過去作「削いでみた」の続き
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しかし、読まなくてもなんら支障はありません。
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2時間経っても姉がお風呂から出てこないので、私は風呂場を覗きに行った。
すると、風呂場で姉はスライスチーズのように細く削がれた肉片になって、ひじき……間違えた。
……細切れの髪の毛と共に真っ赤な床に広がっていた。
そばに転がっていた“握り拳”の中には、カミソリがあった。どうやら、自分で自分自身を削いだらしい。
髪の毛を削いでいて、うっかり自分自身をも削いでしまい、楽しくなってしまったのだろう。姉はそういう人だ。
……ちょっとぉ、次は私がお風呂に入るのに何やってるのよぉ。
私は、舌打ちをしながら細切れになった姉の肉片と髪の毛を適当に風呂場の隅に追いやった。途中、姉の眼球部分と目が合ったので「こんにゃろ」、と眼球を人差し指で潰した。
“姉”を追いやってから、私は服を脱いでお風呂に入った。
湯船自体は何も汚れていなかったので、普通に入る事ができた。
室内の血生臭さも、シャンプーやリンスやボディーシャンプーを使っていたら自然と消えた。
姉、だったモノはなんかもぉ、邪魔だったのでお風呂場の排水溝に詰めて流した。
………バイバイお姉ちゃん。
お姉ちゃんの新型PSPとipod、形見としてもらっておくね。
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妹は、お風呂の排水溝に“私”を流した。
お前、少しは悲しい顔しろよ、と苦笑した。
粉々の“私”は排水溝内部を流れ、ネズミに軽く貪られたりしながら気がつけば下水処理場で“ろ過”的な処置をされ……? ……たのだろうか。わからない。
脳みそをスライスされているのだから、あまり細かい記憶がないのだ。許して下さい。
“私”の体はなくなったが、意識だけはこうして水の中に溶けこんでおり、“私”は“水”として存在し続けた。
流れ流れて、どこぞの小学校の水道水として小汚いガキの体内に入って、尿としてまた流されたり、銭湯で肉付きのよい男性の頭から始まり、いかつい肩、小ぶりの乳首、盛り上がった腹筋を撫でながら流れ落ちたり、太陽に熱っせられたコンクリ道路の上にぶちまけられて、蒸発して雨になり、また大地に帰るなどした。
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そんな感じで不毛な十数年を過ごしたある日、私は“水道水”としてどこぞの民家の蛇口から流れ出て、ガラスコップの中に収まった。
コップの中から空を見上げると、見慣れた顔があった。
数十年経っているから当然、いろいろと“私の知っている元の形”のものとはだいぶ違うが間違いない。……これは、妹だ。
妹と別れてもう何十年も経つが、身内目線のせいか妹はとても若々しく見えた。
リビングのほうから「お母さん、骨取れたぁ?」と舌ったらずな子供の声が聞こえてきて、それで「あぁ、こいつ母親になったのか」と気づいて、感慨深くなった。
妹は勢いよく“私”を飲み込んだ。
食道を通る際、何やら鋭く尖ったモノが引っかかっているのを見つけたので抜いておいた。
「小骨とれたぁ」と妹の声が遠く聞こえた。