狐の兄弟
俺が学校から帰ってくると、自分の部屋に見知らぬ狐がいた。いや、見知っている狐なんて居ないんだけどさ。
その狐は人間の言葉を話せるらしく、会話に成功したのだが、『うるさい』『キモイ』『油臭い』と全くもっていいところがなかった。
そもそもこの狐なのだが、人間の姿をしており、なんでも変身しているのだとか。でも見た目は酷い。俗に言う『オタク』と言われて気持ち悪がられているようなメタボ気味な体型をしていて、好物が油揚げということもあって、部屋の中が油臭い。明らかに変身失敗だろ。
狐と名乗るだけあって、狐耳に狐の尻尾、狐の毛皮のバスローブみたいのを着ている。だがキモイ。
さらに悪いところを上げるのであれば狐のくせにすごいうるさい。
俺の中の狐のイメージとしては、『コンコン』と静かに鳴いていて、人間が作ったかまくらの中で生活しているようなイメージだ。
まぁこれを今目の前にいる狐に話したら大爆笑されたけどな。
そんな俺のイメージをぶち壊すかのごとく、マシンガントークで話すわ、語尾が『コン』だわ、笑い声はデカいわで、俺の逆鱗に触れるためにやってきたかのような存在だった。
そんな狐がなんで俺のところにやってきたのかというと・・・
「暇だったコン」
だそうだ。
そしてその狐なのだが、さっきから俺の部屋にあったマンガを読みながらゲラゲラと笑っている。
「おい、狐。ちょっと真面目に話をしないか? 場合によっては、俺はお前を警察に連れていかないとならないんでな」
「警察? なんで警察に行くコン?」
「明らかに不法侵入だからじゃねぇか! それにそんな狐のコスプレなんかして一体なんのつもりだ!」
「なんのつもりとは失礼だコン。これは狐であるための証だコン」
「じゃあお前が狐だっていう証拠見せてみろよ!」
「わかったコン! 任せるコン! 狐の本気を見せてやるコン!」
そう言って立ち上がる自称・狐。
まぁコスプレ狐のことだから大したことはできないんだろうけどな。
狐は手を顔の前に持ってくると阿波踊りのような踊りを踊り始めた。
「あぁ~コンコン♪ 狐がコン♪ ワイが踊れりゃココンがコン♪」
なんじゃこの歌は。
酷いな。歌の歌詞がどうこうじゃなくて、根本的に音痴だ。
高音がカスカスだし、初めて聞く曲(?)なのに音程がずれてるのがよくわかる。
わざと音程を外して歌っているのであれば、違う意味で尊敬するわ。
一通り踊り終えたのか、満足した様子で額に浮かんだ汗を拭う自称・狐。
「はふぅ。ちょっと疲れたコン。お茶を一杯いただけるかコン?」
「いただけねぇよ。つーか今の踊りはなんなんだよ。音痴だしキモイし」
「キモくないコン! あれは狐界に伝わる伝統的な踊りだコン!」
「音痴なのは認めるのな。で、なんの踊りなんだよ」
「もうちょっとしたらわかるコン」
そう言って、テーブルの上に置いてあったペットボトルのお茶のキャップを外してごくごくと飲んだ。
そしてまたキャップを閉める。
「ありがとうだコン」
アレはあとで捨てよう。コンビニのゴミ箱に捨てに行こう。
狐はまた椅子に座り直してゲラゲラとマンガを読む作業に戻った。
さてと。
「あ、もしもし。警察ですか? はい。今なんか変な奴が」
「コンコロリン!!」
「そうです。・・・ってあれ? もしもーし。聞こえますかー」
急に電波が悪くなった。
ウチは電波は少し悪いときもあるけど、いきなり圏外になるのはおかしいだろ。
もしやと思って狐のほうを見ると、ゲラゲラとマンガを読んでいた。
こいつさっきなんか言ったよな?
「おい。なんかしたか?」
「な、何もしてないよん」
「よん、ってなんだよ」
「間違ったコン。何もしてないコン」
「人生にテイク2はねぇんだよ」
「狐生はテイク3まで許されてるコン」
「嘘つけ」
「嘘じゃないコン。将棋の『待った』と同じコン」
だんだんと化けの皮が剥がれてきやがったな。
こいつがなんかしたのか知らんが、警察に電話するのは無理だった。
ならどうする・・・
「兄ちゃん! どうしたコン!?」
「うおぁっ!!」
「弟よ。遅かったコン」
「こ、今度はなんなんだよ! ってゆーか誰だよ!」
突然、窓から少年が入ってきた。
窓開いてなかったよな? どうやって入ってきたんだ?
まさかすり抜けて・・・
少年はそこらへんにいそうな少年で、いたって普通だった。
しかしそこらへんの少年と違うのは、クソ狐と同じように狐の毛皮のようなバスローブ・・・いや、これは雨合羽か? そんなのを着ていて、ご丁寧に狐の尻尾まで付けていた。
「この子は狐の弟だコン」
「弟ぉ?」
「お兄ちゃんがまた迷惑かけているそうで・・・すみませんだコン!」
頭を深々と下げる弟。
礼儀正しいんだろうが、語尾が『コン』なのでとても胡散臭い。
「迷惑はかけてないコン!」
「迷惑だったコン。前も狐の真の力を見せるとか言って僕を呼んだくせに」
うわぁ。こいつ前もおんなじことしたのかよ。そりゃ迷惑だわ。
弟狐もこんな兄を持って大変だろうに。俺、一人っ子でよかった。
「あなたもすみませんだコン。すぐに連れて帰るコン」
「ちょっと待つコン! まだ読み終わってないコン!」
「何言ってるコン! あの顔を見るコン! 今にも帰って欲しそうだし、くさくてたまらなさそうな顔してるコン!」
俺、そんな顔してんの? めっちゃ素の表情だったつもりなんだけど。
たしかに早く帰って欲しいし、油臭くてたまらないのは事実だ。
「というわけで、今日はもう帰るコン。お邪魔したコン」
「まだ帰らないコン! もうちょっと居るコン!」
「お母さんに言いつけるよ?」
「帰るコン! 今すぐ帰るコン!」
なんだ? 母親が怖いのか?
それにしてもすごい切り替えの早さだな。テレビの入力切り替えよりも早かったぞ。
「どうもお邪魔したコンー」
「あ、いえいえ」
弟狐が頭を下げるもんだから、ついつい頭下げちゃったけど、頭下げる必要なかったな。
「・・・また来てやらないこともないコン」
「二度と来んな」
「照れなくてもいいコン」
「照れてねぇよ。マジで来んな」
「僕が食い止めますので安心して欲しいコン」
「それは助かる」
兄狐は信用できないが、弟狐は信用出来る。
弟狐は兄狐の手を引いて窓へと向かっていった。そして直前で止まった。
「悪いけど、ちょっと目をつぶっていて欲しいコン」
「え、なんで?」
「一応狐の世界に帰るコン。でも行き方とかは企業秘密なんだコン」
「そういうことね。わかった」
狐の世界って企業だったんだーとか考えながら目を閉じた。
「お世話になりましたコン」
「バイバイコーン」
バイバイキーンみたいに言うな。
目をつぶっていると、急にそこにあったはずの気配が消えたのがわかった。
ゆっくりと目を開けると、そこにはもう誰もいなかった。
一体なんだったんだ?
夢かとも思ったが、テーブルの上に置いてある、飲みかけのペットボトルが現実であることを証明していた。
とりあえずは、この飲みかけのペットボトルの中身はもう飲めないので、コンビニのゴミ箱に捨てに行くことにした。家で捨ててもいいんだけど、なんか気持ち悪くて。
徒歩3分にコンビニに行き、捨てたついでに新しいお茶を購入した。
さっきの狐兄弟のことを思い出しながら家まで歩いた。
「ホント、なんだったんだろ・・・」
思い返してみても意味がわからない。
わかることは、狐にもいろんな種類がいることと、狐も母親が怖いということと、人間の笑いのツボと狐の笑いのツボは似てるということだけだった。
これだけわかれば十分なのか?
でもあんなキモ狐のことなんかわかったところで何の得も無いな。
家に到着すると、玄関の前に何か置いてあった。
それはお皿に乗ったいなり寿司だった。そしてメモも一緒についていた。
『狐は恩を忘れないコン』
「恩? あの狐か? って、俺なんかしたっけ? ・・・あっ」
お茶か。
一口だけ勝手に飲んだだけじゃねぇか。
でもあいつも意外と義理深いところがあるんだな。
それに、考えると別に悪いことしてないし、ちょっとマンガ読みに来ただけだもんな。
もしかしたらいい奴なのかもな・・・
そう考えながら、ラップのかかったいなり寿司を持って自分の部屋に行った。
いなり寿司食いながら、あいつの呼んでたマンガでも読むかな。
ガチャ
「おかえりだコン」
「・・・おい」
「ちょっとマンガの続きが気になって戻ってきたコン」
「いい加減にしろぉおおおお!!」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
久しぶりにまともで長い短編を書いた気がします。
よければ感想とかいただけると嬉しいです。




