怪物、怪盗モンブランと出会う
【こちらは5話目になります】
1話 yukkeさん
『僕、妖狐になっちゃいました 《夜襲・前編》 ~特別企画『ボスキャラ大移動』~』
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2話 師走皐月さん
『平凡男子高校生のSUPER HERO LIFE~外伝~【ボスキャラ大移動リレー小説】第二部』
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3話 木野二九様さん
『超ブラック企業の社畜の僕(5歳児)がトラックにひかれて異世界に転生した件ですが、なにか?』
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4話 蠍座ノ白鴉さん
『全ての神妖怪が集まる御子神神社は問題だらけ。神社とは須らく壊れるもの?【ボスキャラ大移動】』
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ささやかな星々がきらめく夜空に、突如ぽっかりと黒い穴が開いた。
夜を凝縮したような漆黒の穴から、まるで蜘蛛のような脚が伸びてくる。次に現れたのは、大きな口と、ぎょろりと見開かれた大きな一つの目。ずるりと抜け出した胴体からは細い尻尾が伸び、空気の流れを感じて大きく震えた。
「ギ…ギギィ……」
その黒い蜘蛛のような怪物は下手くそな弦楽器のような耳障り声を発する。その異形から計り知れない力を持っていることは推測できるが、それにもかかわらず、怪物はどこか悔しげだった。
「くそ……クソ……! この“世壊シ”様が、ネズミのように逃げ回るハメになるとは……!」
喉の奥ですりつぶした声を発しながら、世壊シはゆっくりと夜空から落下していった。
そこは多くの人間たちが暮らす街だった。星空を何百倍にもした明かりが煌々と輝き、夜空をも明るく照らさんとしている。多くの店がにぎわい、人間たちの乗り物が絶え間なく道を走っている。人間がまだ馬を乗り回していた時代に封印された世壊シにとって、それは若干の戸惑いを覚えるほどの光景だった。
「この世界を壊すのは難儀しそうだ。傷のこともある。しばらくはこの世界で休むのも良かろう――」
世壊シは体をくねらせ、ちょうど手近な建物に降り立つことにした。そこはこの世界の人間にとっての一般的な住居のようで、三角屋根の上には魚の骨のような金属が立っている。
「よっ……と」音を立てずに屋根の上に降り立つ。複数の脚で軒を掴み、体を安定させた。
いくつもの世界で暴れ回ってきた世壊シにとって、久々の休息の時間だった。しかし同時に、これまでの敗北を痛感する時間でもあった。大きな目をぎゅっと閉じ、次こそは……次こそは負けるわけにはいかぬと心に誓った。
ふっと目を開けた時には、怒りや悔しさは幾分和らいでいた。
「むっ?」
「おっ?」
見開かれた瞳に、一人の人間の姿が映った。
小柄な男だった。髪の毛は短く、毬栗のようにツンツンと尖っている。大人とも子供とも言えない顔つきで、その顔にはあまり知性が感じられなかった。突如異形の怪物に出会ったためか、ポカンと口を開き、さらに間抜け面に磨きがかかっていた。
男の手には、宝石があしらわれた数々の貴金属と、一枚の紙が握られていた。世壊シの視線を感じたのか、男はズボンのポケットにそれらをつっこむと、空いた片手を挙げた。
「――よおっ」
男は友達にするかのように、気軽に挨拶を交わした。
この世界の人間が皆そうなのか、この男だけが特別なのか世壊シにはわからなかったが、男は実にフレンドリーに接した。
男の名前は栗林秋人というらしい。知人からは“アキト”と呼ばれており、世壊シに対しても「アキトって呼んでくれ」と話した。試しにそう呼んでみると、アキトはニカッと笑った。
世壊シはアキトに興味が湧いた。安静にして傷を癒すという目的もあったが、たまには人間とゆっくり話しても良いだろうと考えた。
話によれば、アキトは泥棒らしい。今も一仕事終えたところで、先ほどポケットにしまったのも盗んで来たとのこと。ちなみに普段は、普通の学生として勉学に励んでいるらしい。世壊シと馬が合ったのも、“悪いことをしている“という共通点があるからかもしれない。
彼の言葉に嘘を感じなかったので、世壊シも自分の正体を話してみることにした。アキトは終始驚いていたが、最後まで真剣に聞いていた。そしてしばらく考え込んだ後、世壊シに近寄って言った。
「じゃあお前、この世界もめちゃくちゃにするつもりか?」
「いや……この世界の連中は運が良い。しばらく休養したら、また別の世界に行くつもりだ」
「ふうん。そりゃ、ありがたいけど……」
アキトは立ち上がると、世壊シの真正面に立った。その顔には、どこか申し訳なさそうな笑みを浮かべている。
「俺と勝負しないか?」
唐突に、そんなことを言った。
「勝負?」
「ああ。お前には悪いけれど、そんな凄い奴をこの世界に置いておくのって、やっぱり怖いじゃん? だからさ、俺が勝ったらお前はすぐに出ていく。お前が勝ったら、好きなだけこの世界でバカンスしてればいい。それでどうだ?」
愚問だった。
いくら消耗しているとはいえ、世壊シは強大な力を持った怪物だ。その気になれば、この街どころか国まで亡ぼすことができるかもしれない。目の前の男も、少し脚を振り回せばすぐに命を散らせるだろう。
「――いいだろう」
しかし、世壊シは彼の勝負に乗った。それはアキトに対する親近感がそうさせたのかもしれないし、ただの気まぐれかもしれない。
何より、この間抜けそうな男がどのような勝算を持って勝負を仕掛けてきたのか……それが気になって仕方なかった。
アキトが提案した勝負内容とは、一言で言えば“競走”だった。
「あそこに光ってるデカい搭があるだろ? この辺りじゃ有名な展望タワーなんだけど、あそこがゴールだ。直線距離で一キロくらいかな」
彼が指差す先には、確かに光る搭があった。無骨な円柱状の塔に、巨大な二つのアーチが覆い被さっている独特な形状だ。途中で幅広の川を挟んでおり、水面には展望タワーの光が反射して揺らめいている。
「ルールはわかった。それで、いつ始めるんだ?」
「そりゃ決まってるだろ?」
アキトは世壊シに背を向けると、すたすたと屋根の端に歩いていった。
「俺がスタートしてからだよ!」
言うが早いか、アキトは屋根から飛び降りた。ガサガサと生垣が揺れる音が鳴り、その後タタタと遠ざかる足音。その足音は、間違いなく展望タワーに向かって行く。
「……面白い人間だ」
どうやら勝手にスタートを切られたらしい。怪物相手に臆せずズルをしたアキトに、世壊シは心の中で称賛した。
世壊シは少しだけ迷った。自分の能力を使えば、あのタワーまで瞬間移動することは容易い。勝負は決まる。
しかし、それはやめることにした。この勝負を、そんな能力で決着してはつまらない。
そこで世壊シは、夜の闇に姿を隠しつつ、自分の脚で展望タワーに向かうことにした。
「さて、少し時間を無駄にしたな。アキトの奴はどこに行った?」
世壊シは一つ跳ぶと、ひときわ大きな集合住宅の天井に着地した。
そこから街を見下ろすが、アキトの姿は見えなかった。その大きな目で眼下を舐めまわしても、どこにも姿が見当たらない。しかし気配は感じられる。
「姿を隠す能力か?」そう推測した。
これはあくまで競走。相手の姿が見えなくても大きな問題は無いが、何か仕掛けられるおそれもある。例えば、秘密で乗り物を利用するということもあり得る。
「今回は奴を傷つけるのが目的ではないからな……となると、玩具を使う程度でいいだろう」
世壊シの全身から無数の細い管が生える。一本一本の管からは粘性の液体が零れ落ち、口には膜が張っている。
すると、無数の管から一斉にシャボン玉が噴き出した。シャボン玉の波は屋上から地上に降り注ぐと、展望タワー方面に一斉に広がった。庭から道路までシャボン玉が辺り一面を埋め尽くし、道行く人々は慌ててシャボン玉を避けていた。
「――フフ、見つけたぞ」
世壊シが見つめる先、何も無い空間で次々とシャボン玉が割れていく。それは展望タワーに向かっていた。
間違いない、姿を消したアキトだ。確信して、屋根から屋根に飛び移りながら距離を詰めていく。
どうやらアキトはただ透明になっただけで、他に策は無いようだ。展望タワーへの最短距離をひたすらに走り続けている。人間としては足が速いが、それでも世壊シには到底敵わない。
「それにしても、人が多いな」そう思わずにはいられなかった。
通りには提灯が並び、温かい橙色の光がぼんやりと灯っている。その下には屋台が並び、道行く人たちは楽しそうに食べ歩きしていた。少し視線を遠くに向ければ、まだまだ多くの人たちがこの場に集まってきていた。
「祭りか」どこの世界に行っても祭りの光景は似たようなものだなと思った。
少し気を抜いた間にアキトを見失った。彼は人ごみに紛れ込んだようで、シャボン玉もほとんど消えてしまう。
「これ以上の追跡は無理か……まあいい。奴がごく普通に走っているだけなら、負ける要素など無い」
先に展望タワーに到着し、奴が来るのを悠然と見下ろしてやろう。そう考えながら、人ごみの上を音も無く跳んだ。
アキトとの競走が始まっておよそ二分。世壊シはスタート地点と展望タワーの中間にある川の上空に浮かんでいた。当然川の上には建物が無く、せいぜい橋が架かっている程度だが、そこも既に多くの人間が集まっている。彼らの多くは川の上流の方を向いていた。
気になって同じ方向を向けば、河川敷の一部が照らされている。まだ余裕があると判断して、そちらの方に向かってみる。
その場所では、数人の男たちが何かの作業をしていた。汗を流しながら、真剣な顔つきで手を動かしている。
「奴らは何をしているんだ?」そう思ってさらに近づくと、視界が光に包まれた。
ヒュルルルル…………ドォン!
「ギイッ!?」思いがけない閃光と強烈な破裂音、高熱が世壊シの体を襲った。
困惑している間にも、次々と謎の爆発が立て続けに発生する。
ドン!
ドォン!
ボッボボッボッボォン!
ドッドォン! パラパラパラ……
あまりの眩しさに目を開けられない。このままではモロに衝撃を受けるうえに、平衡感覚も失ってしまった。
……これ以上やってられるか! 競走など知ったことか!
世壊シは悔しさに歯噛みしながら、また別の世界へ逃げていくしかなかった――。
「あいつ、怒ってるかな?」
橋の上で、アキトは次々と打ち上がる花火を眺めていた。
ポケットにしまい込んでいた紙を広げて見る。そこにはこのように書かれていた。
隅川花火大会
第一会場:午後七時半~九時 第二会場:午後八時~九時
アキトが謎の怪物と遭遇したのは、午後七時を少し過ぎた時だった。その時思ったのは、「どうにかしてこいつをやっつけるか、逃げ切るかしなければ」ということだった。
そして思いついたのが、花火を利用する方法だった。怪物と雑談に興じたのも、花火大会が始まるまでの時間稼ぎだった。展望タワーを指定したのも、その中間地点に花火の打ち上げポイントがあったからだ。
「ねえ、アキト君。今、花火の横に黒い物が見えなかった?」
浴衣姿の桃香が話しかけてくる。彼女は突如汗だくで現れたアキトに驚いていたが、当初の予定通り一緒に花火を楽しんでいた。
「黒い物? 俺は見えなかったけど――」アキトは頬を掻きながら夜空を見上げた。「きっと、虫でも飛んでたんだろ」
6話 Lune bleueさん
『強超激突!! 人気アイドルグループのセンター VS 世界最高峰の大泥棒 VS 世界一の怪力JK警察官!! 第四話「未知なる脅威、顕現す!」』
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7話 藤沢正文さん
『幕間劇の侵入者 『脳筋乙女の異世界花道:番外編』』
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8話 暁月夜 詩音さん
『私と精霊の非日常【ボスキャラ大移動】』
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9話 レー・NULLさん
『零の映写機希構 企画【ボスキャラ大移動】』
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10話 yukkeさん
『僕、妖狐になっちゃいました 《夜襲・後編》 ~特別企画『ボスキャラ大移動』~』
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