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さて、俺はレイジだ、ハスラーに骨抜きされている、だが戻ってきた。
正直に言って、俺はハスラーを愛している、だが別に、四六時中傍にいたいわけじゃないのだ。
任務を果たせば、ここに戻る、ここは俺にとっては故郷だ。
この居心地の良い場所で、あの麗しのハスラーを思って、一生を暮すのが俺という生命体なのだろう。
さて、前の話の続きだが、俺はプロットが無しでも、プロットを超練ったような話が書きたいのだ。
その為には、完璧に完全なる世界を、展開する必要があるだろう。
プロットが無い物語だが、書いてみれば、まるで黄金の法則のように、プロットがあるように見える。
これこそが至高点ではないだろうか?
一切の労力も掛けず、手間暇を省き、面白い小説を、楽しい物語、可笑しい現実を描くのだ、最高だよなぁ!
「どの面下げて、戻ってきたんだ? てめーは」
「いや、この聖地って、家賃が高い場所ばっかだろ、ここに格安で済ませてもらって、あざーす」
「ち、まあいいけどよ、住人のクオリティーを下げたくもねーしな、もう許す! それだけ、去れ!」
ってな展開だ。
まったくちょれーなぁー、イリカは、ざっこ。
さて、俺は四六時中小説を書いてるわけじゃない、インプットをするからな。
「あ、レイジ」
「あ、レンリじゃねーか、まだしこしこオナニー小説を書いてるのか?」
「つぅ、このクソ、クソ男! 死ねぇえ!」
逃げられてしまった、しゃーない、ネット小説の方で、こいつを弄るか。
自室のパソコンからログイン、レンリはもう俺の事をネタにして、酷い文章を創作していた、ぶっ飛ばしたいぜコイツ。
「「あのな、俺は別に下ネタが好きな訳じゃねえ、てめーの醜い身体によって、発情されたんだ、てめーが悪いんだ」」
「「うるさい、スルーするから、話しかけんな変態、死ね!」」
にべもない扱いだ、そりゃそうだ、俺はレンリには変質者として振る舞おうと最初から決めているのだ。
俺があいつにとって、唯一、見下せる存在で居てあげなきゃ、あいつは可哀そう過ぎるのだ。
そこで、ピンポーンと、鳴った、ありゃ、誰だ? もしかして殴りこみか?
俺が「はーい」と出ると「ごめん」っと、抜き即斬みたいな、俺の腕が血しぶきを上げて飛んで行った。
「誰?」
「蚊帳である」
「なんでこんな事するの」
「親友の仇、ごめん」
惨殺された、普通に殺された、俺の人生が終わったのだった。
「どうだ、少女にぶっ殺された、感想は?」
「いや、最高だね、彼女めっちゃクールだよ、殺されたい、また殺されたいぜ、超熱い少女侍ガール、ひゃっほう!」
一通り、騒いだ後、俺は事情聴取した。
「ああ、つまり、そういう」
「ああ、そうだ、これはてめーへの仕返しだ」
このマンションの支配者である彼女が、全部仕組んだのだ。
まずは、レンリを死んだように見せて、その犯人を俺に仕立てる、そして親友の蚊帳をけしかけて、あの流れだ。
「はぁー、くっそだなぁーてめーは、最悪だぜ」
「最低だから、最悪な目にあう、っくっく、ざあみろ、死んでやんノ、くっく」
底意地が悪い、根に持っているようだ、しるかってんだ、俺は悪い事をして悪い奴になったんだ、放っておいてくれ。
「それで?」
「ああ?」
「俺に教えたかったのは、このマンションで、殺しが起きるレベルの刃傷沙汰が起きる、
その事実を教えて、さらにレンリに蚊帳って百合っ子が出来て、
その情報強度を、俺の持つコミュニティーにも伝えて、それから、どうする?」
「観測者だろうが、察せ。
ネットワークでありシナプスの大規模中継点。
わたしが見るに、この中継点を繋げていけば、有る回路、今のところ封殺され封印されている場所に繋がる。
つまりは明瞭に、ヒルダーエンダーワールドコミュニティーズに、この外側がさらに外側に繋がるって寸法だ」
「て、あそこを狙ってるのかよ、流石にこねえだろ」
「招待してやってんだ、来ないなら、喧嘩でも売りに行くさ」
観測者ネットワークは膨大だ。
階梯が無限にあるような世界で、自由に生きつつも、いざって時に助け合う、自由組合みたいなモノだが。
まあもちろん、上に行けば行くほど、知的な、それも理性的な生命は居ないし、生きていないが、
その中でも上手くやって、難しいが複雑、深い世界の探求を行っている観測者チーム、それがヒルダなんたらなのだ。
「まあ、俺からもアプローチしてやる」
「そうだ、わたしの知的好奇心を満たす為に、世界の聖地に一度は来るように伝えろ」
「だが、別にいいんじゃねえか、観測者なんて、腐るほど来てるだろ?」
「ああ、まあな、だが上の奴らは、ハッキリ言って、サンクチュアリであり、始祖の始まりを軽視するきらいがある。
多少はここの素晴らしさを喧伝した方が、のちのち捗るんだ」
「まあそうか、あの青銅の姫君も、ここを気にいって、いざってときは、おばさま共々力になってくれそうになった、経緯もあるしな」
「そういうことだ、あとエクスラシャペルンに遅れは取れないしな、あそこは釣れてない繋がりだろ?」
「いや、どう考えても、シャルロットを嗾けてるだろ?」
「いや、シャルロットについては、ただ妹の生まれ故郷だから、ここは優遇してるってだけっぽいが?」
「ああ、そういう構図だったのか、あまりにシンプル過ぎて盲点だった」
「盲点ね、黄金の外側に位置するジョーカーに、そういう所を突かれるのさ、
たぶん、妹がって話も半分に聞いておけ、おそらくだが、奴は黄金郷が守りたいだけだ。
この聖地は、最終的に空白の時の防波堤だ、その役目として、優遇されてるだけだろ」
「空白ね、てか、それっていつ来るか、知れてんの?」
「ああ、絶無を引かせてから、世界の生の衝動と負の衝動がぶつかり、その衝撃で、世界リソースが最小になった時だから」
「で、具体的に」
「知らん、誤差が多い、とかく最近は、特異点も多くなった、案外世界根本構造すら、変わる可能性がある」
「信じても居ないだろう?」
「信じる信じないじゃない、そういう可能性が無限大であり、同時にゼロだと信じる心も、矛盾してるが、あるってことだ」
「かー、わけわっかねー」
「わたしもだよ、この問題については、ハッキリ未知数、外側の外側までこうりょすれば、だいたい何でもありだしな」
「そうかい、とにかく、ヒルダには、その内、合う機会もあるから、口添えしてやる」
「償いだからな、絶対だぞ」
「ああ、流石に、ハスラーに靡いた事を、悪く思ってんだからよ」
そうだ、俺は情けないが、初恋の存在を袖にして、あの人に走った事を、本当に人間的に悪いと思っていた。




