花道を譲られて
個室の扉を開けるとそこにはゼノモーフの姿があって、ソティスさんに飛びかかろうとしているところだった。
「ハッ!」
居合斬りを使ってそのゼノモーフを殺す。
「ソティスさん!」
駆け寄って起こすと身体を震わせて完全に怯えきっている。 彼女は冒険者じゃないのだから当然か。
「カルラ! 急いでソティスさんを孤児院まで連れていって、あと孤児院の兄弟たちを守ってやって!」
「はい! マイセン様は?」
「僕はあいつを追う! 今ならハサンに出会えるはずだ!」
〔ヒヨコ亭〕を飛び出ると町はパニックになっていて、逃げ惑う人々で溢れている。
「マイセン様!」
ソティスさんの肩を抱きながらカルラが僕に声をかけてくる。
「ご武運を!」
頷いてカルラにも孤児院をお願いした。
町はあちこちにゼノモーフの姿が見え、次々と人を殺して回っている。
「どうするマイセン」
「僕は麓に向かう。 アラスカは大統領府に、ディルムッドは冒険者ギルドに行って、あいつらとの戦い方を教えてあげて!」
「わかった!……わ。 だが、無理はしないで、ね」
「……りょーかいした、くくっ……」
ディルムッドもアラスカの言葉使いに含み笑いを見せる。
走り去る2人を見送った後、僕は単身で麓に向かう。 鎧をつけてこなかった事が悔やまれるけど、取りに戻っている余裕はないから仕方がない。
走りながら目につくゼノモーフを居合斬りを使って次々と倒していく。
刀に刀の名前をつけてからというもの、まるでキャロが力を貸してくれるかのように『気』の消耗が少なく済むようになっている。
ゼノモーフと戦う冒険者もいるけど、あいつらの体液が酸だと知らずに斬りかかって逆に悲鳴をあげる声もあちこちから聞こえ、圧倒的に不利に思えた。
これだけの大群ともなればおそらく町から生き物全てがいなくなる、そう思った時だ。
黒いローブ姿に細長い棒を持ったサハラ様が現れて、転移しながらあっという間に十数体を倒してしまう。 そしてそのそばには異様に紅い髪の毛をした少女が素手でゼノモーフを殴り、引きちぎり……そして驚くことに噛みついていて、酸がかかっても全く怪我すら追っていない。
そんな様子を呆れながらその無茶苦茶な戦い方を眺めるアリエル様も魔法を行使して戦う姿があった。
そこを走り抜けて麓に向かおうとしたらサハラ様が目の前に一瞬で来て、あとは任せて貰えば大丈夫だって言ってくる。
「どうしても僕が倒さないといけない相手がいるんです! だから、行かせてください!」
サハラ様がジッと僕の顔を見てくる。
「どうした主よ。 そいつが邪魔するなら我が相手をしておくぞ?」
あの異様に紅い髪の毛の少女が僕を見つめてくる。 そして少し気になったのは腰に下げたネズミのような人形だけど、今はそれどころじゃない。
「いや、いいよ赤帝竜。 マイセン、町のゼノモーフを全部倒しきったら俺たちも向かう。 それまでに倒せなかったら、その時は俺たちが殺る。 それでいいな?」
「はい!」
サハラ様が頷いて、なら行けって言ってくれる。
そしてルースミアと呼ばれた紅い髪の毛の少女が僕を見つめてくる。 よく見るとその瞳はトカゲのようで、かといって獣人族らしい特徴が見えない。
「マイセン、そうか貴様があの小僧の魂を持つ者か」
僕の前世を知っている口ぶりでルースミアさんも、サハラ様の後を追っていく。 その時になって僕は思い出す。 マルボロ王国にある赤帝山に住むと言われる伝説のドラゴンの名前が赤帝竜だという事を……
「はは……ま、まさかね……」
麓に近づけば近づくほどゼノモーフで溢れかえっていて、いくら1年近くで強化された衝撃波を使ったとしても、なんとかなるような数ではなさそうだった。
どうする? そう思った時だ。 魔法のような詠唱とも違う声が聞こえてくる。
“自然均衡の代行者アリエルが命ずる”
“あるゆる自然現象を想像し”
“具現化せん”
“想像するは巨大な雹”
“豪雨の如く降り注ぎ”
“愚かなエイリアン共を粉砕しろ!”
「降雹!」
そんな声が聞こえたかと思った瞬間、麓に通じる辺り一面が急に暗くなって、こぶし大もある大量の雹が降り注ぎ出して慌てて避難する。
大量の雹で目の前が真っ白になって、キシャーキシャー悲鳴のような声だけが聞こえた。
「花道は作ってあげたわよ。 後は自分でケリをつけてきなさい!」
そんなアリエル様の声が聞こえたかと思うと、雹が降り止んで辺り一面粉砕されたゼノモーフの死体だらけで水浸しになっていた。
次話更新は明日です。




