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さくっと終わる本来の本題。

 クリス・アーティクル。絶世の美少女と名高い侯爵令嬢が、『偽りを許さない』最高裁判において、男の姿になった。そして、歓喜に叫んでいる。

 その様子を前に「は?」「え?」と声を上げるものもいれば、なぜか「グ、ググ……ふごっ」と何かをいいかけて止められているものとか、ぽかんとしているものとか、様々である。

 ちなみにクリスをこんな状態にした原因であるアーティクル侯爵はといえば、顔を青ざめさせている。

 「ク、クリス・アーティクルが男?」

 「そうでありますね、陛下。この裁判において、偽りは許されません。歓喜の声を上げている所から見るに、無理やり女をやらされていたのではないかと思いますが。……とりあえずその事はあとから追及するとしましょう。まず、本題であるクリス・アーティクルがスフィラネ・アーティクルを苛めていたというその件を終わらせましょう」

 「偉い冷静だな!?」

 「陛下はもう少し動揺をなくすようにしてください。一国の国主ともあろうものなのですから、この程度で動揺してはいけません」

 驚きに声をあげた国王陛下の隣で、偉く冷静な彼はこの国の宰相である男性である。この国でも有数の権力者である彼はそもそも、この裁判を馬鹿らしく思っていたものである。幾ら王太子が懇意しているとはいえ、学園で起こった苛め程度で最高裁判を起こすなどバカバカしいとしか言いようがない。

 しかし、このような事になるとは宰相からしてみても驚きである。ちらりと傍聴席を見る。青ざめたアーティクル侯爵を見て、この男が魔法をかけたのだろうと思考する。そして、次に喜びをかみしめているクリス・アーティクルを見た。

 「さて、混乱をしている陛下は使いものにならなさそうなため、私が勧めさせてもらおう」

 「おおう! 辛辣だな」

 「クリス・アーティクル、これから行われる尋問の中では、嘘をつけばこちらにわかるようになっている。そのことを踏まえたうえで答えてくれ」

 この場で本当に宰相だけが偉く冷静である。傍聴席のスフィラネは「え、お姉様がお兄様?」と混乱しているし、王太子たちスフィラネの取り巻きたちも何がなんだかわからない様子である。

 「はい」

 クリスは裁判の最中だというのに、満面の笑顔である。折角体の自由も利くようになったし、さっさとこんな茶番を終わらせたいらしい。

 「それでは、スフィラネ・アーティクルに対して苛めを行ったのだろうか? 王太子殿下からの報告書では物を隠す、悪意のある噂をばらまく、階段から落とすといったものがあったようだが」

 「いいえ」

 「ふむ、いじめはしていないと」

 「はい。第一、俺はそこにいる侯爵のせいで自由なんてなかったので、そんなことできません。侯爵は自分の娘であるスフィラネ・アーティクルを害する事は出来ないように俺に魔法をかけていたので」

 「……ふむ、そのことについては後程追及させてもらおう。では王太子殿下たちの冤罪ということであるな」

 「そんな簡単に信じていいんですか」

 「ああ。問題はない。魔法具が反応していないという事は嘘はいっていないのは明白である」

 この裁判は嘘を言えばすぐわかるようになっているらしい。近隣諸国の中でも魔法技術に関して随一であるミラージュ王国の魔法具であるのだから、信じられるだろう。

 「ちょ、ちょっと待ってもらおうか! お前が苛めていないというのなら、スフィラネの事は誰が―――」

 混乱状態のままでも、スフィラネ・アーティクルを愛してやまない王太子殿下はそういって反応をした。

 「俺ではありません。主観でいうのならば『クリス・アーティクル』がお花ばた――いえ、スフィラネ・アーティクルを苛めたという事を密告した生徒たちだと思います。女子生徒たちは取り巻きとはいえ、クリスに好感をもっていたわけではありませんし、男子生徒たちはクリスに振られた存在ですので」

 クリスがそういうと同時に傍聴席にいたその密告者たちに注目が集まる。その顔色は悪い。そのことからもスフィラネを苛めたのが彼らであるとわかるだろう。

 「そうですか、では彼らについては王太子殿下たちに任せましょう」

 正直、こんなしょうもない事で最高裁判を使うのは面倒だったので、宰相はそれだけいってクリスへと向き合った。

 ちなみに国王陛下は動揺しているのもあって、一応裁判官的立ち位置であるくせに自身の右腕である宰相に任せる気満々になっているらしく口出ししてこない。

 「ではクリス・アーティクル。貴方が何故女性のふりをさせられていたのか、そして自由を奪われたことに関する事情を聞きましょうか。それ次第で裁かなければならないものがいますので」

 「はい。あ、その前に、もう一人連れてきてもらえますか?」

 ようやくクソ侯爵から解放されて、それをこんな公の場でどうにか出来るぜとにこにこしていたクリスは、一つの事に思い至ってそういった。

 「もう一人ですか」

 「はい。多分俺と同じなので。ケイティ――、そこにいる俺の侍女連れてきてもらえますか?」

 クリスがそういえば、宰相は目を細めてケイティとその隣にいる侯爵を見る。アーティクル侯爵はケイティが宰相の命令により、クリスと同じように騎士たちに連行されて、クリスの元へと連れていかれようとするのを見て一層慌てている。

 が、宰相に「貴族の令嬢として男が紛れ込んでいた事、それが強制されていたことは問題です。それに関連する者なのですから、連れてきてもらわなければこまります」と言われ睨まれ、おとなしく引き下がった。

 結果として、

 「おぉおおお? 動く、動く動く! クリス様さいっこぉおおお」

 クリスの唯一の侍女であるケイティもクリスと同じであった。しかもケイティも男なのに女として暮らさせられていたらしい。

 歓喜して、クリスに向かって叫んだ。

 「やっぱりお前もか!」

 「ええ! クリス様、マジありがとうございます!」

 二人して裁判の場で喜んでいる。


 そんなわけで、喜びをかみしめたドレス姿と侍女姿の男二人がその場にいるのである。



アーティクル侯爵が最高裁判の内容を知らなかった理由。

そもそも一世紀に数回もあるかないかの裁判であるため詳しい事は知らない。加えて自分の魔法に自信があるために、どんな場所でも解けないであろうみたいな妙な自信があったため。

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