有名税
「すみません、山本智花さんですよね?」
背後から女性に声をかけられた。
「あぁ・・はい、そうですが・・」
私は、迷った挙句白状した。
「あの・・・握手してもらっていいですか?」
ファンらしき人物が申し訳なさそうに聞いてきた。私は、仕方なく握手した。
「あと、ここにサインしてくれませんか?」
ファンらしき人物は、さらにお願いをしてきた。
「すみません、プライベートなので、勘弁してもらってもいいですか?」
私は、丁重に断った。ファンらしき人物も理解したようで、「頑張ってくださいね」と一言残し、去って行った。
この手の輩は、非常に多い。ろくにファンでもないくせに握手やサインを求めてくる。本当のファンならば、イベントなどに来ればいいと心の底から思う。
次の日の、ネットニュースに私の記事が上がっていた。
『山本智花!握手はしてもサインはしない。』
内容を見ると、昨日のファンらしき人物が、私に握手とサインを求めてきた事が一部始終記されていた。
”何これ?こんな事がネットニュースになるの!?確かに最近ドラマの出演数が増えてるからってこれは、ないんじゃないの!?”
マネージャーに今回の件を尋ねても事前に聞いていなかったようだ。
「今後ないように言ってもらえる!」
マネージャーを叱責した。
「わかりました。週刊誌には、私から注意を入れておきます。すみませんでした。」
マネージャーは、平謝りをした。
”本当にコイツ使えないわ!何年マネージャー業やってんのよ”
その日の夜
今日は、内緒で付き合ってる彼氏とイタリアンを食べに行った。裏口から入れてもらい、個室で食べてたから、絶対にバレない。
その後、彼の家に泊まり、朝になって家に帰った。
帰った後、マネージャーから連絡が入った。
「何よ!こんな早くに!」
私は、バカなマネージャーを怒鳴った。
「昨夜、男性の家に泊まられましたか?」
私は、動揺しながらも答えた。
「それが、何なのよ?」
マネージャーは、答えた。
「明日のネットニュースに上がるそうです。」
私は、顔真っ赤にして怒鳴った。
「馬鹿じゃないの!それを止めるのが、あんたの仕事でしょうが!私は、これからなのよ!どうしてくれんのよ!」
「それが、できないからお伝えしているんです。どうされますか?」
マネージャーは、淡々と答えた。
私は、しばらく沈黙して、答えた。
「シラを切り通すわ」
次の日のネットニュースは、私の話題で持ちきりだった。しかも私の彼氏は、既婚者であったことも手伝って、私の仕事は、イメージダウンにより著しく減った。
さらに連日、ワイドショー、週刊誌、ネットニュース等で私は、プライベートもなくなり追い回され、ネット上で叩かれ続けた。
妻子ある彼は、私をふって別れを告げてきた。
私は、仕事も彼もなくなり憔悴しきった。
数ヶ月後
社長から事務所に呼ばれ、事務所との契約期間も切れてしまい、事務所サイドは、私とは契約更新をしない方針である事を社長から告げられた。
帰り際、ふと事務所を見渡した時、新人女優のリストが目に入った。
見覚えのある女性の写真があった。担当マネージャーは、元私のマネージャー。
よく見ると、数ヶ月前、私に握手とサインを求めてきたあの女だった。
まさか、マネージャーとこの女は、グルだったの!もしかしたら、週刊誌に情報を流したのは、マネージャーの差し金?
もしかしたら、不倫現場をリークしたのも私のマネージャーなの?
マネージャーを問い詰めようと事務所内にマネージャーがいるか探したがいなかった。マネージャーに電話をした。
「全部あなたが仕組んだことだったんでしょ!?」
私は、激怒した。
マネージャーは、冷静に答えた。
「何を仰っているのか、私にはわかりませんが、あなたは、沢山の方々に嫌われていたことは、確かです。」
私は、今まで周りの人にしてきた事を振り返った。