第0章、彼らの日常(3)
「抱き枕になるって、だめに決まってるでしょ!」
「そうだよ。カヨに抱かれると逆に汗だくになるんだぞ!」
「そこじゃない!!」
キレのあるネッシーのつっこみだった。
「そんな男子と女子が夜に一緒になって寝るとかそんな…、ハレンチな…」
途中から紫樹の声がだんだん小さくなる。
「大丈夫、ちゃんと方法がありますから!」
「どんな?」
聞くだけ聞いてみるかと、夜はちょっとめんどくさそうな顔をした。
「私の全身を冷やせばいいのです!」
すでに却下されそうな方法だが、どうやってするのかとりあえず聞く。
「例えば、全身に保冷剤を装備するとか、寝間着をあらかじめ冷やす、とか!」
とか! じゃねえよ。風邪ひくわ。
「はいはい。気持ちは受け取ったからカヨ、今回は身を引いてくれ。カヨは体温高いから、冬のときにお願いする。」
いや、それもどうかと思うが、まあとりあえず陽弧はうれしそうに了承し、あんな馬鹿げた案を実行することなく仕切り直すことができた。
「あ、体温で思い出したけど、ネッシー体温低いよね?」
突然と話を変えんなよこの男は。
「し、知らないわよ! ってか、なんでそんなの知ってんのよ!?」
「いや、初めて握手した時手冷たいなって思って。」
あの時そんなこと思ってたのか…、と紫樹は思う。
紫樹と夜が握手をした日。男どころか人に少し興味を持てなかった紫樹が、初めてと言っていいくらい人と接することが多くなったきっかけとなった日だ。
そんな紫樹にとって印象深いひと時をこの男はどうでもよいことを考えてたということになる。
「なあ、ちょっと手貸して。」
「え、ちょっと…」
夜が半ば強引に紫樹の手を頬に当てた。
「…はぁ、冷た~い! すごく良い!」
手に対する褒め言葉ではないなそれ、紫樹もあまり喜べなかった。
「なあネッシー、しばらく一緒に寝てくれない?」
「はい!?」
その日の夜、紫樹は夜の抱き枕代わりになって一緒に夜を過ごすこととなった。
別に夜の寝相が悪すぎることもなく、どこか触られることもなく、強いて言うならずっと紫樹の冷たい体をつけて寝ている。ドキドキもするが、苦しい。
『こんなことなら冷え性もろもろなんとかすればよかった…』
ずっとくっついてる状態は落ち着かない。身動きがとれないし、なんか吐息が肌に当たってるし、正直言って今すぐ辞めたい。
でも、この赤ん坊のような寝顔を見ると、
『まあ、悪くないか…』
そう思えてしまった。
結局朝まで眠れず、抱き枕役は一日で終わった。
これが、いずれアダムと呼ばれる夙縁夜の生活。
しかし、こんな穏やかな日常は長く続かない。
なぜなら彼らには、およそ15年に渡る人類の敵と最前線で戦わなくてはならないという使命があるからだ。
夙縁夜 「ネッシー大丈夫? 寝てないんでしょ…」
一極紫樹 「だ、大丈夫よ。仕事なんだから…」
夙縁夜 「収録時間変えてもらおうか? さらにこのあと授業あるのに…」
一極紫樹 「だ、大丈夫だって! さ、始めよう。今回の質問コーナーは?」
倖五花陽弧 「えーと、あれ、またミカエルさんからだ。」
ミカエル 『メインキャラの名前は随分と変わってますね。特に主人公の夜はキラキラネームでしょうか?』
夙縁夜 「こりゃまた随分とまともな質問だな。ここってボケる場所じゃないんだ。」
一極紫樹 「この作品に何を求めてるの…。でも名前は確かに気になってたんだよね。」
倖五花陽弧 「ナイトの名前は変わってるよね! ナイトの両親はロマンチックだね!」
夙縁夜 「そうだね、まあ産まれてからほぼすぐに死んじゃったんだけどね…」
一極紫樹 「確かおじさんと昔は暮らしてたんだっけ?」
夙縁夜 「うん、そうだよ。まあおじさんは仕事で忙しいからほぼ一人暮らしになったけど…」
一極紫樹 「そうなんだ…、って話それてる。ナイトって名前で不便なことあった?」
夙縁夜 「そうだな。…ああ、そういえば!」
倖五花陽弧 「何かあるの?」
夙縁夜 「中学生のときに言われてたのが、ただの英語じゃんって。」
一極紫樹 「ああ、なるほど。」
倖五花陽弧 「じゃあこれで質問解決でいいの?」
夙縁夜 「いいんじゃない…、他に何かすることあるの?」
一極紫樹 「いや、今回はもう時間だね。そろそろ閉めよう。」
夙縁夜 「じゃあ次回から本編始めます。僕たち三人だけでなく別のメンバーも次回から登場します!」
一極紫樹 「これからも、陰と陽の古文書をよろしくお願いします!」
倖五花陽弧 「私の登場はしばらくになりますね!」
一極紫樹 「それで閉めないでよ…」