表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

性別は一応女です。

翌日、縁結びの神の下っ端、和久は、初歌ういかの家に向かう。


すると、

ベランダから、ダンダンダン‼と凄まじい板に釘を打ち付ける音がする。

周囲を見回し誰もいないことを確認すると、玄関をすり抜け、


「何してるんですか?」


と問いかける。


「ん?釘を打っとる。これがまたストレス発散にもってこいなんよ」

「……はぁ、そうなんですか……御近所は……」

「昼間にしよるやんか。夜の22時に洗濯機回しよるんよりもましやわ」

「夜……」

「何回クレーム言いにいこかと思ったわ‼しかも23時に干し初めて、あぁ、鬱陶しい‼」


憤慨する。


「まぁ、仕事とか学校とかあって、大変なんはわかるけどなぁ……一応周囲にいっといてくれへんかなぁ‼」

「まぁそうですね……で、何作っているんですか?」

「ん?ベランダの多肉植物達を並べる棚。セメントだからさぁ……ベランダ。夏は暑いし、冬は冷たいんだよね。うちの子達が可哀想だもん……。それに、この間ドングリを拾ったから、植えとこうかなと思って。苗を育てて返すか、大きく育てて夏の間に日除けになるといいなぁとおもって」

「何年ここにいるつもりですか」


突っ込む。

振り返った初歌は微笑む。


「さぁね……死ぬまでじゃない?」

「家族はいるんでしょ?」

「ん?うちにいるでしょ?可愛いうちの子達がぁぁ‼」

「……ぬいぐるみじゃありませんよ」

「なぁにぃぃぃぃぃ‼うちの子達をただのぬいぐるみ扱いするなぁぁ‼」


お多福の面の顔が、般若に変化した。


「うちの子にはちゃんとした名前がついている‼今度来る子には、『五虎退ごこたい』か、『にっかり青江』か『童子切安綱どうじぎりやすつな』か『鬼丸国綱おにまるくにつな』にしようかと……」

「それは全部日本刀の名前じゃないですか‼物騒なと言うよりも、あんたも最近のゲームオタクですか‼」

「ん?あぁ、日本刀の?違うわ。うちは、昔、坊さんになろうとして出家を止められて、じゃぁ、刀鍛冶になりたい言うたら、女はいかんって言われて、宮大工も駄目、仏師に、錬金術師に、練丹術にあれこれもいかんかったんよなぁ……あ、山岳信仰は希望やったけど、体が弱いけんって禁止された」


何故か遠い目で呟くが、聞いていてはっきり言えばヤバイ。


「で、テディベアを作ったら、棄てられるし……もういい加減に嫌になった……で、今度来る子は三国志の『五虎将』に似てるから『五虎退』がいいなぁ……」

「ネーミングセンス怪しいですよ」

「失礼な。日本の限定ベアだから日本名にしたんで。もっと可愛い名前なら、静御前、巴御前、常磐御前……不幸やないか~‼それとも義経か?義仲か?実朝か?鶴岡八幡宮にしようか?それなら立体曼荼羅にしたるわ~‼」


だんだんずれていく。


「それとも太宰府天満宮かぁぁ‼」

「……地名と言うか、かなり変ですが……」

「んなら、『五虎退』で、けちつけるなぁぁ‼『八艘飛び』ってつけるで‼」

「九郎判官じゃあるまいし……」

「……じゃぁ、直江兼続にするか……友人は喜ぶ」


頷いた初歌である。

よろめく和久……。


「あ、友人の方もオタクですか……」

「オタクの友人はオタクってのは知らんのか?」

「知りませんよ‼」

「まぁ、あんたも注意せな、オタクの仲間入りだよ?」


にやっ……


笑う初歌は、最後の一撃‼とばかりに叩きつけると、


「あースッキリした‼」

「……何ですか?これ……サボテン?」

「ん?ヒスイ殿ひすいでんって言う多肉植物。トゲトゲで可愛かろ?で、そこのニョキニョキのお花みたいなのが、黒法師。他にも……ブロンズ姫に……星の王子さまに……」


にこにこと嬉しそうに説明する中に、何故か異物がある……いや、一般のベランダにはあり得ない……。


「これは……」

「ん?ヨモギ。で、こっちはハーブ。本当はハーブをもっと大きい鉢で育てたいんだけどねぇ……大葉おおばとか、紫蘇しそとか……」

「大葉?」

「はぁ?知らんのかね?青紫蘇あおじそのことや。夏に素麺とか、冷やしうどんとかにいれるとおいしいんよ」

「他にラベンダーは来年に植えようかと思って。プチトマトに、カミツレとか、ミント系も……」


嬉々とする。


「カミツレ?」

「……あんた勉強不足やな……カモミールや‼炎症を抑える効果がある。歯肉炎とかにも効果がある。歯磨き粉に入っとるで。それにハーブティーの定番やないか‼女性似合うハーブティーは、ローズヒップ。ミントは清涼感があるから熱くても夏にお勧めや。ラベンダーは安眠効果、鎮静効果」

「えっと、どんなものでしたっけ?」

「……全く……」


部屋に入っていった初歌は、図鑑を数冊持ってくる。


「はい、ハーブの本。これがカモミール。レモングラスに、ミントはアップルミントとかスペアミント……かなりミントは繁殖しやすいから、畑より植木鉢。ラベンダーは多年草だし、匂いも優しいからポプリにすると喜ばれるんだよ。紫蘇系も増えるけど、トマトとかキュウリとかと一緒に植えると虫が匂いで逃げるんよ」

「はぁ……よく知ってますね」

「勉強したからね……かわいがっとった、松や梅に野ばらをここでは面倒見られずに、実家に預けとる……はぁぁ……本当に盆栽習いたかった……」

「盆栽……」


かなり変人の域である。

そう言えば、ベランダに来るまでの部屋にずらっと並んでいたのは、片方はぬいぐるみ……もう片方には日本刀の雑誌が並んでいた。


「えっと、そろそろ中で掃除しません?洗濯しましょう」

「……」


うんざりとした顔でため息をつく。


「いや……」

「きれいな方がいいでしょう?」

「……皆私の宝物、捨てるか、持っていくもん……」

「と言うか、私は、貴方の宝物が何かわかりませんし……。ごみだけでも捨てません?それとか洗濯物を仕分けして、洗濯しましょう」

「うぅぅ……」


嫌々動き始めた初歌を追いかけ、部屋に入っていったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ