死闘
僕たちを待ち構えている巨人はオーガというらしい。 小さく丸い目には英知も人情もうかがえず、膨れ上がった顔には歯並びの悪い牙が生えた大きな口が目立つ。
その手には巨大な丸太のような棍棒を手にしていて、鞣していない皮で出来た皮鎧を着ている。
「いいか、あれを食らったら一撃で死ぬ。 絶対に貰うなよ!」
「はい!」
剣を抜いて構える。
「馬鹿野郎! 戦闘経験の少ないお前はすっこんでろ! 俺は戦えと言ったんじゃないぞ」
「でも……」
「いいから見ておけ。 見るのも経験になる」
アレスさんがそう言うと友人の方へ向かう。
「どうだフレイ行けるか?」
「俺はたぶん問題ないと思う。 だが……あいつらがな」
アレスさんの友人のフレイさんが、あいつらといった、3人は4体のオーガに萎縮しているように見えた。
「あいつらはお前の仲間じゃないのか?」
「仲間っていうよりは知り合いだな。 今回の捜索を手伝ってくれたダンジョン組の連中だ」
ダンジョン組、つまり登頂を目指すものと違って、新たにできたダンジョンを主とした冒険者たちのことだけど、ダンジョン組を選ぶ大半は見返りを求めて行くものが多いらしい。
登頂は既に長い年月に渡って挑まれているため、あまり見返りが望めないみたいだった。
「大丈夫だ。 俺たちだって伊達にダンジョン組を名乗ってるわけじゃない。 ただ数が多い」
1人がそう返してきて武器を構えた。
こちらは僕を含めて6人でオーガは4体。 会話を聞いている限りだと、さっき僕が戦ったバグベアよりも強敵であることは間違いない。
「突っ込んでくるぞ!」
アレスさんが叫ぶのと同時に1体のオーガが突進してきた。
先頭に立っていた人が、そのオーガの突進を軽々躱して手にした武器を殴りつけようとした直後、眩い光がその人を貫いてきた。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
稲妻が男の人を貫通して壁に当たると稲妻は跳弾して、運悪く側にいたもう1人を稲妻が貫ぬいた。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そこで稲妻は消えたけど、そのたったの一撃で僕を救出に来てくれたはずの2人が倒れて動かなくなった。
「なっ! 馬鹿な! 雷撃……オーガメイジだと!? まだここはデプス1だろう!」
もう1人がオーガメイジに気を取られて声をあげる。
「避けろ馬鹿野郎!」
アレスさんの声も虚しく、その人は最初に突進してきたオーガの丸太のような棍棒に殴られて……
グチャッ!
そんな音が聞こえて、あたりに血が飛び散って、離れていた僕の頬にまで1滴の血が跳ねてきた。
頭が潰されたようで、僅かな間だけ身体をバタつかせたあと動かなくなった。
「悪りぃマイセン……助けられないかもしれねぇ」
あっという間に3人が殺されて、今はフレイさんが突進してきたオーガと戦っている。
そこにアレスさんが加わる前に僕にそう言ってきた。
アレスさんとフレイさんが必死に戦っている姿をぼおっと見つめながら、なんでこんなことになったんだろうと呆然となる。
シスターテレサの言った通りだったじゃないか……僕は孤児院を出てたった3日で死ぬんだ。
『————、細かいことを考えるな(どうでもいい)、なすべき事に集中しろ(やる事をやれ)』
まただ、呆然とする僕に声が聞こえてくる。
そうだ、敗北は死だ。 僕だけ戦いもしないで見ているだけなんてできない!
僕も剣を構えてオーガに立ち向かっていく。
そして目の前にいるオーガだけに集中する。 僕に気がついたオーガが、丸太のような棍棒を振り下ろしてくるイメージが見えて、それを躱して、イメージされる通りに剣を上段から綺麗な弧を描くように振り下ろした。
剣はオーガには届いていなかったように見えたし、手応えも感じなかった。 だけど、その直後に—————
ズシャッと音がして、丸太のような棍棒を持つ腕が綺麗に切断されて落ちた。
Ugaaaaaaaaaaaaaa!!
オーガが腕が落ちた激痛で叫び声をあげる。
「今だ!」
アレスさんの声が聞こえたかと思うと次のイメージが見える。
フレイさんの剣がオーガの腹を刺して、アレスさんの剣がオーガの腕を斬りつける。
僕はイメージの通りに振り下ろした状態の下段の構えから、斜め上目掛けて剣を突き出すと倒れかかったオーガの心臓に突き刺さった。
オーガが自分の胸を見て僕を見つめる。 僕が剣を抜いて飛び退くとオーガはそのまま地面に倒れて動かなくなった。




