なぜかうちの店が異世界に転移したんですけど誰か説明お願いします【和風納涼企画~百物語~】
「あれは、ある晩のことよ」
お店のテーブルにお酒とおつまみ、そして蝋燭を並べて電気を消した状態でサラさんが語り始めます。
今日は亮君企画の納涼百物語大会の日です。
怖いものが苦手な私は毛布を用意しています。
参加人数は6人……うちわなども用意して、日本酒で乾杯です。
「うちで働いているメイドがね、非番の日に誰もいない廊下で白い人影を見たの。
あぁ、見回りをしているんだろうなと思ってあまり気にしていなっ肩そうなのだけれど、翌日夜間見回りをしていて気が付いたの。
見回り経路は決まっているけれど、昨日の時間、人影を見た場所はどうやっても見回りに行く時間ではなかったの。
そのことをに気が付いた彼女は、同僚やメイド長にそのことを放したそうなのだけど、やっぱり誰も知らないのよ……。
そしてメイド長から聞かされたのは昔から、その場所には若くして亡くなった侍女の例が現れるという話だったそうよ……」
う……いきなり怖いです……。
ちょっと鳥肌が……となりを見ると亮君はニコニコ……というよりにやにやしています。
いつも一緒にホラーを見るときはこんな表情をしているんですよね……、何が面白いのやら。
「オーソドックスだけど、定番という感じでいいな。
やっぱりホラーはいいね。
ねぇ、茜さん」
む、わかってて言ってますね。
今日はくっつきませんよ。
ホラーを見るときは亮君の膝にすっぽり収まってみているのですが、今は人前ですから。
「それで、このろうそくの灯を消せばいいんだっけ蒼井」
「あ、そうです。
百個もお話ししていたら夜が明けてしまうので人数分しか用意していませんけどね」
「まあそうよね」
そう言ってからサラさんはフッと息を吹きかけて、ろうそくの灯を消しました。
薄暗かったお店がさらに暗くなります。
「うひっ!? 」
サラさんに合わせて耳に息を吹きかけられました……。
亮君ですね……?
あとでお説教です。
「じゃあ次は俺か」
次に名乗りを上げたのはジョンさんでした。
傭兵をしているので、そういった話は結構知っていそうなだけに怖いですね……。
「あー、あれはいつだったかな。
ものすごくガタイの良い男がいてな、ちょっとごついが俺好みの男だったんだ」
あ、読めました。
これはその男性が亡くなって、後日夢枕に立つというやつですね。
「しばらく話していて仲良くなったんだが……ある日酷く酔っぱらってな。
解放ついでにちょっと手を出してしまおうかと思って部屋に連れ込んだんだ」
ん……? 予想と違っていたかもしれませんね。
「それで脱がせたらな、今日菌が少し変わった形をしているんだ。
まあ暗かったからあまり気にしていなかったんだが、さらに下も脱がせてみるとな……お床についているべきものが付いていなかったんだ……。
あの時はぞっとしたぜ」
「下ネタじゃねえか! 」
蝋燭を摘まんで消したジョンさんに対して亮君が抗議の声をあげます。
えーと、男好きのジョンさんが女性に手を出してしまいそうになったという話ですよね。
……通報したほうがいいのでしょうか。
「そうはいうけどよ、幽霊なんかよりもよっぽど怖いぞ。
後日脱がせたことばれてぼっこぼこにぶん殴られるわ、他の女傭兵から目の敵にされるわで。
あ、でも男が詳しく聞かせろと寄ってきたのは面白かったな、相手がゴリラ女だと判った瞬間に散っていったのはつまらないが」
ものすごく失礼ですね、男の敵であると同時に乙女の敵であることもわかったので、今度ジョンさんにはタバスコパフェをごちそうしましょう。
それと首筋に息を吹きかけた亮君はお説教時間を伸ばします。
「じゃあ次はあたしか、あれは花を届けてほしいという注文を受けたときだったんだが……少し変わった話でな。
注文を受けた花というのが墓に備える花だったんだ。
それを届けた先は普通の民家だったんだ……けど違和感があったんだよ。
こんな家有ったかなってな。
それで別の日に近くを通りかかったら、見る影もないボロボロの家が一軒。
窓から中を覗くと、そこにはあたしが届けた花がカラッカラになっていたんだ」
これまた……箸休めがあった分、より怖く感じます。
あと、背中を指で撫でた亮君、絶対に許しません。
「それじゃあ、俺の番かな……」
あぁついに来てしまいました。
亮君の番です。
「あれは、つい昨日のことだ。
ちょっと騎士の仕事で帰りが遅くなったんだが……ここに帰ってきたときシャリン、シャリンという音がしていたんだ」
や、やめてくださいよ……自宅で心霊体験とか洒落にならないです。
夜トイレに行くのも怖くなってしまいます。
あとお風呂とか、前門の幽霊後門の亮君です。
「その音はそこの調理場から聞こえたんだ。
茜さんが起きてるのかな~と思って覗いてみると、薄暗い中で茜さんが包丁をといでいた音だったんだ。
先に寝室に行っていたらすぐに戻ってきて一緒に寝たんだけどな。
以上」
「は、それで終わりかよ」
「拍子抜けもいいところだねぃ」
「さすがにこれは……擁護できませんわ亮様」
「いやいや、こんな企画しておいてなんだけどこれ以上茜さんを怖がらせたら後が怖いからさ」
「あらお優しい、よかったわね、蒼井。
素敵な旦那様に……どうしたの? 」
昨日の夜……確かに部屋に戻ると亮君が先に寝ていました。
それは事実です。
「昨日……私包丁研いでいませんよ……」
「え……? 」
「私昨日部屋に戻った時に亮君がいたのは、トイレから戻った時です……」
「じゃあ……昨日俺が見たのって……」
まさか……本当に……?
怪談話が現実になるなんて卑怯ですよ……。
「りょ、亮君、今日は何があっても一緒ですよ。
トイレもついてきてください! お風呂も一緒に入りましょう! 」
「あ、あぁそうする」
「さっきまでのいたずらも大目に見ますから! 」
毛布をがばっと被って亮君にしがみつきます。
もぞもぞと毛布の内側に亮君が潜り込んできます。
「いたずらって……? 」
「え、蝋燭を消すたびに耳に息を吹きかけたり、首筋に息を吹きかけたり、背中をツーッてしたり……」
「おれ……ずっと酒飲んでつまみ食べてたけど……」
「……さー今日はお開きにしましょう! 」
思わず大きな声を出してしまいます。
東京であればご近所さんからクレームが来ていたでしょう。
「わ、私も泊まらせてもらえないかしら! 」
「俺も今日は帰りたくないぜ……いや帰りたいけど一人で帰りたくない」
「あ、あた、あたしは、と、とまりが、がが、いいいいいいなぁとおもんだが」
サラさん、ジョンさん、ジェーンさんがガタガタと震えながらそう言いました。
その瞬間、厨房からガタという音がして全員そろってビクッと震えます。
「ジョンさん、電気を! 」
「お、おう! 」
ジョンさんに電気をつけてもらい、私と亮君はお酒と料理を持って、サラさんは両側を片付けます。
そして急いで二階の自室に飛び込んで6人で朝が来るまでガタガタと震えていました。
翌日お店は休業させていただいて、そして朝食を作って気が付きました……。
用意した料理と蝋燭が一つ多かったことに……昨日あの場所にいた6人目はどなただったのでしょう。