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駅長  作者: tf
18/46

高い高い

 炭坑駅に来て2年目、秋を越え、厳しい冬が炭坑村にやってきました。今年はいつもより積もるのが早い。


 列車を何とか定時に動かそうとしますが、吹雪と積雪でうまくいきません。


 遂に特急便、急行便が運休、準急と普通列車のみの運転になってしまいました。


 「ご利用の皆様にお知らせします。本日、雪のため・・・」


 繰り返し、マイク放送、肉声放送を行っている状況で待ち合い場は混雑しておりました。


 「お待たせしました!7時32分発、瀬戸港行きの改札を開始しまーす!2列にお並びくだーさい!2列にお並びくださーい!」


 私はお客さんに声をかけると、皆、2列に並び、切符を私に手渡してきて切符を切ります。


 「おはよう。大変だね、お春ちゃん」


 「おはよう!お春ちゃん」


 いつの間にかお客さんから名前と顔を覚えられ、やっと炭坑村に馴染めてきた頃でした。


 「ごめんなさい!今日は金輪島に行く汽船は、海が荒れて欠航なんです。電報を打って、いつ再開をするか聞いてみます。お名前とご住所をこちらにお書き下さい」


 出札で切符を売る紀子ちゃんも大忙しです。


 「駄目だ!もう!いっぱいだ!改札を止めろ!止めろ!」


 竹谷助役は両手をあげてばってんを作り、改札を止めろと指示を出しました。


 笹木先輩と目で合図を出し合い、「すいません!客車がいっぱいでご乗車が出来なくなりました!一旦、改札を止めまーす!」と改札の柵を閉めました。


 「あっちゃぁ、もう、乗れないのかい?」


 お客さんは急いでいる様子ですが、客車がいっぱいで乗れないと説明しましたが、「用事があるんだが、困ったな・・・」とおっしゃいます。


 何とかしたいのですが、満員ではどうすることも出来ません。


 その時、スピーカーの入る音が聞こえました。


 「ガッガー,ピー、皆様、駅長の井口でございます。本日はお急ぎのところ、ご不便をおかけします。ただいま、運転を管理している指令所などに通達しまして、本日に限り、客車を3両増結します。大変にお待たせしてしまい、申し訳ございません。駅員の指示に従い、今しばらくお待ち下さい」


 待っているお客さんから拍手喝采でした。何とか全員が乗車できそうでした。


 「お春ちゃん!助役と一緒にホームに行ってくれたまえ!増結作業を手伝うんだ」


 駅長がダブルのコートを着ながら改札にやってきました。


 「はい!分かりました!改札、お願いします!」


 私は駅長に切符切り(パンチという)を手渡し、助役と一緒にホームに行きました。


 吹雪くホームで助役から指示を仰ぎます。


 「よろしいか?留置線から3両連結したまま、一旦本線に出る。転轍機を過ぎたら、停止、運転士に1番線に誘導する旨を伝え、最後部より誘導せよ。連結後、ホースを繋いで制動試験をやる。暖房用のホースには気をつけること。復唱せよ!」


 「留置線から3両持って、本線へ!転轍機を通過を確認して、運転士に1番線に誘導することを伝え、最後部より誘導!本車両と連結!ホースを繋いで制動試験!暖房用ホースには注意すること!復唱終わり!」


 「よし!それでは注意して行いなさい」


 しばらくすると留置線から3両連結した電気機関車が動き始めました。

 

 私は雪に足をとられながら、吹雪で視界が悪い中、本線へ出る転轍機にやってきました。


 ポーー!


 私に気づいた運転士が汽笛を鳴らします。吹雪の中現れた巨大な電気機関車は、化け物ようでした。


 私は信号灯(カンテラ)をゆっくり進めという意味の合図を送る。


 転轍機を通過!赤信号を出します。


 ギイーー!と大きな音を立てて停車。


 「次は運転士に連絡しなきゃ」


 ぎゅっぎゅとラッセルをしながら運転士の元に急ぎます。


 「おう!大丈夫かー!?」


 先に運転士が声をかけてくれました。


 「あ、はい!大丈夫です!あの!1番線に誘導します!ポイントを換えますから!少し待ってて下さい!」


 「1番線な!了解!慌てるなよ!転けるぞ!」


 「はい!」


 顔はよく見えなかったですが、優しさがある人だなと思いました。


 転轍機の横にトークバックという通信設備があります。柱にマイクとスピーカーがあり、これで各現場と会話ができます。


 「もしもし!信号室!信号室!聞こえますか!?」


 『はい!信号室!』


 この声は熊川さんです。


 「熊川さんですか!?五十里です!あの!2Rにいます!増結車両が本線に出ました!1番線へ切り換えと入換信号を出して下さい!」


 『分かったよ!転轍機に車両は被ってない?』


 「被ってません!支障していないのでお願いします!」


 転轍機が動き、信号機が進行を指示する。



 「転轍機!密着よし!入換進行!」


 客車の手すりに捕まり、片手でカンテラを振り上げます。


 ポーー!がっしゃん!



 ゆっくりとホームに入線しますが、ホームからせり出た雪が太股や脇腹に当たります。結構、痛い・・・。



 指でカンテラを赤に切り替え、列車を止めます。


 互いの連結器を確認しますが、片方の連結器が閉じています。連結器はグーを縦にしたような形です。互いのグーが開いてないと連結できません。そのまま連結すると「げんこつ」をしてしまいます。そして運転士から本物のげんこつをもらうのです。


 「う、うーんっしょ!うーん!」


 ロックを解除しようとテコを動かしますが、氷ついているのかびくともしません。


 「う、うーんっしょ!キャ!」


 手が滑り、尻餅をついてしまいました。


 「あぁ、やっぱり・・・。ほら、立てるか?ちょっと貸してみろ」


 気づいたら、抱き起こされていました。


 「ほら!よ!」


 ガチャンガチャンと数回、ロックのテコを動かし、点検用ハンマーで叩いてロックを解除しました。



 「すいません!ありがとうございます」


 「いいってことよ。よし、連結するぞ」


 「よいっしょ!あ!」


 ホームへ上がるのに失敗してまたもや尻餅をついてしまいました・・・。今日は最悪です。



 「あはははは!大丈夫か!?あはは、ほら!」



 今度は両脇を掴まれ、高い高いをされました。


 な、何だ!この人は!そんなにぺたぺた触って!と思いましたが、仕方ないです・・・。


 「すいません、ありがとうございます!」


 「はは、お前、小せぇなぁ!」


 見上げて見ると180センチは越えているガッチリした体型で、ニコニコ笑う顔が豪快な運転士でした。



 まぁ、身長は143センチしかありませんけどね!あなたがヒグマのように大きいだけです!と言ってやりたいと思いましたが、先輩なのでそんなことも出来ず、早くこの場から離れるのがいいと思いました。



 「あはは・・・、それでは運転士さん、お客さんが待っているので連結を」


 「お?おう!誘導は頼んだ」


 すたすたと歩くヒグマを見送り、誘導をしました。


 無事に連結が終わり、お客さんを客車に案内しました。

 

 皆、無事に乗れてほっとしました。


 ほっとはしたんですが、どうも、胸の辺りがもやもやします。


 多分、子供のように扱われたのが気に食わなかったのでしょう。


 休憩時間、私は紀子ちゃんに不満をぶちまけたのは言うまでもありません。



 それが綾波 鉄郎との出逢いでした。




 





 


 


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