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図書館都市のレイア先輩の‐学歴社会などなど人間の価値について彼是

 

 

 此処、いわゆる矛盾領域と俗称、図書館都市と呼ばれる場所に。

 エクストラシャペルン学園、純粋な学問を追及する風潮を重んじるところ。

 世界は酷く実用主義で、実践的で、即物的に利益のある事をアカデミックな世界に強制しがちだ。

 だが此処は違う、一線越えて違うだろう。

 やりたい事を、追求したい事だけ、自己本位的な娯楽としての学問をする事を推奨する。

 それ以外は不純な学問姿勢として、真理に至る弊害として批判される、まあつまりそんな感じな。


「レイア先輩、なにしてるんすか?」


「レイジ君か、見てみたまえよ、おもしろいモノが見えるぞ」


 此処は学園併設のカフェ、展望テラス兼海岸沿い、遥か遠くまで青々しい海が望める。

 特に何でもない風景、平常の平常、面白いことからは程遠い。

 うん? なんだ、アレは。

 海がグツグツと煮えたぎり、その下から巨大な、だいたい遠方にあるので具体詳細不明。

 1000メートル級の、赤黒い鯨のような存在が、ぬぅっと顔を覗かせて。

 浮かび上がったと思ったら、一瞬で隠れるように、また潜行したのか見えなくなった。


「なんすか、あの、ちょ、とりあえずヤバイですね」


「ああ、ヤバイ存在だ、酷く強いぞ、私の切り札的召喚獣、名前はまだ無い」


 なんか自慢するように薄く笑って、また何でもない海の方をすっと眺めだした。  

 なんだ、次は何をしてくれるのだろうか。


「ところでレイジ君、君はこの学園で何がしたいのかな? 具体的に」


「ええ、特にないですね、これといって追求したい世界の事象、まだ見つかってない感じで」


「まあそうであろうな、この学園の大抵の人間は、そんなモノだろう。

 それではなぜ? この学園に入ったのかな? 動機皆無と言う訳では、果たしてあるまい?」


「当然です、俺のは一言に学歴の為ですよ」


「ほお、学歴を手に入れて、どうするのかな?」


「そりゃ、アレですよ、高学歴高収入になるんですよ」


「確かに、その方が世界は生きるに易し、人生万事も無しだからな。

 それで? 高学歴高収入になって、どうする? 何がしたいのかな?」


「まあ、いろいろですよ、笑顔の可愛い女の子でも見つけてやりますよってね」


「なるほど、レイジ君、君は面白い奴だな。

 私は学歴は、己の価値を高めるものと信じて、この道を突き進むことが己の優越性を証明する手段と思って、今までずっとやってきた」

  

「ですね、世間は学歴イコール人間の価値って感じですし。

 それはそれである意味一定で、当然の真理真髄だと思います」


「ふん、ところで、他には人間の価値を規定するモノはナンダと思うかな?」


「そらアレですね、プラスして、年収イコールってのも、ある意味で同様。

 学歴と同様レベルの実力の証左、に近似だろうと思いますね」


「その通り、私は思うね、学歴と年収が人間の客観的に見える価値だと。

 社会に対する有能性等を簡潔に測ることが可能な尺度だと」


「ですよですよ。

 だいたいね、まともに勉強できないのに、まともに仕事できるはずがないのだし。

 上位20%がEX早慶クラスなのか分からないが、一流企業がそのレベルの学歴で足きりするのも、頷けよう話だと思わなくも無いっす」


 俺が愚痴っぽく話すと、レイア先輩はなんか嫌そうな顔をしてそっぽ向いてしまった。


「あれ? 気分を害した感じっすかね?」


「いや別に、ただ俗世のそのような事情は嫌悪するだけ、気にするほどじゃないよ。

 だけど、此処、この学園では、学問を追及するに、そのような不純な思考は嫌われるから、注意するといいんじゃないか?」


「了解しました、次回から注意善処します」


「まあ、私は思うよ、人間の価値などというのは、根源根本的に全てが全ては生来の運、それが全てでしかなくだと。

 己の価値など、全て付与された、分け与えられたもの、己で一から掴み取ったモノは皆無。

 錯覚的に己が己の価値の立役者と想う事はできるが、全部むなしい妄想でしかなく、まったくやりきれない。

 矮小な己は、矮小ですら本来無く。

 ゼロから出でて、どの程度恵まれた環境、あるいは身体形質などであるかで確定された、酷く曖昧で、流動的な価値なのだ」


 そう語ると、俺になにか言ってみろとばかりに、ジッと見つめて暫し黙る沈黙が舞い降りられた。


「俺も、人間の価値とは、本来本人のモノでなく、おそらく世界の価値だと思いますね。

 世界に分けてもらった価値だから、その価値を少しでも高めて、そして返すのが当然の人倫とも」


「なるほど、うんうん。

 そういう風に思考して、娯楽を得る手段に、人間の脳は素晴らしいから当然できる範疇だね。

 その理論に則れば、だから、見込みのある強者に世界は投資をするのが大事に成ってくる。

 世界の価値を高めるのが第一義ならば、当然見込みの無い弱者への投資は控えるべきこと、になる。

 しかし、人間は平等や理想も同時に求める、愚かしい話で、それは両立できない絶対矛盾に至っている。

 価値の最大化を邁進行いながら、に伴う、相対的な不平等を解消するのにも専念する。

 これは、想定される世界が、まだまだ弱者、不幸な人間が多数派を占める場合も、逆の場合も、これは同様変わらない。

 どれだけ強者に溢れても、価値の最大化に伴う競争によって、不平等が発生するはずだろう。

 な以上、これらを引き上げる、救う事が第一義、と、切捨て価値の最大化を測るを第一義、両立できない理想が生まれる。

 これが人間の譲れない、病理ともいえるモノだ、争いを醸すにする。

 世界がどれだけ変わっても、変わるとも思えない、世界における答えのでない永久の絶対矛盾だ。

 まあ、なんにせよだよ、強者の方が優遇される、だろう事は確実で、レイジ君の高学歴高収入というのは正しい賢いモノだ。

 世界を、そして救う為には、強者が伸びる方が効率が良いことが多いからね。

 大抵は見込みのない膨大な弱者に投資するよりも、強者を優遇する方が良いという話になるのだからね。

 本来なら、平等が優先されてもいいだろう。

 だが違う、それは真の平等の為の不平等なのだから。

 世界には救いが限定的にしか無く、全てを救うのは原理的に不可能に値する。

 多数の弱者を救うために、少数の弱者が犠牲になるしかないのだ。

 それは強者を冷遇して平等を保つよりも、優遇して平等を少しでも保つのが最善手であるから。

 ちなみに冷遇と表したが、これは強者が弱者と同一になる事を意味しない、事だけは注釈しておく。

 完全なる平等とは夢物語だ、人間は神ではないので、神に限りなく近づきたい、としか思えない。

 理想には限界がある、神になったかのように振舞えば、当然歪みが致命的に生じる、結果結末に至る。

 それに完全に平等な世界では、人々、人間一人一人は、相対的な存在価値の差を埋められない。

 努力して強者になっても、世界という全体に冷遇されて弱者に。

 つまり意識高く生きる意味や価値が希薄に無いのだ。

 自助努力のほぼ不要な世界では、現状の難しく厳しい社会を人間存在を、今以上によりよく成り立たせるのは不可能だろう。

 だから、今の状態が一番マシと、暫定定義されるのだろうね。

 それでもしかし、人間は今に絶対に妥協しない。

 無限の理想を追い求め、着実に確実に完成度を上げ続けるだろう。

 それが人間という存在であり、その延長線上に存在する世界なのだから。

 宇宙構造のように、これからも大規模性と複雑性、それと相反する整合性、ネットワーク性を上げて、美しくなっていくだろう。

 それが全ての人間に共通する望みであり、いわゆる宇宙意志とも言える、大いなる一なのだから。

 だが、人間はどこまで行っても、その意志に完全に忠実な、言ってしまえば宇宙という神のシモベには、絶対にならないだろう。

 建前でも己の自我、不平等を肯定すれば、人間はおよそ人倫と倫理観を永久に消滅させることになる。

 倫理観とは根本的に言って、他者を己と同一に扱う、これに尽きるのだから」


 そこで、何も思いつかなくなったのか、演説調の語りを終えて、どうだったとばかりに、海を見ていた視線をこちらに向けた。

 

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