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戦役と日常‐レイチェルとイツキ

 

 

「レイチェルだよぉー! お兄ちゃんだーいすきぃ!!!!」


「おまえ、とりあえず、そのフレーズ言っとけば、俺が喜ぶと思ってるなぁ、、」


「違うの?」


「そうだよ、凄く遺憾ながら残念ながら」


「ふふのふーん! そうだよねぇ! さすがレイチェルのお兄ちゃんシンプルイズザ最高だよぉ!愛してるぅ!」


「安いというか、薄利多売というか、レイチェルはお得だな」


「うん? どういうことかな?」


 朝、希望の朝だといいなぁ~♪

 薄い霧が立ち込める湖の畔、清浄な空気が辺りに立ち込めてて凄くフレッシュだ。

 テラスでイツキお兄ちゃんと向かい合い、お喋りに興じている。

 

「ねえねえ、最近トマトの家庭菜園を始めたんだよぉー。

 そろそろ良い頃合だから、朝食に出してあげるねぇ!」


「ちょっと待て、それは一体どういう事だ? 農業ってのは何時から一朝一夕になったんだ?」


「ああそうか、お兄ちゃんはこの世界の人じゃないモンね。

 この時代ではね、超促成栽培技法の発達で、植えて一日で芽が出て茎が伸びてトマトが取れるんだよぉ!えっへん」


「凄すぎて、情緒もなにも無くなってるな、でも、ありがとう、ありがたくもらうよ」


「うふぅ♪ そうこなくっちゃねぇ!」


 私は走って収穫に向う。

 白い霧が立ち込めて見え辛くなっている温室ハウス。

 その中は立ちこめる霧に覆われず、鮮明な色彩を保っていた。


「さむいよぉー」


 トマトを持ってきて、家に戻る。

 ちなみに、ここは北国にしては暖かい方だが、まだまだ薄着では寒いのだ。

 暖かいテラスのお兄ちゃんに、わたしの冷たい手を両方くびすじにピッタリくっつけてあげる。


「うひゃあ、やめろレイチェルぅ! つめたいだろが!」


「アイスみたいで、気持ちよくない?」


 思いっきり振り向いて叱咤する、が、微妙に頬を紅潮させて興奮しているお兄ちゃん。

 妹相手にイケナイ、けどそこも良いよイイヨ。

 

「エスクラブリテンはね、北極とも呼ばれてるんだ、寒いはずだよ、もっと温まらせてぇ♪」


「やめぇ、マジでやめてぇ!」


 ああ抱きつかれて胸当てられて、発情してるのかな? この慌てようは、どうだろうか?


「さて、それじゃ、朝食の支度してくるねぇ」


「おお、行って来い」


 朝食を持って戻ってくると、そこでは沢山の新聞やら端末を交互に忙しなく見るお兄ちゃんがいた。


「ねえ、何してるの?」


「届いてた、新聞を見てるんだ、なにぶん世情に疎いものでね、情報収集は緊要なんだ」


「そうなんだぁ♪ なんかカッコいいよ良いよ!」


 机の上にスペースを作って、手を空けてから、私も一応、一通り確認してみる。


「うん、やっぱ新聞はちょっと遅れてるね」


「遅れてる? どういうことだ?」


「だって、連合中央銀行の件、、帝国出版の新刊の件等々、乗ってないんです」


 と、ネットの情報と照らし合わせて言及してみる。


「それって不都合?」


「それほどでも、新聞の真価は、大枚はたいて著名人にコラムを書かせる事ににあり、ですから」


 ちょっとお兄ちゃんがぼうっとこっちを見つめる視線を気にしつつ、当該記事を閲覧。

 新聞の種類は数あれど、ホワイトカラーにとっての日々更新される聖書とでも言うべき、ニューヨークタイムズはやはり別格だ。

 

「こんなに買い込んでいるのに、見るべき所はそこだけなのかい?」


「お兄ちゃん♪ 呆れたような目で見ないでよぉ~レイチェルは悲しいよぉ~」


 なんか辟易されてしまったかも、、、私は笑って誤魔化すのでした。


「ふふふーん♪」


「なにやってるんだレイチェル?」


 朝食を食べ終わって、私は何時もの恒例行事をこなす。


「小説を書いてるんだぁ~♪」


「なんか凄いな、人間タイピングマシンと言うか、ただ連射機というか、、、」


「歪に見えるけど、これが最良なの、仕方ないよぉ~。

 それ、じゃあ! お兄ちゃん見て! 今日の三分クッキング的即興物語!」


「へいへい、連載モノをよくもまあ、簡単に作れるわぁ尊敬ものですわぁ」


 その短い間でも、パソコンで情報収集に抜かりは無い。

 要チェックのサイトを複数、あと個人メールフォルダに、友達のブログの更新を見る使命を果たす。


「おいレイチェル、お前小説執筆だけじゃなく、同時並行でブログニュースやってたのか?」


「いやいや、これは友達の、それにしても、もう読み終わったの?」


「ああ、まあな、割と面白かったぞ。

 もちろん、感想と評価と、おまけにピィブイ数も一だけ上げておいた」


「えへへ、毎日ありがとうねお兄ちゃん♪」

 

 心の篭ったいろいろに嬉しくなって、お兄ちゃんを上から撫でてあげる、するとバイ返しされた。

 うぅぅぅ、なんと単純な構造になっているのか知らない。

 条件反射バブロフの犬か?頭撫でられると身体が変に熱くなって、背筋に快感みたいなのが走ってぞくぞくってするの。


「うぅ、レイチェルの人生観に、お兄ちゃんは外せないって再認識したぁ、、」


「なに言ってるんだ、お前は誰よりも広大な世界観の持ち主だろうが」


「ちがうよぉ~、お兄ちゃんの存在は、世界の全てを掻き合わせても足りないくらい、レイチェルの中では巨大なのぉ~~♪」


 愛しさが限界突破したのか、ぎゅうっと胸に飛び込んですりすりスンスンしてしまう。

 これはもうどうしようもない発作のみたいなものです。


「さすがに、これはジャンルが悪いのかなぁ、、流行遅れなのかぁ、、、」


 私とお兄ちゃん隣同士、ノートパソコンが二台並んで、呟きが聞こえます。


「どうしたのかな?」


「ああ、うん、やっぱりファンタジー小説って、もう時代遅れ、てか、出尽くしたのかなぁーって、、、」


「うううん、、、、、、どうだろうぉっ、分かんないや♪ 

 でも! レイチェルはお兄ちゃんの書くもの好きだよぉ♪ 

 お兄ちゃんを深くっ真まで!、ダイレクトに直接感じれるみたいでさぁ♪!」


「そうか、、、なら、レイチェルの為にも頑張らないとなぁ」


「うんうん♪ その意気だよ! お兄ちゃんガンバ!♪」


 さて、そろそろ昼過ぎ、スマホを持ち歩き見つつ、デジタル媒体で情報収集しながらキッチンに。

 パネルに映る字を追うと、いつも思う、やはり紙媒体は無くならないと。

 だって長時間見つめると、目がちかちかしてくるもの、着信音、TLが鳴ったのだ。

 相手を確認、少し家を出て、朝とは趣を異にする、陽光煌めく湖畔を眺めるポジションで電話を取る。


「貴方は、、、とは違って、酷く性急に事を進める節がありますね」


「現実は、フィクションと違って、とてもタイムリーに事態が進むことが、往々にしてありますので」


「シャルロット、貴方にとって大切なのは、機を逃さない為に、ジャストなタイミングを測ることだと思いますが」


「御忠告痛み入りますわ、レイチェル、通信回路A8882を開いてください」


「秘匿回線で繋ぎます」


 セブンズクラッシュ。

 予測される、この事件、これはあるいは、あの陽気なお姉ちゃんすら巻き込む災厄になる。

 わたしにとって、慎重に慎重を重ねてもまったく問題ない。


「こちらフォックス、スロットディスチャンバーの件ですが、無茶です」


「うむ、了解」


「この量と型式サイズでは、確実に取次ぎが搬入を許しません、コロニーの倉庫事情は元来切迫しているんです」


「うむ。つまり、我がETCCは偉大であると?」


「、、、、まあ、そういうことです、が」


 話を全て終えてから。


「いい。やはり即断即決に勝るものは無いな。

 高度な判断能力と決断力、それに付随する情報加工能力がなければ、な。

 もちろん、誰よりも博識であるからこそ、でもあるが、だが、まだまだ、私ほどではないがな、レイチェル」


「ですか、争うつもりはありません」


「まだなにか、含みがありそうですわね。

 この際だから言っておきますが、私は貴方よりも遥かに覚悟において達観しているわ。

 どんな手段を、それこそあらゆる禁忌を破ろうが、そのような決心を完了しているのですから」


「いい事ばかりではありません、決して褒められたことでも、、、」


「いいこと、レイチェル、何もかも綺麗事で片付けたいようだけど、不可能よ。

 禁忌を破り、物量も合わせ持って向ってくる敵には、こちらも同等以上の態度で望まないと、敗北があるだけよ。

 攻めきる時に攻めきらなければ、そして守るときも容赦なく死守しなければ、すべてを本当に失う、覚えておきなさいよ」


「しかしっ」


「はぁ、可愛そうな娘、まだ甘いだけの夢に浸かりたいだけの、子供でいるみたい。

 まあ、いいわ、汚れ仕事は、いまのところ私が全て請け負えるし、貴方は今のままでも、まだいい。

 だけど、忘れないで。

 その一線を越えて、何もかもを超越する事に、掛け値なしで一切何も感じない領域に至らなければ、貴方はまだまだ、相対的に弱いってことを」


 通話が一方的に切れた。

 彼女の言っていることは分かる。

 およそ個人、ひいては世界において、思想の価値を規定するのは二つの要素だ。

 一つは富の最大化に、どれだけ叶うか、二つ、その情報の与える影響、結果としての感情の隷属度、重要性、それのみだ。


「はあ、何となく、レイチェルつかれちゃったよぉ、、」


 宇宙人である自分は、やはり疲弊した瞬間には、生まれの故郷。

 つまり、宇宙が恋しくなるのかもしれないと、こういう時にならないと実感できない。


「偉大なる主様、おばさま、あらゆる真理よ。

 どうか、わたしに、誰でもが平等に認める価値を与えてください。

 さすれば、この意識は遍く希望を形成しやすい」


「とッレイチェル。

 どうした? 俯いて歩いたりなんかして? しかもなんか呟いてるし」


 顔を上げると、覗き込むように中腰になる、私にとってだけ、であって欲しい、優しい人。


「ううん? ちょっと親友と喧嘩して、考え事ぉ♪」


「そ、そうか、なんか俺が相談できることなら、何でもきいてやるからな?」


「ありがとねありがとね! でも大した事じゃないから! 気にしないでいいよぉ!」


 世界には、もちの論で、排除すべき絶対悪とでも形容すべきものは、ある。

 だがしかし、どうしても対立し、お互いが同質の価値を有する思想や哲学は存在する。

 この葛藤は対処のしようがない、およそ人類において、このような病理が快癒した事例は決してないだろうと思う。


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