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”クリス・アーティクル”の中の人について

 「うおっ」

 クリス改めグリードは、自身の名前を叫びながら突進してきたリュシーの事を受け止めた。

 ドレス姿の少年に向かって突進する少女というのは、不思議な光景である。

 「グリード様、グリード様、グリードさまぁああああああああ」

 「おおおお、ちょっと、落ち着こうぜ?」

 「落ち着けるわけなどありえませんわ。ああ、グリード様、グリード様っ! ああ、グリード様のにおい」

 「ちょっと、待て、嗅ぐな!」

 「だって久しぶりのグリード様ですわよ!? ああ、もうこのリュシーがどれだけグリード様とまた会える事を願っていたのか! ずっと、ずっと探していたすもの。ああああああああ、グリード様!!」

 先ほどまでのクールな様は本当にどこに行ったとばかりに、リュシー大興奮である。

 「リュシー様……、本当にその、”クリス・アーティクル”とされていた者は探していた者なのですか?」

 そんなリュシーの様子に、宰相は青ざめた顔を隠せないままにそう告げた。

 それはそうだろう。魔法大国アッシュルカの魔法師団長の娘であるリュシー・エブレントが、探していた人物を、ミラージュ王国の侯爵位についている人間が自由を奪い、奴隷としていたのだから。

 「ええ、この方は私のグリード様ですわ! ずっと我が国が探していた方ですわ!」

 リュシーはグリードに抱きついたままそう告げた。

 「……そ、そんな。何かの間違いではっ」

 そう叫ぶのは、騎士たちに囲まれているアーティクル侯爵である。青ざめているのを見るに、アーティクル侯爵はその人が魔法大国で探されている人などという事を知らないでグリードの自由を奪っていたのかもしれない。

 しかしまぁ、知らないという事は言い訳にはならない。

 が、その事実が間違いであってほしいとアーティクル侯爵は声を上げた。

 「いいえ、間違いでもなんでもありませんわ。あの記憶封じの魔法陣の下には、この方がグリード様である証がありました」

 「証?」

 「ええ、我が国の王族に伝わる伝承はご存じでしょうか?」

 「………確か、アッシュルカの地に住まう聖獣と契約をすることが出来る一族だと」

 「ええ、そうですわ。十歳の時に契約を結びますわ。もっとも聖獣側が気に入ったらの話ですけれども。アッシュルカの王族は代々聖獣に好かれる者が多く、その証として、一つの痣があるのです。特徴的なそれが、この方にもありましたし。何より、これほど強大な魔力の持ち主はそうはいませんわ。グリード様は、歴代でも数えられるほどに魔力量が多かったですから」

 グリードに向けるような満面の笑みではなく、したたかにほほ笑みながらそう告げる。

 「それって……」

 リュシーの言葉に宰相が益々青ざめる。宰相だけではなく、国王や、アーティクル侯爵も顔色は悪い。

 ”クリス”に散々言っていた王太子たち一同も混乱する頭でリュシーの言葉を理解してか、その顔を青く染めていく。

 「ええ。察しの通り、グリード様は我が国の王族になります。アッシュルカ国王陛下の、第九王子という立場にあるのがグリード様ですわ」

 「第九……? そんな王位継承権も低い――-」

 「あら? 第九王子なんて立場のグリード様を私や、我が国のものたちが必死に探すのが不思議ですか?」

 グリードはリュシーのいうとおり、第九王子なんていう立場である。正直王位継承権なんてあってないようなものだ。

 正直そんな存在をどうしてそうまでして探しているのかは、国王たちにはわからなかったのだろう。紡いだ言葉に、リュシーの目が冷たく細められた。

 それにミラージュ王国一同が怯む。

 「何故ってまず第一に、グリード様が私の婚約者であること」

 「こん、やくしゃ?」

 「ええ! グリード様は私の婚約者ですわ。ね、グリード様」

 リュシーはにこにこと笑ってグリードを見た。

 「えーっと、俺十年間いなかったわけだけど、続いているのか」

 「当たり前ですわ! なんですの! それともグリード様は私との婚約は嫌とか……」

 「違う違う違う! だから泣きそうな顔をするな! ただ、戻ってくるかもわからないし、他と婚約を結ぶとかしなかったのかなと」

 「私の婚約者はグリード様だけですわ! 確かにそんな話はきましたが、グリード様と結婚できないっていうなら修道院にでも入るつもりでしたもの」

 「リュシー……」

 「ふふ、私が好きなのはずーっとグリード様だけですもの!」

 話が脱線している。突如、良い雰囲気を作り始めたリュシーとグリードであった。

 「……いちゃつくのは後にしてくださいよ! クリス様じゃなかった、グリード様? って王族なんですか? 俺も色々気になるんですけど」

 叫んだのは、ほぼ空気になりかけていたケイティである。

 「仕方ありませんわね……。さっさと話を終わらせますわ。まず、貴方たちは知らないでしょうが、アッシュルカの国王陛下には側妃はおりません。いるのは王妃様だけですわ」

 アッシュルカは閉鎖的な国で、あまりその情報は外には出ない。ここ十年ようやく、アッシュルカのものが外に出るようになったが、アッシュルカ内部の事はあまり知られていなかったりする。

 「はい? それって、あれですか。王妃様が九人も王子を生んだってこと―――……」

 「ケイティ、その通りですわ。現在は十三人の王子と十五人の王女をお産みになっております」

 「あれ、増えてる!?」

 上からケイティ、リュシー、グリードである。

 「ええ、グリード様、あれから四人の王子と五人の王女が生まれております」

 「弟と妹か!」

 「ええ。それでですね、十年前、まぁ、不届き者の手によってグリード様はアッシュルカの外に出されました。その時、グリード様は六歳でした。それでいて、その当時末っ子でした。八人のお兄様と、十人のお姉様はそれはもう末っ子のグリード様を可愛がっておりまして、不届き者の手によってグリード様が行方知らずになった時、それはもうお怒りでした。もちろん、国王様も、王妃様もです」

 そう、グリードはアッシュルカの九番目の王子様であった。王妃様はよっぽど頑張ったのか、一人で沢山の子を産んでいる。そして当時末っ子でったグリードは家族にそれはもう可愛がられていた。

 「それだけでもグリード様を探すのは十分でしょう? まぁ、それに加えてグリード様の魔力は強大なものでしたし、グリード様は当時六歳でしたが、既にグリード様と契約を待ち望んでいる聖獣様がおりました」

 ふふっと微笑んで、リュシーは告げる。相変わらずグリードに引っ付いたままである。ギッカとトオルはその様子をやれやれと呆れた様子で、だけれども嬉しそうに笑っている。

 「その聖獣様はグリード様がさらわれて、大層お怒りでした。グリード様は聖獣様に愛されていたので、契約をしていなくても死んだらわかるように、というか、万が一殺したらその存在が不幸になるというまじないをかけていましたの。それで、死んでいない事はわかってましたの」

 リュシーはそういって笑った。

 「グリード様を行方知らずにした不届き者は、例外ですが……。基本的に我が国の者たちは聖獣を敬い、それと契約することが出来る王族を心の底より、崇拝しておりますの。ですから、王族が行方不明になった、そして死んでいないというのならば、その王族が王位継承者とは程遠くても探すのは当然ですの。

 おわかりになりましたか?」

 続けられた言葉は、その場にいる者たち全体の耳に響いた。




スフィラネなのに、何か所もスフィネラと書いていたので訂正しました。

訂正し忘れがあったら教えてください。直しますので。

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