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駅長  作者: tf
13/46

梅ジュース

 春も終わり、雨が長く降る季節になりました。

ホームから見える景色も滴り濡れて美しいものです。


 山は緑が濃く見え、霧が立ち、雲の中にいるようです。

 村や駅舎は雨に打たれ、大合唱です。


 パァーン、パァン!


 この警笛鳴らし方は塩田運転士です。私に今から行くよと合図です。


 いつも通りに指差確認喚呼をして到着を待ちます。


 キィーとブレーキを軋ませて入線してきます。


 私は敬礼をし、塩田運転士め敬礼を返します。


 「お待ちどうさまでした!折り返しの吉野行きでございまーす!ご乗車ありがとうございました。終点の瀬戸内炭坑でございまーす!」


 「駅長さん、こんにちは」


 「こんにちは!」


 降りる人達が私に挨拶をしてくれます。


 「はい、こんにちは。ありがとうございました」


 当たり前ですが、列車がきちんと到着するのはほっとするものです。


 バン! 前部標識灯滅、後部標識灯点、よし。


 塩田運転士が降りてきました。


 「駅長、お疲れさんです」


 「はい、お疲れ様でした。梅ジュース、ありますよ」


 「そりゃ、いただきます」


 台所に向かい、塩田運転士と車掌、私の分を用意しました。

 梅ジュースは近所の皆さんと作ったものです。たまに駅に持ってくるのです。


 「いただきます」と塩田運転士と車掌が口をつけます。


 「うまい、今年もいい味ですなぁ」


 「うふふ。塩田くんは今年、定年?」


 「ええ、もうこれを飲むのも最後ですわ」


 「そう、塩田くんもそんな歳ですか(笑い)」


 「そんな歳って。もう、孫がいるんですよ?今となっちゃー、孫のお小遣いを稼ぐために車に乗っているもんですよ。駅長も働きすぎですよ(笑い)」


 「うふふ。それじゃ、私はひ孫の小遣いを稼ぐために駅長をやっているのね(笑い)」

 

 「ははは、ひ孫ときましたか、駅長には敵わないですな」


 「孫とか、ひ孫とか次元が違いすぎて話が通じないですよ」

 

 若い男の子の車掌は場違いのような顔をします。  


 「うふふ、あなたにとって私達はもうおじいちゃん、おばあちゃんね」


 「そうだな。お前の歳の頃にはもう、運転士をやっていたし、駅長はもう駅長だった」


 「え?駅長ってそんな頃から駅長だったんですか?」


 「何を言っているんだ。研修所で習っただろう?綾波駅長は最年少で駅長になった人なんだぞ。それよか、15才からずっとこの駅にいるんだぞ?」


 「え!?すごいですね!」


 「うふふ、とんとん拍子になっただけですよ。というか、まだ研修所でそんな話をしているんですか?恥ずかしい」


 「いえ、駅長は紅綬褒章、緑綬褒章、黄綬褒章を取ったすごい人だって習いました。社長より偉い人だからお見かけしたら最敬礼をしなさいって・・・」


 「うふふ、私はただの駅長ですよ。あなたと同じ鉄道員です」


 たまに会議で行く本社に入ると誰もが私に最敬礼をなさいます。


 駅長達も私に最敬礼、本当に偉くなるというものはあまり気持ちいいものではありません。

 

 同じ釜の飯を食べている仲間なんですから・・・。






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