刀を振ると、ハサンは一度大きく距離をとった。 どうやら相手も一度見た僕の『気』で絶つ攻撃を警戒している……なんて思っていた直後に僕の左手に激痛が走る。
確認すると距離を取った隙に尻尾の先端で切られたらしく、指が数本持ってかれていた。
「痛い! 痛い痛い痛い!」
ハサンの尻尾の先端が僕の血で赤くなっていて、首を上下に動かしてまるで嘲笑うかのように見えた。
明日31日は午前中に1話更新、1日は夜に1話更新する予定です。
また次の話でこの章が終わりを迎えますので、新章は来年からスタートになります。
次の章からは、過去の作品サハラシリーズのメインである話に強く関係したものが入ってきます。
間もなく歴史が動く時が来ます。




