各地の異変、そして…
ふい~…汗だくの後の風呂は格別だわ…最高…酒もまた良い…
今回は亜紀が主役。しかし…
はぁ…今日も失敗かぁ…
「蔡様にまた弄られる…うぅ」
妖怪の山で秋葉さんと、あ、ああ、逢引をし現在帰宅中な私。紫様のスキマが無いので帰宅するのにかなり時間が経ってしまいましたが、まあそこはそこ、長年飛び続けてきましたからね! 飛んで物凄く短縮しました! でも、あの射命丸って人に比べればまだまだなのですが…
「ああ、あそこで何故何もできなかったんだ私は!!」
そんなことはともかく、現在帰宅中の最中、私が物凄く悔やんでます! 現在進行形で、激しい速度で!!
何を悔やんでるかと聞かれれば…
「あんなにも良い空気だったのに…手出しできないなんて…」
ま、まま、そのぉ…あれですよ、大人の事情、と申しますか、なんと言いますか…と、ともかく! そ、そのちょっとしたおおお、大人の時間を過ごそうとしたのですが…
「な、何故なんだ…」
まあ、見ての通りです、失敗しました。ええ、物凄く残念な形で。馬鹿だと思いますよ、いや本当に。
だって秋葉さんが
ね、ねぇ、最近、ご無沙汰じゃない?
なんて赤い顔で言ってきたのに! わざわざ肌を少し危険で際どい所まで晒してまで言ってくれたのに!!
え、ええと、あ、あははは、そ、そうですね! 最近逢引してませんでしたもんね!!
混乱しすぎて低次元で愚かな嘘八百をぶちまけてしまい…はは、微妙な空気で逢引終了のお知らせですよ。
ええ、馬鹿と罵ってください、愚か者と軽蔑してください、根性なしと見下してください。
今の自分はそれ以上に罰が必要な本物の愚か者かつ根性なしかつ大馬鹿者ですから。
「あは~、今考えれば私っていっつも押し倒されたばっかですよね~」
ふと思い返せば負の連鎖。
つい最近もそうでした、一瞬で押し倒されてそのまま…
「…っ!」
ああ、駄目だ、未だに思い出すだけで顔から火が…熱い、熱すぎる。
「ううぅ…」
こんなんだから根性無しって言われるんだ…
「何年生きてるんですか全く…」
自分自身が情けない。これでも秋葉さんよりも長生きなのに!
「…ん?」
自分が情けなく感じる中、気がつけば目を閉じても脳裏に浮かぶほど見慣れた森林が見えてきた。しかし何故か森を見て違和感を感じる。なんでしょう?
「とりあえず行ってみましょう」
何か違和感があれば調べてみろ、これが蔡様から教わった教えです! 私は地面に効果すると早速その違和感ある森の中へ歩み始めました。何か違和感の原因なのだろう…
「ん~~~、特に変化なし、常時通りですか」
それなりに歩き回り調査を続けたが結論から言うと、全くの外れ、大外れ。今日は厄日ですね…
「些細な変化と言えば何やら動物達が怯えていることくらいでしょうか」
これでも私は銀狐の妖怪、動物達との会話なんてお茶の子さいさい、朝飯前なのですよ!
おかげで歩き回ってきた各地に友達が大量です!!
…人間などの友達はいませんが…哀しいです。
まあそれはさて置き、動物達が何かに怯えているのは確か。何に怯えているのかは分かりませんが。
ちょっと聞いてみましょう。
ちょうど辺りを警戒しながら歩いている友達の犬が来ましたし。
「あの、銀仁朗さん」
『ひっ!!、な、なんだ、おめえか』
何故でしょうか、声を掛けただけなのですが物凄く驚かれてしまいました。
「何をそんなに怯えているんですか?」
『おいおい、お前知らねえのか!? ここらに出るおっかねえ妖怪を!!』
おっかねえ妖怪?
「おっかねえ妖怪とは?」
『な、そんなとこまで知らねえのか!? 最近ここらでよく殺傷を行う奴がいるんだよ!』
「殺傷?」
『ああ!! そのまんま、殺しだよ!!』
こ、殺し…
『しかもその犯人、心底楽しく笑いながら殺しをするって話だ!』
う、うわぁ…危ないですねそれ。
『俺の仲間も既に何人も殺られたよ…』
そ、そんな…
私はその言葉を聞いて居てもたってもいられず、聞いてみることにした。
「その妖怪を見たことは?」
『見たもなにも、ついさっきそこを通っていたぜ! あんなに頭に焼きつくような姿、見たことねえよ!』
「ふむ…」
脳裏に焼き付くような…
私はその脳裏に焼き付くようなという少ない情報を元に自分の脳内を詮索する。だがどれだけ探してもその焼き付くような、という言葉に引っかかるような妖怪は出てこなかった。
いや、待てよ? 脳裏に焼き付くほどならば都の陰陽師、または蔡様にご依頼があってもおかしくないはず。この森は妖怪も少なくではありますが出現しますが、それ以上に人間が狩りをしたり娯楽のために来ることもあります。
ですが、その人間達にすら見つからず、妖怪達にも見つからない。だが何故か銀仁朗さんには見つかった…ふむ、中々見つけにくい妖怪なのでしょうか?
「銀仁朗さん、貴方以外にその妖怪を見た者は?」
『それならそこらじゅうにいるぜ。さっき会った鳥に源次郎爺さんも、犬の頭領の美也姐さんも知ってるし、錦坊の息子の英辞郎まで知ってる始末だ』
そ、そんなに…目撃談が多すぎますねぇ。
『俺の長年の勘だとあの化物、そこらの奴なんか全く歯が立たねえほど強いぜ』
「そ、そんなに…」
『ああ、あの化物にかかりゃあそこらの妖怪なんか赤子同然よ!』
ううむ、それはかなり危険ですね。闘犬として名が知られているあの銀仁朗さんが言うんです、間違いありません。そもそもどうしてこんな変わりのない森にそのような強者が来たのでしょうか。
食糧不足による移動? たまたま出没した? 探し物?
…駄目だ、候補は上がっても絞り込むことが出来ません。それ以前に情報が少なすぎる。
「姿は?」
ここは情報の基本、姿に関して聞いてみましょう。
『あ、ああ。姿は人間だった。ある部分以外はな』
「ある部分?」
『まずは耳だ。何か被ってたから分からんが、あれは何か動物の耳だ』
動物の耳…まだこれだけじゃあ分からないな
「他には?」
『そうだな…ああ、そうだ尻尾だ!!』
「尻尾?」
尻尾とな? ならば狸か、それとも犬か同種族の狐か…虎も可能性がありますね。
『ああ、あの多数の尻尾!! あれが何より目を引いたぜ!』
「…多数?」
多数…
この言葉を聞いた私は心より尊敬するある一人の人物が浮かび上がる。
それは蔡様を心よりお慕いする美麗なる大妖、藍様である。
いや待ってくれ自分。確かにあの方は被り物をしている。九尾という自慢の尻尾もお持ちだ。
だが、だからと言ってあの人が動物達を怯えさせるような事をするだろうか? いや、無い、ありえない。あの心優しい方がそんな野蛮なことを…
だがあの人以外に該当する者はいない…
『お、おい亜紀!』
それに他の人だという事もありえる
『おい! おいってば!!』
そうだ、そうに違いない! 第一まだ何本とまでは聞いていない。ならばそう早く決める必要もない
『おい!!!』
「痛っ!!」
そんな思考の海に溺れている中、突如腕に痛みが走って海底から意識を戻すと目の前には顔が青ざめた銀仁朗さんがいた。何でしょうか?
『う、う、ううう後ろ…後ろだ…居る、奴がいるっ!!』
「後ろ?」
『う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!』
そう言うと脱兎のごとくなんて比でもない程の速さで逃げていく銀仁朗さん。
そういえば後ろって言って
「亜紀じゃないか…こんな所で、どうしたんだ?」
「ら、藍…様…」
とすっ、と衝撃が来たので後ろを向く。
するとそこには『いつも』の服装を纏った『いつも』の藍様が『いつも』の優しい笑みを浮かべてそこに立っていた。
「…ど、どうし…て」
身体から地面に流れる血を除けば…私の身体を貫く血で染まった真っ赤な腕さえなければ、いつも、通り…
「どうして、藍…さま…このような、事を」
「ふふっ、どうしてだと思う?」
体を貫かれ薄れいく意識の中、なんとか藍様に真意を問う。問われた藍様は私の問いに怪しくも残酷で狂気を孕んだ笑みを浮かべ、逆に問い返してくる。
「どう、して?」
「そう、どうしてだと思う?」
「…くっ!」
未だに問い返してくる藍様を私は血が吹き出すことも省みずに無理やり振り払うと距離を置く。
くっ、血が…
「おやおや、質問の最中に乱暴を働くとは…躾がなっていないなぁ」
「はぁ…はぁ…今の貴女に、言われる言葉では、ないですね」
血を流しすぎたせいで満身創痍な私を見てより一層残虐性が増す笑み。
まずい、意識が…
「まあ良い、そんな繊細な事など今この場では不要。今必要なことは…」
藍様は自身の腕にべっとりと付着した血を舐め取ると爪を出し、こちらに近づいてくる。
「今お前を…」
サクサクと
「この場で…」
またサクサクと…そして距離を詰め、腕を伸ばせば簡単に届く範囲にくると
「抹殺すること…これが何よりの最優先任務だ」
その真っ赤な腕を私に向かって、振り下ろしてきた…