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クリムゾン・ストライク-ある女将軍の破天荒な有様 

 

 

「くそだりぃー暇だ、死ぬ」


 独りごちる、じゃねー、マジフラストレイションズ。


 運動場を無意味に全力全開で百週、五十キロを己の最速タイムで走り、中央の芝生に大の字で愚痴るでもなく愚痴る。

 太陽が眩しい、だが、宇宙空間で見る、眩しい戦闘光景の方が、この何倍も素晴らしいと、私は思った。


 その後も無意味に槍を投げたり、砲丸を飛ばしたが、面白くもなんともない、とんだ無駄足だったな、くたばれ死ね、死ね死にぞこない。


 無意味で不利益しか生まない、そんな無義な時の流れに、果てしなく焦る。

 この間にも、私は刻一刻と老いぼれる、若くいれる、筋力とか脳力とか、最低限を保てる刻限は、割りとこの時代でも短いってーのに。

 さっさと一秒でも早く出世して、盛大にこの世界を楽しめるようにならなきゃいけないってのに、私は何してんだか。


 それもこれも、あの糞国が攻めてきた事が発端だ、全てのな。


 この国、ルスカ王国に、一応の敵国、ブレン帝国が国境を侵して攻めてきてから、私の軍人としてのキャリアは頓挫した。

 もう何しても意味がない、だって国が無くなる、わけじゃないが、ほとんど解体の運びになるだろう、常識的に考えて。

 だから、もう何もかもやる気が起きない、って感じにはならない。

 今まであったモチベーションが無くなって、その落差で、メンヘラ的精神状態になっているだけだ、便利だなメンヘラ、なんかそれを言い訳に何でも乗り越えられる気がするぜ。


 あーあー、これからどうすっかなぁーって考える。

 この国を捨てて、大国に仕官するのも、一つの手だ。

 だがしかし、それだと今まで積み重ねてきたコネやら人脈やら、全て一からやり直しだ。

 自分で言うのもなんだが、私はこの国でそれなりに上手くやって、上に見込まれ今じゃ軍の大幹部だ、それを上手く使わない手はない。

 だから、糞退屈な敗戦処理に近い、現在の戦線を、直接赴いて担当する必要は無いが、経過観察は最後までしなくちゃならないわけだ、糞胸糞悪い。

 なんだって、負けるって確定しているような戦いを、この他ならない私が主担当せねばならない? あー憂鬱だ。

 やっぱり駄目だな、もうこの国は終わりだ、見切りをつけて私らしく、他の勢いのある大国に乗り換えるベー。


 そんな風に益体のない思考をしていると、腕輪型の携帯端末が鳴った。

 うわげぇ、この着信音は奴からだ、いちばん私の苦手とする奴だ。


「おお、レイルちゃん、なにようだ?」


「アカバさん、これから軍司令部に、顔を出せますか?」


「ああ出せるっちゃ出せる、が、どんな用件だ?」


「これからの、ブレン帝国との戦いについて、協議したいと思いますので」


「ああ、分かったよ、直ぐ向かう」


 切る、まったく、敗戦の将とは思えん、酷く戦意鋭い、イカした冷たい声だった。

 もしかしたら、あのやり手の総参謀長の事だ、上手い具合に面白い事を思いついてるかもな。

 この国に未来はないが、それに仕える奴らまで、未来がないわけじゃない、私が将来を嘱望し期待する奴らも居るってわけだ。

 まあ、そいつらを見物がてら冷やかしするのも、十分に理に叶う。

 人間観察にでも行くつもりで、私は軍司令部となりの運動場を後にした。


「ああ、なんだこれ、戦争でもおっぱじめるつもりか?」


 と嘯いてみる、まあ国境を突破されたんだ、此処に対する直接攻撃的な奇襲に対する備えだろうよ。


 で、話を聞いてみると。

 国際連合にこの戦線を委託、軍は全てそいつ等の管轄化に置かれる、だが直接的な指示等は私たちに、らしい。

 ふざけろくたばれ。

 でもまあ、遅滞戦術的なブレンとの戦争、功績を挙げられれば、それが評価されて西側の大国に十分に取り入れる、そういうメリットも無きにしもあらずだ、ちょっとはやる気が回復だ。


「それでです、ルスカの国際的地位を、最大限落とさない為にも、この闘いを戦略的に制するのは、長期的なわが国の国益にも叶う、そういう話です」


 だろうがよ、ボードにグラフィック、いろいろ使って統計的に示すレイルを見て思う。

 敗戦は決まってる、だが、ほとんどの富は、最新の科学で、大した費用無く、全て西側のどっかに持ち去れる。

 だから、あとは国際的な地位が重要だ、それが後の命運を分ける。

 向こうに行ってからの、援助や貿易、その他用意される亡命地域、立地が悪ければ、最悪、国を残す意味そのものが瓦解しかねない。


「女王陛下は、最大限の働きを望んでおられます、皆様のこれからの働きに多大なる期待を、とのことです、それでは本日は以上」


 いろいろの説明のあと、協議は一方的な報告がほとんどでお開きになった。

 私はレイルの後を付けて、総参謀長の控え室に忍び込むように侵入。


「それで、どれだけ働けば、女王は満足して、西側のお偉いさんに取り入れるんだ?」


 明け透けな私の問いに、事前に用意していたかのような回答をくれるんだろうよ、常軌を逸した天才であり策略家のコイツのことだ。

 前々から、莫大なる期待をしていた、直接戦闘も、さらには艦隊戦やその他庶務、国家戦略から何から何まで、マルチに高次元にこなせる奴だ。

 私はコイツ以外に、この王国で私を超える逸材を幾つも知るが、その中でも別格だと、いつも憧憬と共に思っている。


「とりあえず、色々と準備やコネを作り、ツテを辿ってパイプを強固にするのに、できれば七年、必要だと。

 後者の方は、私からは何も、客観的意見が必要なら、貴方ならどこでも、それなりに上手くやれる、くらいにしか」


「なるほどね、七年か、多少の援軍や援助が、西側の大国からあったとしても、微妙なラインだな、まあそれはいい。

 でだ、私には、どこを任せてくれるんだ、中域艦隊規模以下なら、言うまでも無いが、受けないぜ」


「貴方に、受け持たせる戦線は無いわ」


「はぁ? なんだって?」


「怒らないで、より将来を見据えた判断よ。

 貴方には、というより、ルスカの主要な幹部は、すべからく、この七年、戦線に定期的に赴きながら、また、戻ってからも日々頻繁に、戦場状態を考慮した綿密な指示出しを、断続的に行いながらも、軍学校に行ってもらう事になったの」


「はあ意味分からん、今更軍学校に行って、どんな得があるよ、あんま舐めた事言ってんじゃねーぜ。

 あと、その前の意味分からんハードスケジュールの件についてもな」


「舐めているのは貴方、西側の大国の軍隊に合流する為の、知識を付けないでどうするの?

 あと、貴方なら、きっと委細問題なく、滞りなく完遂できるスケジュール配分で仕事を回すと、私が保証します」


「それが、鬼キツイって言ってんだがよ、聞く奴でもねーか、しかたねー、乗るよ、それでいいんだろ?」


「では、貴方を計画に加えます、これからの離反は、相当に手痛いしっぺ返しがあると、そう思っていてください」


「だろうがよ、お前を敵に回すんだからな」


「そうです、私が、凄く怒ります。

 でも、もし本当に嫌になったり、抜けざるを得なくなった時は、私に内緒で言ってください、手を回して、色々捗るようにしますから」


「はん、お優しいみんなの総参謀長様だな。

 だが、そんなこし抜けた事にはならねーよ、私自身が絶対にならせねー、一度受けた仕事はやりきるって奴だ」


「貴方に最大限の期待をします、これからも変わりなく、よろしくお願いします」


「ああ、よろしくな」


 お互いに、事務机越しに握手を交わして、その場で今日は別れた。


「さて、これからどうするかね」


 地上三千メートル、超高層ビルの、微妙な突っかかりに足を引っ掛けて、都市を大きく眺めながら思う。

 本当ならこんな事、やって見つかればヤバイんだろうが、私は国の大英雄だ、まあ、仮に見つかっても許してもらえるだろうと、かなり高を括っている。

 類稀な単純視力、動体視力、十数キロメートル先に転がるサイコロの眼ですら、精確に読み取れる、そんな私の眼が、広く町を観察する。

 やっぱいねーな、いつも通りだ、国境を突破して、そのどさくさで紛れたネズミは、とりあえずは見つからねー。

 まあ、少量だったり、手練だったりすれば、早々見つからんだろうが。


 夕刻まで粘ってみたが、特に怪しい奴もいない。

 この最先進国として恵まれた、ルスカの経済活動が、今日も最大限順調だって事しか分からん、いやそれを知れただけでも、まあいいかって思っておこうか。


 夜はずっとトレーニングだ。

 そういえば、寝てない自慢じゃないが、もう三日ほど寝てねーな、まあ大した事じゃないわな。

 総参謀長レイルに連れられて、幹部だけで一週間、ほとんど少量の仮眠しか取れなかった、地獄の訓練に比べれば百倍以上でマシだ。


 両手に握った実体剣で、両側から迫り来る鉄球を切り刻みながら思考していた。

 それを延々続ける、実際当たっても大丈夫なので、特に緊張感もない、ただ効率の良い訓練法なだけだ、あんま費用も掛からないしな。

 そんな風に、スライム倒すが如くの訓練を、それこそルーチンワークだからって適当に自分の感覚で終わりと済ませる。


 次は機動兵器戦、人型二足歩行兵器、スーパーロボットアニメに出てくる例のアレ、とは細部は全く異なる原理科学に基づくが、その訓練に移る。

 実機は使えない、使わない。

 そもそも宇宙空間に赴くのがめんどい、第二に、例え一回乗り回すだけでも、莫大な金が掛かる。

 機動兵器ってのは繊細な精密機械だ、一回の出撃、戦闘をしない航行だけでも、しっかりと整備するなら、全パーツの15%は総取替えだ、出費が馬鹿ならないってわけ。

 まあ、私レベルになれば、訓練における費用対効果も考慮して、実機を使いたいといえば、軽く使わせてもらえるだろうがね。

 それでも、VRMMO的な仮想空間で、とりあえずの機動兵器の訓練は事足りる、AI戦も最近メキメキ高次元化して、割と良い勝負できるようになってきたしな。


 仮想空間で、急減速における仮想じゃないGを感じながら、またも思考する余裕がある、この時点で私の勝利っぽいな。

 今は第二世代機を乗り回し、最高レベルのAI十数機を敵に回している、僚機、エレメントは無し、だからちょいキツイが、なんとかならないレベルじゃない。

 距離が開いた隙に、腰のビームライフルを取り出し、精密射撃。

 敵の射線は精確に見抜き、広大な宇宙空間を上手く使った、多彩で柔軟な戦闘機動を駆使して避けて、一方的な攻撃を実現。

 接近してきた敵は、交差する瞬間の一瞬間で、上手く動力部、あるいはコックピットを切り裂き沈黙させる。


 やはりおめーな、と思う。

 異次元の軽さであった事を、第二世代機を乗っていると思う。

 まだ試作段階の第三世代機、あるいはその前身の第ニ.五世代機の事だ。

 人体で例え言うなら、羽が生えたり、重力が無くなって、推進力だけそのままな感じか? 少なくともその次元で異次元の差異が、確実にそこにはある。

 やっぱり、面白くないな、こんな糞重たい機体じゃ、ゲームとして見ても、面白みに欠ける、あの羽のような軽さ、機動性を知った後じゃな。

 でもまあ、ゲームじゃないから、この世代の機体の訓練も、まだまだ疎かに出来ない。

 緊急事態の為にも、まあ必要な処置だ。

 第三世代機の、実戦配備が本格的に進むまでは、こういう訓練も多分に組み込む必要があることに、内心舌打ちが止まらんね。


 最後の敵を射撃戦で沈めた後に、時計を確認、もう寝る事にする。


「あーあー、三日ぶりに、やっとぐっすり眠れる」


 三日少ししか寝なかったのは、ただ自分を追い詰めるだけだったのだが、誰にともなしに愚痴を吐くつもりで言う。

 常人にとっては致死量でも、己にとって適度なストレスは、過分にプラスな効果を与えうる、私にとってはこれがソレってな話なだけだ。


「でも、まだまだ追い詰めたりないな」


 自己の余力に気づき、自分の尻を蹴飛ばす感じで、ベッドから跳ね起きる。

 身体をぴょんぴょんさせて、準備運動の代わりとする。


 町に出て、無意味かも知らん、ランニングしながらの巡回パトロール。

 傍から見たら、私の方が治安を犯しかねない奴なのかね、まあ大丈夫、私は純然に正義の味方だ、安心せい。


 ビル街を抜けて、海沿いを走り、対岸の都市に掛かる橋を渡り、更にその副都市も縦横無尽に駆け回り。

 深夜三時程度に、逆の道程で都市に戻って、深夜の軍司令部を見てみた。

 かなり遠巻きだが、厳重な警備だ。

 これなら、国境を突破してきた馬鹿が居ても、自力で対処できるだろ、参謀総長の敏腕に今日も歓心歓心っとってヤバっ!


 巡回警備員に見つかりそうになり、隠れる。

 ああ、やっぱ多少、不眠不休で、いろいろ鈍っていたか。

 でも、こういう戦場でしか感じれないだろう、真に迫る感覚、それを認識できただけでも収穫だ。

 人間は戦場を離れれば鈍る、勘に止まらず、あらゆる感覚の精度がな。

 それでも、無意味に戦場に居続ければ、その内に死ぬ、必ずだ、どうしても戦場における死亡確率をゼロには出来ないのだから。

 危険を避けて、重要な局面でのみ、前線に躍り出て、勇敢に戦うのを志すなら、多少鈍る期間にこういう無茶も必要ってことで。


 だから、もっと無茶する事にした。

 私が試してやるよ、軍司令部の警備って奴を。

 まあ、私が他の奴らの勘を刺激してやる、ボランティア活動みたいなもんだ。

 ああでも、相当にキてるな、寝てない所為じゃない、戦場を離れすぎて、馬鹿になってるんだろよ。

 何度も命の橋を渡ってきたのに、突然だ、年中馬鹿してきたのにな、その反動だろう、危ない橋症候群ってか中毒か?

 まあいい、こんな場所で死ぬなら、どのみち先はねぇー、逆に乗り越えれば、未来における生存率が上がる。

 私の見立ててでは、ここで無茶するメリットは、将来的なデメリットを凌ぐ、ならばやるだけだ。

 参謀総長だって、冷厳に冷徹に、私の判断を意にするだろうよ、どんな時も最善を尽くしつくす彼女ならばな。


 まあ、結果的に言えば、軍司令部の何処もかしこも、私からしたら穴だらけだ、ザル警備って奴。

 でも、要所要所、馬鹿強い軍人もいるから、そこは避けた、まあ幹部だがよ。

 わざわざソイツらに挨拶がてら、無許可無断侵入を仄めかす必要もあるまいて、スルー安定って奴。

 すいすい内部を差し足忍び足で進んだり、外部を上手く渡り歩いたりして、ようやく着いた、なぜかゴールに定めた場所。


 こんこん、っがちゃ。


「っ!!!」


 目の前に短剣鍔ぜり合う、総参謀長、レイルの姿。


「ふっふっ、、あっはっはぁ!!!!」


 なぜか、狂気的に嬉しさが込み上げてきて、そのまま五合六合、加速度的に連続で切り付け合う。

 だが、相手の方が鋭さも回転数も段違いだ、負けると悟った時には、もう正攻法を諦めた。


 複数隠し持つ暗器、は全く通用しない、常軌を逸した天才に、そのような小細工は絶対の精度で通用しない。

 だからこれだ。

 ノータイムで光の盾を現出、攻性魔法は、流石に致死の危険があるので、つかわねーが、この程度は有りだろ、なあレイル。

 相手は魔法を使ってこない、それで余裕で勝利できると思ってるんだろうが、あまあまだな、やっぱ戦場離れで頭緩くなってるか?


 レイルの足元を割って、強制的にバランスを崩させる。

 好機とばかりに急速接近、体勢封じを仕掛けようとするが、首筋を剣が掠めた。

 ああ、一瞬遅けりゃ、今のは死んでたわな。

 あーあー、そりゃそうか、これって殺し合いだったっけ? 

 ”そういう意図”と信じ、攻性魔法を組み立て、詠唱と共に射出。

 本来詠唱なんか要らんが、精神集中にコレは使えるってだけの、蚊細い声量で呟くように言う。

 建物破壊はナンセンス、収束したエネルギー場を展開、展開部を食い尽くす魔法を発現。


 魔法には魔法、それ以外では防げない、のをレイルは壁伝いに、射撃され広範囲展開される前に、こちらに接近する形で回避。

 魔法で多少息の上がった身体では、勢いの乗った剣戟を防げないと、受ける前から悟り、魔法の連続行使、更に息が上がる。

 これが狙いか、というより、短期での決着が目標かよ、余裕ぶりやがってと、内心百の罵詈雑言を一瞬で行う。

 コイツは、私より格上だ、さっきの殺刃も、私が避けれなければ、止めるだけの余裕があるんだろ、そうじゃなきゃ、ちょっと流石に考えられん行動だし。

 そして、私との対決を速攻で決するのは難しい、魔法でのガードが札としてある限り、達人同士の対決のように、一瞬で勝負が決まるわけじゃない。

 だんだんと手札を消費し、最終的に燃料切れした方の負けってのが、力量差の圧倒的な場合を除いて、魔法剣士の戦闘の流儀だ。


 話を戻すが、レイルは私に連続で魔法を使わせたりと、短期で決める気満々だ。

 一回の魔法行使でも体力を食うのに、無理に連続で使えば、その負荷はとんでもない事になる、双方ともに狙いたい流れだ。


 でも、そろそろこっちの切り札も、見せて良い頃合じゃないかと思う。

 ただの剣から、特別な剣に持ち変える。

 すると、私の動きが変わる、次元が引き上げ伸ばされ、私ですら未知の剣の挙動を見せる。


 これを見せた敵は、必ず始末してきた、この目の前の仲間以外は。


(何をやっているのだ? また仲間同士で、殺し合いに近い模擬訓練か?)


 剣に宿る、擬似人格、それが語りかけてくる、が構っている暇はない。

 私は必ずの勝利、必勝を賭けて、この闘いの成否が私の全てと一念に信仰し、ただただ最適な命令文に身体を委ねる。


 この剣には、人格が宿っている。

 ある意味の分からん科学者集団から賜ったモノだが、どういう原理か全く想像もつかない代物。

 でも使える、ならば使うだけだ、ブラックボックスだろうが、そんな事は瑣末な問題だしな。


(私はこの女に勝ちたい、その為の力を貸せ)


(そうだね、その気持ち分かるよ、うん、勝とう、勝利して、何かを掴もう)


 私では永遠に辿り着けない、未知なる境地、運命的で、尚且つ奇跡的な軌跡に見えた剣筋が、レイルの剣を弾き飛ばした。

 だが、次の瞬間、膨大な魔力の波が、私の剣を弾き飛ばした。

 どうやら、既に見抜いていたレイルは、この剣に私の強さの秘密があると知り、捨て身の隙と、その迎撃を同時に実行した、ただそれだけらしい。

 ノンタイムで接近され、肉弾戦。

 剣の意志は、既に私を離れて、何も聞こえない。

 おいおい、無力な私ってか、ふざけんなよ! ここで負けたら、正真正銘死ぬんだよ!!


 極限までの集中、限界まで魔力を捻くり出して、後先考えず全方位拡散の魔法を、避ける事は不可能、ならば時間稼ぎに十分。

 視界の隅で、魔法を魔法で防ぐレイルを捉える。

 その隙に私は床に転がる私の剣を、横転しながら取り上げる、少し前に居た場所が、何か、魔法ではない、銃撃を受ける。


 レイルはオートマチックリボルバータイプの、電磁投射拳銃を向けていた。

 はん、非効率に過ぎるだろ、訳が分からない。

 あんなん、普通のタイプじゃないなら、何かし掛けが、とか考えている暇はなかった。


 体力を限界まで使い、現在微小づつ回復中の私は、若干身体の動きが鈍っている。

 しかし、レイルの無限に近い機動予測を、私の剣は最小で効率的な身体と剣の捌きで、避けることが可能と命令する。

 ひたすらに運命の感じる、圧倒的な万能感が私を満たす。

 奇跡に溢れた、ただ一つの道を、誰か、確か剣の意志は、自分を過去の偉人と話していたっけ、嘘付け馬鹿と、罵るには難しいくらい、詳細を確信的に、そして私には革新的に感じさせてくれた、そいつと歩む軌跡に、私は今までで最高頂点の快楽を感じていた。

 多分、心の底から支配されたい、そう思ったのは、恐らくこの時が最初で最後になりそうだ。

 だって、もうコイツと共に、比肩して歩みたい、そうとしか次の瞬間からは思えなかったから。


 バキンバキンと、特殊な金属が、打ち据えられ、作用反作用で飛び退りながら、連続で激突が続く。

 しかし、どう考えても私の方が有利だ。

 剣の勝負ならば、負ける気がしない、だが、それだけだ、私は敗北を悟った。


「もういい、私の負けだ」


「そうみたいね」


 そうだ残念ながら、魔力の総量が違いすぎた。

 スタートからして、その点でもレイルが有利、後も私が連発に継ぐ連発、おまけに無理な初動からの広範囲展開、残量がなさ過ぎる。

 捨て身で特攻的突撃で、超短期決戦もあるにはあるが、この闘いで繰り出す選択肢じゃないだろうと判断、ゆえの白旗、ホワイトフラッグ。


「それじゃな、今夜も楽しかったぜ」


 通路の窓を開けて、もう一度レイルを見ると、なにか言いたげにしてたので、一時停止。


「、、、わたしも、とても、楽しかったわ」


 だろうな、この戦闘狂め。

 なんとなく鋭利に尖った、肉食獣のような目だ。

 こいつもコイツで、何となく溜まってそうだったからな。

 参謀役とはいえ、もともとは前線勤務の生粋の軍人、しかも陸戦宇宙戦問わない、ドギタナイ事すらする、暗部経験者でもあるんだしな。


「はぁ、はぁ、流石に、疲れすぎた」


 三日寝ずに、まあ、それは参謀の方も似たり寄ったりだろうから、その点ではイーブンだ、ってそれはもう言い、疲れすぎたぜ。

 自室に戻り、ベッドに倒れこむ、今度こそ、性も根も尽き果てたから、満足とか感じる暇も無く眠れそうだ。

 願わくば、夢にまで、闘いの戦場が現れない事を、今だけは望む限りだ。

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