二十三章 強者とは常に狙われるのさ・前
昔の奴を見てみると恥ずかしい所もありますが結構試行錯誤(?)しているところもあって、少しは成長してるのかなあ、と思った今日この頃・・・
「燃やされるわよ」
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「・・・・・」
燃やされる、か・・・いきなりだな、本当。
ん?・・・ああ、よう皆、蔡だ。
今俺は幽香の家で考え込んでいる。
何を考えているかと言うともちろんあの帰って行った雪美夜の言葉だ。
燃やされる?何が?間違いなく向日葵だろう。それ以外考えられない。
幽香を燃やすにもまず燃やそうとした奴が殺されるのは明白。誰がどう見ても無理。
「そもそも誰が燃やしに来るんだよ」
それに燃やされるって言っても何時?
それに誰が来る?人間?それとも妖怪?はたまたそれ以外の何かか?
「・・・・あ~あ、くそ・・・何も分からねえな」
ガシガシと頭を掻きながら愚痴る。
「はあ~・・・全く、あいつと関わると何か面倒事になるのか?ったく」
寝よ寝よ。こういう時は寝るに限る。
いざとなればその誰かか何かを叩き潰せばいいんだしな。
「まあとりあえず、明日幽香にでも話を聞いてみるか」
何か糸口が掴めるかもだしな。
「さあて、とりあえず、おやすみ~っと・・・」
俺は目を閉じ明日に備え寝ることにした。
「・・・よし、誰も起きてないな・・・今だ!!やっちまえーー!!」
「「「おーーーーー!!!」」」
「うあお!?な、なんだ!?」
いきなりの大声に俺は飛び起きた。
「ん?大声?」
はて、誰か居る・・・・
「ま、まさか!!」
俺は慌てて窓から外を確認する。するとそこには・・・
「・・・これ、結構居るな」
かなりの人数の妖怪達が居た。殺意たっぷりの表情で。
「こりゃあまずいな」
さっさと藍達を起こさねえと!
俺はすぐに藍達の眠る部屋に向かった。
そしてその部屋の前に着いた俺は今は構ってられないとドアを蹴破った。
「おい!起きろ!」
「んあ・・・あれぇ、蔡様だ~」
そう言うとまだ寝ぼけているらしい藍は起き上がって俺に抱きつき、えへへ、と嬉しそうな声をあげた。
うむ、可愛いが今はそれどころでは無い!!
「藍!!寝ぼけるてる暇は無い!!さっさと目を覚ませ!!」
俺は藍の目を覚まさせるためにやむを得ず頭をはたく。
「いたっ!!もう、酷いじゃないですか~、いきなり叩くなんて」
「ああ、すまん・・・じゃなくて!さっさと全員起こせ!!」
「へ?」
「なぜか分からんが外に殺意むき出しの妖怪がうじゃうじゃいるんだ!」
「!!」
それを聞いた藍は一瞬で緊迫した表情にすると急いで紫達を起こしに行った。
「さて、とりあえずだ」
藍が起こしに行ってくれてるとは言え、さすがにあれだけ殺意が沸いている集団だ。
何時何を仕出かすかわからない。となると・・・
「まああれだよな、時間稼ぎってやつ」
まあ元よりその予定だったから特に問題は無いか。
「と言ってもまだ完全復活はしてないんだよなあ」
あの雪美夜からの一方的攻撃を受けた傷が未だ残っているし、何より疲労が未だ残ったままだ。
「いつもなら特に問題も無くすぐ回復してるんだが・・・」
何か特殊能力でもあるのか?あいつは。
「まあ良い、そんなことよりさっさと出た方が良いぜ」
俺は玄関に向かい、すぐに外に出る。
「さあて、敵さんはどいつ・・・」
かなあ、と言う前に俺は唖然とした。なぜかって?
「辺り一面敵の海でした!」
こういうことだ!
「ああ?てめえ誰だ?」
そんな事を思っている中、一番前に居た目が一個しかない人型の変な妖怪が声を掛けてきた。
「人に聞く前に自分が名乗るのが礼儀じゃないのかい?」
「はっ!おあいにく様!俺はそんな礼儀知らないんでねえ!」
そう言うと拳を突き出し殴りかかってきた変な奴。
俺はその突き出してきた腕を掴むと思いっきり振り回し、集団の方に返してやった。
「おおーーー!!?」
「ぬああーーー!!」
「いってーーー!!!」
どうやらそれなりに巻き込めたようだ。
しかし骨が折れそうだ
これだけの人数、例え少しの間であったとしても面倒だろうなあ・・・
「まあ良いさ、どうせすぐ藍達が来るんだし」
俺は少しばかり気合を入れると・・・
「掛かってこいや」
試合開始の合図を出した。
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・
「亜紀!!起きろ!!風見も紫もだ!!」
ええい、なぜこんなに目覚めが悪いんだ!!いくらなんでもこれはおかしいだろ!!
私はそんな事を心で思いながらひたすら起こす作業をしている。
「ええい!!いい加減にしろ!!さっさと起きねば面倒なことになるぞ!!」
そう言っても未だに起きる様子の無い亜紀達。おかしい・・・明らかにおかしいぞ。
いくら何でも眠りが深すぎる。
まるで何か術を浴びているような・・・
「術?」
まさか誰かが何か術を?
私は一度集中して何かおかしなことは無いか調べることにした。
「・・・これか!」
あった!外側の方からこっちに向けられている妖気が!
こいつが原因か!
なら外に出て元凶を潰せば!
そう思い私は扉を開ける。しかし・・・
「なっ!開かない!?」
いくら開けようとしてもビクともしない!蹴りを入れても壊れる様子も無い。
「閉じ込めらたか!?」
こうなったら壁を壊して!
私は手に妖気を集めると壁に向かって放つ。
直撃する音が部屋に広がる!
しかし・・・
「くっ、駄目か!」
何となく予想はしていたがやはり壁は壊れなかった。
「くそっ・・・」
こうなってしまってはもう何もできない・・・後はただ蔡様がその元凶を潰すか、もしくは問題を解決するか、どちらかを祈ることしかできない・・・。
「・・・いや」
それは駄目だ・・・それは、いけない。
蔡様は言っていたではないか、最後まで諦めるなと・・・なら
「もう少し、粘ってみるか・・・」
そう言うと私は何か手は無いか、もう一度考え始めた。
「蔡様・・・どうかご無事で・・・」
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「援軍はまだなのかちきしょうめ!!」
ええい!いつになったら藍達は来るんだ!?ざっと数えて五十人は叩き潰したぞ!?
つうかどれだけいるんだよ!?
「ちっ・・・」
しかも疲労感が結構凄いことになってるし、さらに追い打ちに雪美夜の攻撃をくらった所が痛み出してきたし!
「今の俺はそんなに持たねえぞ!」
とりあえず敵を蹴り飛ばしたりしながら何とかならないか考えることにしよう。
「ん?なんか一歩も動かないアホが居るけど・・・」
しかもなんか変な態勢してるし・・・こう、何と言うか・・・腕を突き出して椅子に座ってみたいな・・・まあ良い。
「とりあえず・・・どけコラ!!」
「ぐふっ!!」
とりあえず邪魔な奴は潰す、それが良い。
「憎き風見幽香に味方するアホをさっさと殺せーーー!!!」
・・・・は?
「待ってくれ・・・」
まさかとは思うがこの大集団・・・
「なあお前ら・・・」
「なんだボケぇ!!」
「何でここ襲いに来たんだ?」
「んなもん決まってるだろうが」
「「「「風見幽香に仕返しするためだ!!!」」」」
「おおう・・・」
一斉に言うものだから少し引いた。
しかも息合いすぎ。
「何されたんだよ・・・」
「あ、あいつは俺を、俺を・・・」
「俺を?」
「一つ目の変態やろうって言いやがったんだ!!」
「・・・は?」
「俺なんてあいつに縛られて踏みにじられたんだぞ!?ここが良いのか?何て言われながらな!!」
「いや、それって」
「俺なんて男としての威厳をだな!」
あ~、くだらねえ・・・
しかもだ、あいつが言いだしたのを皮切りに皆一斉に自分の体験を言い始めた。
「そのためには・・・」
「そのためには?」
「「「「まずてめえを殺す!!」」」」
「えーー・・・」
無茶迷惑ですやん・・・
「「「「死ねーーーー!!!」」」」
「死ねるかーーー!!」
何が悲しくてそんな理由で死なねばならんのだ!!
「おらーーーー!!」
「んなもん当たるか!帰れ!!」
「ぎゃーーーー!!!」
「邪魔するなーーー!!」
「だったらなおさら帰れ!こっちはいい迷惑だ!!」
「のわーーーーー!!!」
「我が一生の願いのため!!散れーーー!!」
「くだらん過ぎるわ!!帰れ!!!」
「ひぎゃーーーー!!!」
俺はそんなくだらねえ理由で屈辱を雪ぎに来たアホどもをちぎっては蹴り飛ばし、ちぎっては蹴り飛ばしを繰り返し、とりあえず吹っ飛ばしていた。
「くっ!何て強さだ!」
「そうか!?ならさっさと家に帰れ!こっちは面倒なんだよ!!」
「そうはいくか!!こうなれば!やれ!!」
「おうよ!!」
そう言うと一つ目の変態妖怪は誰かに合図を送る。すると・・・
「燃やすぞい!ほほーい!」
「うわ~~・・・」
いかにも燃やしますよと言った体をしている誰かが現れた。
「じゃなくて!あれか!?」
こいつが原因か!?ならこいつを飛ばせば!
「そうは問屋が許さねえ!!」
「妖怪に問屋もくそもねえよ!邪魔すんな!」
「そうはいかん!!我らの長年の願望、今叶う時が来たのだ!!」
「お前ら本当に望み小さいのな!」
「やかましい!!我らの事など平和に育ったお前に何が分かる!」
「分かるか!!分かりたくもねえよ!!」
それ以前に知ったような口きくな!!
「さあ燃やしてしまえ!!」
「燃やすぜひーーはーーーー!!!」
「くそっ!止めねえと!!」
「させるか!!」
俺が止めに行こうとすると進路を妨害してきた一つ目の変態妖怪。
「どけえ!!!」
「ぐはあ!!」
俺はそいつに蹴りを入れる。しかし・・・
「ま、まだまだぁぁぁぁぁ!!」
「うおっ!?なんて奴だ!!」
なんと蹴られてもなお立ち上がって来たではないか!?しかも他の奴まで向かってきたし!!
「邪魔するなーーー!!」
「それは出来ぬ!!」
「なら帰れ!!」
「それもまた出来ぬ!!」
「鬱陶しい!!」
俺は一つ目妖怪を蹴り飛ばす。
ようやく蹴り飛ばされてくれた一つ目妖怪はさっきからずっと同じ態勢をしていた変な妖怪に激突した。
「「ふげら!!」」
すると・・・
「蔡様ーーー!!」
「藍!!」
ようやく藍達が駆けつけてくれた。
「こ、これは!?
「今はとりあえずあのいかに燃やしそうな奴を止めてくれーー!!」
と蹴りや投げ飛ばしをしながら溜めに入っている妖怪を指差す。
「あ、あれは!」
「・・・いかにも燃やしてくれそうね」
「ええ、あれはまずいですよ!」
「・・・」
「こっちは何とかするから早く!!」
「は、はい!!」
そう言うと亜紀はこっちに援軍として駆け付け、他の面子はすべてその燃やしそうな妖怪に向かって行った。
「亜紀、少しは出来るんだろうなあ!」
「もちろんですよ!!」
まだ一緒に旅を始めたばかりのせいで碌に訓練も出来ず、実力も分かり切っていない亜紀。
少し不安だ。だが・・・
「当たりませんよ!!」
「ぬあ!!」
「ならこれはどうだ!!」
「それも当たりません!」
そんな不安を掻き消すかのように相手を倒していく亜紀。
「・・・・ふっ、案外良いな」
「何か言いました!?」
「いや、何でも無い!!」
こりゃあ伸びるな、あいつ。そんな事を思いながら俺はただひたすら敵を倒していく。
「おらあ!!」
「はっ!掠りもしねえよ!!」
・
・
・
「くっ!さすがに多いな!」
「でもそれでも余裕あるじゃない、藍」
「ふっ、これでも鍛えられているんだ!それは当然さ!」
藍と紫は背中合わせに敵と対峙していた。まるで長年の親友のように。
「それにしてもだ!」
「なに、かしら!」
「お前って、意外に体術もいけたんだな!!」
「それは、当り前よ!」
そう言いながら綺麗な線を描く蹴りで敵を蹴り飛ばす紫。
「それならあなただって!!」
「なんだ!!」
「妖術とか使わずに!戦ってるでしょ!?」
「まあ、な!!」
そう、実は先ほどからこの二人はずっと体術のみで敵を蹴散らしていたのだ。
もの凄い強さである。
「そう言えば!幽香は!?」
「知らん!!」
そう言いながらも辺りを見渡す藍。紫も見渡す。
すると・・・
「居た!!」
「ああ!!」
拳で叩きつぶしたり蹴りを入れたり受け流したりして敵を叩きのめしてる幽香が居た。
「まあ大丈夫そうね!」
「そうだな!だが・・・」
「なにかしら!?」
「そろそろあいつを止めないと危ないんじゃないのか!?」
そう言う藍の視線の先には初めのころより明らかに顔が膨らんでいる妖怪が居た。
そろそろ火を放ちそうである。
「でも!!」
「分かっている!!」
しかし今の藍達では止める暇は無い。ずっと敵を倒し続けている状態なのである。
先ほど彼女達は妖術を使っていないと言っていたが実は理由がある。
それはこの密集である。
今この状態で何かを放てば間違いなく自分達も被害を被る。かと言って空に行くにもすでに上空にもかなりの数が居る。
行けたとしてもこれでは地上の二の舞。
それでは駄目である。
「まあそれだけ幽香に喧嘩を挑んで負けたってわけね!!」
「ああ、そう言うことだな!!」
今は余裕そうに見える2人。しかしこの2人とて体力が永遠にあるわけではない。いつかは尽きる。それに尽きる前にあの妖怪が火を吹くだろう。
「くっ!」
「ちっ!」
せめて一瞬でも良いから広い場所が取れれば・・・
「くそっ!!ん?」
「邪魔よ!!え?」
その時、幽香の周辺から濃い妖力が漂い始めた。
「何が起きてるんだ!?」
「分からないわ!」
その時
「「!?」」
物凄く大きい光線が放たれたのである。咄嗟のこととはいえさすがは大妖、回避することに成功した。
「な、なんて技だ・・・」
「す、すごいわね」
そしてその光線が終わる頃には一直線上に場所が生まれていた。向日葵も消し飛ばして・・・
「とにかく紫、好機だ!」
「ええ!!」
しかし・・・
「放火~~!!」
時すでに遅し・・・あの妖怪の口から大量の火が放たれたのである。
「・・・・」
「・・・・」
そしてそれを止めれなかった2人の眼に映ったのは・・・辺り一面瞬く間に火の海と化した向日葵畑であった。
そしてそれを唖然としながら見る幽香。
・
・
・
「な!」
「そんな・・・」
まさか・・・間に合わなかったのか?・・・
「ひゃっはーーー!!!」
「これであの憎き風見の大切な物を奪ってやった!!」
「爽快ーーー!!」
そして周りからは勝利と言わんばかりに声が上がっていた。
そんな中・・・
「・・・幽香は、どこに居るんだ」
俺は幽香がどこに居るか知るため、空に飛んだ。
「・・・居た」
空を飛んですぐに幽香を発見した。へたり込んでいる幽香が・・・
「・・・」
俺は今だ勝利に浸っているアホどもを無視し、幽香の下に向かった。
「幽香・・・」
「・・・・・・・・・・・」
俺は地面に降りると幽香に声を掛ける。どういう言葉が今は合ってるのかは分からないが、声を掛けずにはいられなかった。
「なあ、幽香・・・大丈夫か?」
「・・・・・・・・」
しかし返答は帰ってはこなかった。
「・・・・・・・・」
「なあ、幽香・・・」
と肩に手を掛けた瞬間
「いっ!!」
バチンという音と共に思いっきり手を払われた。
「おいっ、何すんだ・・・よ・・・」
そして文句を言ってやろうと思って幽香の顔を見ると・・・
「・・・・・・・・」
無表情の幽香が居た。いや、正確には、居たように『見えた』、が正しい気がする。
「ふ・・・・ふふふ・・・・あはは・・・アハハハはは!」
「・・・幽香?」
不気味に笑い始めた幽香。その笑いには狂気が混じっている。
「そう、そんなに死にたいのね・・・なら殺してあげるわ」
「おい、幽香?」
「皆殺してあげるわ!!!」
その瞬間俺に向かって鋭い回し蹴りが向かってきた。
「うおっ!?」
何とか回避することに成功する。しかし回し蹴りの範囲に居た他の妖怪はまるで吹き飛ぶ木の葉の如く、いとも簡単に吹き飛んで行った。
「「「!!」」」
そしてそれに気づいたその他の妖怪。視線は一斉に幽香の下へ。
「・・・・」
幽香は俯き、腕もだらんとして、ただ突っ立っている。ただ普通に、だ。だがそれ見た他の妖怪達の表情は・・・
「「「「・・・・・・・・」」」」
恐怖で埋め尽くされている。中にはすでに倒れている者やあまりの恐怖に死んでいると思われる者もいる。それほどまでに恐ろしく見えるのだ、今の幽香は。
「・・・・・・・・・・・・・・」
ゆっくりと顔を上げる幽香。
そして・・・
「生きては帰れないわよ?フふっ」
大量虐殺の時間が始まったのである・・・・・・