有能な人間に嫉妬して、攻撃してくる人を実際に知った日
漆黒の闇に月が映えている。
遠く空を乱舞する、あれは刃の稲妻のような、なにか。
こちらに真っ直ぐに、勢いよく突き込んできた。
「あらあら、何かしらと想ってみれば、レイル?」
上方に避けつつ、腰のレイピア剣を抜いて構えつ、自然と自然体で構える剣先に警戒色が滲む。
そう、コイツは警戒に値する、と。
「いいえ、リリーです」
「そう、外見が同一なので、間違えてしまったわ、ごめんあそばせ」
目の前数メートルに、流麗な凛子とした、どこまでも長い黒髪の少女。
切れ長の目、ながら可愛らしさも内包する、純然たるカリスマ、溢れる魅力を周囲に常時撒き散らしている。
星の妖精と呼び評されるほどの、至玉に位置する造形には、内心思うところあるが何時も感嘆を禁じえない。
「なに、しに来たの?」
答えの半ば以上で予想できる質問をする。
「貴方を殺しに」
その一言に背筋がぞくりと、快感と共に駆け抜ける。
「ふっふ、ふっふっふ」
笑いが抑えられない、なぜなら、いま、このとき、他ならない自己の命運が尽きる、可能性があるから。
今までの、彼女との戦闘経験において、幾たびも辛酸を、煮え湯を飲まされてきたからこそ、確信の領域で、それを実感できる。
わたしは今、無上なほど紙一重の生死の境、境界のハザマに居る、彼女によって立たされているのだ。
「貴方は此処で死ぬ、無になるの」
「いいえ、貴方が破滅するの、わたしが厳密にそう決断し決定し、この世界に規定するのだから」
彼女との戦いは、そのままイコールで精神の競争である。
あまりに強大すぎる、大いなる意志は、世界の在りよう、その様を、その意図のままに規定することができる。
それはまるで巨大な質量が発する重力のよう、つまり、わたしの望む唯一未来を引き寄せるのだ。
つまり今意志は、世界を巻き込む牽引力として機能する。
「インペリアル!」
中空に位置する私の足もと、四十の円陣が現出する。
それらは一つ一つがブレイン。
四十に分割されて起動する、わたしの自立操作で踊り狂う。
「バスターフェアリングオープン」
さらに詠唱、世界に規定された命令文を入力する。
円陣が私の周りに展開、等間隔に光の粒子を撒き散らしながら整列。
「、、、ユニバースイジェクション!!」
解放の咆哮、そして完成、宇宙の何処からかエネルギーを転送、装填、完全充填した煌めきに包まれる。
「最後に、一応確認しておくのだけれど。
これは、掛け値なしで世界を変えるプロジェクトよ? どう面白そうでしょう?」
「、、、くだらない」
今生で至高の敵手は、まったく一切動じていない。
差し向けられる砲口も、据え付けた瞳も殺意も、何もかもを冷徹に無感情に観測しているだけだ。
「そう、それが答え、、、いいでしょう、ここで果てなさい、私の最高の敵手さん」
収束し完全充填された、超大規模なエネルギー流が不可避の速度と強度で敵を飲み込む。
「オン・アイギス」
呟きを聞いた、ただそれだけ。
だがその瞬間には、敵手の前面に光り輝く盾が現出。
それを私は知覚する、認識して、解釈する。
「構造体シリアルナンバー011、ミュルニル&アイギスの盾」
「そう」
「へえ、いつの間に、新しい玩具を手に入れていたの?」
「貴方がまだ、この世に現出していないとき」
盾と一体化して収納されている、槍と剣の中間のような武器を抜き放ち、こちらに向けて構える。
「それにしても、二つ所持するとは素直に驚きね」
「それほどの事じゃない、独我に犯されたモノでなければ、人間として真っ当な矛盾を内包するのは」
こちらを見下したような態度、
もう既に昔から思っていた事だが、上塗りの再定義、この女は私の全存在を持って、許さぬと決めていた。
「さすが、完全なる多重人格者ってところかしら?」
余裕風を吹かしつつ、慎重に精密に、観測。
恐らく、あれは後発人格、アルドを基点として、他者依存的に確立する人格を主体、寄り所にしている、おそらくそのはず。
「ならば、こちらも」
絶対の黄金を内包する宝剣、ゴルデミックパンドラ。
世界が望む、絶対の黄金の比率への、同化現象顕現装置。
「これは、不完全な全てを完全化する」
それはつまり、不完全なこの世界を正し、正道に導く道標、
だからこれは、森羅万象の頂点に君臨し、万象支配する万能器。
それは、私の祈りによって、既に手中に存在している。
「チェックメイトって、魅せてあげるわ、完全なる究極の力ってのをね」
「完全も究極も真に存在しない、あるのは無上に混沌とした悪意だけだから」
ゴルデミックパンドラ完全解放。
周囲には私以外の全てが無くなる、完全に至れないモノは須らく崩壊して無に帰する。
対抗するには、アレでは足りないはず、ならば。
「そう所詮、貴方は既に実体の無い過去を一切捨てられず、引きずって、今を生きるだけの存在。
そのような幽鬼、死に損ない、、、そうソレ、過去の遺物か遺産を手にする方が似合ってるわ」
純粋無垢なる心の現象のような、研ぎ澄まされて一点に凝固したような銀の照り、刀のような剣。
眼前には私と対極に位置する光がある。
自らが輝くのではない、何か大いなるモノに照らされて輝く、月のような見目。
酷く自己主張が希薄な、私なら一目でそれが反射光だと分かる、そんなモノ。
「だけど、、認め難いけど、あれが完全だと、」
無我の境地に己を導き、唯一の感動は過去に存在する。
今を生きる彼女は操り人形でありながらも、確たる意志を内包する、ただ無為に無上の光を発するだけの存在。
「果たして、レイルちゃんは貴方になにを残していったのかしら?」
「希望を、レイルが教えてくれた、、、でも、この世界は裏切った、ならば、する事は一つ」
向けられる刃に、掛け値なしに吐き気を覚える。
「下らない話だわ、面白みに掛ける、出来損ないの、それもけち臭い道理だわ。
いいでしょう、すべて殲滅して浄化するから、さっさと貴方の存在をイレーズ、、、。
いいえ、初期化、イニシャライジングして、わたしの操り人形にするのも一興だわ。
ええそれは面白い。
貴方の瞳が私だけを見て、私の輝きを一身に受けて内包して、己の一部と融合する様は、さぞかし一見でしょう」
自身の想像に胸がときめき、背筋が震える。
常時トリップしてる頭が更にトリップして、より冴え渡る感覚。
「貴方を、徹底的に調教して、致命的な心的外傷、破滅的なトラウマ植え付けてやる」
言葉を切り、上乗せされた意志を込めて、剣を振りかぶり光を伴い疾駆する。




