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三十九章 見破り

ううむ・・・ナニコレ・・・い・み・ふ






紫が復活してから会場の熱は最高潮まで達していた。そんな最高に状態の中、互いに睨み合う二人は別の意味で最高潮に達しかけていた。



「・・・・」


「・・・・」



長い沈黙の中、微動だにしない両者。傍から見ればどちらも相手の様子を伺っていると思うかもしれないが、実際は違う。

 実際は重傷を負う紫が火事場の糞力とでも言うかの如く、物凄い妖気と殺気を風綱にぶつけ、それを受けた風綱が本能からか動けないだけの話なのだ。だから一瞬でも紫が気を緩ませてしまえばその刹那、風綱が攻め入るだろう。

 結局何が言いたいかというと、紫が不利で風綱が有利ということだ。

現に紫は今どうやって反撃すればいいのか頭の中で電光石火の速さでひたすら試行錯誤している。それほどまでに紫は状態が悪いのだ。



「どうした、いつまで時間稼ぎをするつもりだ」


「飽きるまでよ」



そんな中、軽い口上があってもひたすらに計算する紫はさすが天才と言える。こんな状況下でも冷静さを欠かずに考えられるのだから。

 だが相手の風綱も馬鹿ではない。何時頃が好機か、どの時期に攻めれば効果的か、初撃は何が良いか、等、紫より劣るものの、かなりの速さで計算している。 

 そしてそんな考察中の中、先に動きを見せたのは風綱だった。紫の妖気等のせいで少し動きが鈍いがそれでも鋭い動きで紫に接近する。



「ちっ、まだ計算の途中なんだけど!」



紫は苛立たしげにそつぶやくと後ろに飛び退く。



「後ろに飛び退きどうするのかな!」



そんな紫の行動に無意味とでも言いたげにさらに速度を上げ接近する風綱。そして蹴りの射程範囲に入った瞬間、物凄い音と共に蹴りを放つ。



「ふふっ、計画性は大切に」



その声と共にスキマを展開し、その中に逃げ込もうとする。



「私の能力を忘れたか!!」



しかしそうはさせまいと蹴りを止め、自らの能力、潰す能力を発動し、紫の能力を潰そうとする。だが、これこそが紫の待ち望んだ瞬間だったのだ。



「掛かったわね?」


「何?」



そう言うと消えゆくスキマから瞬時に脱出し、何の型にも当てはまらないただの殴るを放つ。

しかしそれを難なく捌き、受け流すと突然しかめっ面になり後ろに飛び退く。



「ちっ、貴様、謀ったな」


「あら、だから言ったでしょう?計画性は大切にって」



そう言うとどこからかまた扇子を取り出し、顔を半分隠すと不敵に笑みを浮かべる。

 それに対し風綱はさらにしかめっ面を酷くする。



「まさか相殺させるとはな」



苛立たしげに紫を睨む風綱。



「さすがに将来の賢者と言わせるだけはあるな」


「ありがとう」



刺々しく紫に言う風綱。

実際何をされたかというと紫に潰す能力を封印されてしまったのだ。しかもほんの『一瞬』で。



「しかしなかなか危ない賭けをしたものだな?私の一瞬の弱点を狙ってくるなんて」


「自分でも成功するなんて思わなかったわ」



実際どうやって封印したかというとそれは風綱の能力に答えはある。


風綱の能力、それは潰す能力。


その名のとおり潰せるものなら精神的でも物理的でも潰して破壊してしまうという驚異の能力なのだが、そんな便利な能力にも弱点があり、それを相手に抑えられてしまうとノミのように小さい妖力の持ち主でも封印をかけることが可能である。


それが発動した瞬間だ。

この能力は発動した瞬間だけ妖力が空っぽになってしまうのだ。現代の物で例えると弓矢と同じ原理である。射たあとに構え直す、射たあとに構え直す、これの繰り返し。

 だがこの能力の場合、鍛えれば鍛える程その隙が無くなっていくというもの利点がある。現に風綱は連続で発動させることが可能なほどに再装填が速い。どれくらい速いというと光を超す速さである。

 しかし紫はそんなほんの一瞬を狙って封印をかけたのだ。成功する確率なんて微塵もない危険な賭けなのに、だ。



「ちっ・・・忌々しい」



悪鬼羅刹のごとくの形相を浮かべる風綱。だがそれでもなお美しいと思えるのは彼女の美貌故か。

しかしそんな風綱に対し、さらに追い討ちをかける者が居た。



「さて、もう一つ弱点があるわね、あなた」



当然の如く、対戦相手の紫その人である。

 紫は体に痛さがあるものの、優雅に歩きながら語りだす。



「あなたの弱点・・・いいえ、この里の者全てにおける弱点。それは・・・これよ」



その一言と共に桃色の何かを風綱に向かって放つ。



「むっ!?」



それを難なく回避する風綱。しかしその飛んできたものを見てしかめっ面から諦めたような表情を浮かべる。



「妖力の弾か」


「その通り」


「はぁ・・・面倒なことを」



そう、この天狗などが住む妖怪の里の主な戦闘方法は肉体戦なのである。確かに彼女達天狗にも妖力はある。だが普段から妖力の操作、強化より肉体強化を主にしている彼女達にいきなりこれを撃てというのは無茶である。

 例え今彼女がこれを撃てたとしても制御ができず、うまく飛ばすことも、力の制御もできないだろう。

 そういう点では普通の妖怪より弱いと言える。普通の妖怪達は天狗達とは逆なのだから。



「今後の課題だな。で、弱点を知ったあなたはこれからどうする?私を徹底的に痛めつけるか?まあ簡単にはやられんがな」



そう言う風綱の表情や口調は先ほどの士気最高潮から一転、諦めの雰囲気が漂っている。



「それでも構わないけど、あいにく私に無闇矢鱈に誰かを痛めつけるなんて野蛮な趣味は無いわ。出来ればそんなことせずに終わりたいところだけど・・・」



暗に諦めたら?と伝える紫。その意味を正しく受け取った風綱は、ふぅ、とため息をつくと



「・・・降参だ。そこまで弱点を見破られた挙句、それだけの頑丈な肉体持つお前に、肉体主義者の私が勝てる訳なんてないしな」



そう言いながら両手を挙げ降参の意を示す風綱。



「あら、想像以上に賢いのね、あなた」


「あなたの頭よりはいささか劣るがな」



そう言うと互いに笑い合う。


そしてそれを見た審判は・・・



「え・・・ええっと・・・・こ、この勝負!!風綱様の降伏宣言により!!八雲紫選手の勝利とします!!!よってこの瞬間!!蔡殿旅の御一行の勝利となります!!!」



そう宣言し、観客の大きな歓声と共に全試合が終了した。蔡達の勝利で・・・・


















全試合を終え、紫の治療もそこそこに終え、現在はどんちゃん騒ぎが最も起きやすい夜。



「お疲れ様、紫」


「ありがとう」



俺達はこの里の奴らと一緒に宴会を開いていた。

あの後、天魔が俺の下にやってくると


「貴殿らの実力、しかと拝見したそこで我らと共に今宵の宴会を過ごしていただきたいのだが、どうかな?」


と言うある意味お友達宣言を受け、俺がそれを快く承諾、そして今に至るというわけだ。



「それにしても聞いたぜ?とんでもない賭けに出たって」


「賭け?・・・ああ、あれね」



そう言うと酒の入った器をグイっと煽る。



「正直言って外す気しかしなかったわ」


「お前が言うんだ、よっぽどなんだろうな、その瞬間の見極めの難しさってのは」


「自分で言うのもなんだけどね。本来私の計算だとあの封印を外した後、私はものの見事に蹴り飛ばされてしばらく意識が飛んで、あなたと天魔って奴との試合後に目が覚めるっていう道筋だったんだけどね」


「それが外れたってわけだ。天才でも外すんだな」


「そうね、自分でも驚いてるわ」



そう言うと再度酒を注ぎ、また豪快に飲み干す。

 さっきからずっと飲んでるせいか、顔が赤い。

 


「まあそれだけこの世っていうのは奇想天外が潜んでるってことよ」


「なるほどな」



そんな紫を見習って、俺も一気に飲み干す。

ん~ん、なかなか来るね。



「まあでも・・・あなたのおかげで・・・・」


「ん?なんだって?」


「な、なんでも無い!!さあてもっと飲まなきゃ!!」



そう言うと先程よりも量を多めに注ぐとまたぐいっと飲み干す。明日は二日酔いだな。



「・・・友達、か。あの着物を着た女性、誰かしら」



そんな俺をよそに何かつぶやく紫。まあ周りが騒がしいから全く聞こえないけどな!!



「さいさま~~!お酒飲んですまか~?」


「藍、飲みすぎ、言葉変だぞ?」



まあとりあえず今日は楽しみますか!!あ、藍!!!飲みすぎだ!!















暖かくなってきたぜ・・・いいねぇ・・・ねむ、く・・・zzzzzz

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