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        人と妖・後

つ、疲れた…こんな文書くのに疲れるとか精神力ねえなあ…



本当にあったらやばいよな、そんなの…



後編なのになげえなおい! てツッコミはカンベンを…




帰りたくなるほどの量を前にとうとう戦いの火蓋が切って落とされた。今空に浮かぶは敵を落とさんとする矢の嵐。


刺さり迎撃に成功したものもあれば外れてしまい役目を終えずにどこかに飛び去ってしまうものもある。そしてそんな初撃を交わしてくる一部の妖怪達はとうとう地に降り立つと地上戦を仕掛けてき、すぐさま地上が地獄絵に変わる。



「まあ、そうなれば俺も多々変わらずを得ないんだけどな!! おらぁ!」



そんな中俺も戦闘の真っ最中である。今も蟷螂のようなやつの頭を蹴り飛ばしてやったところだ。



「ちっ、鬱陶しい奴らじゃ!」



近くでは晴明や紫や幽香も接近戦で殺りあっている。



「死ね、死ね、死ね!!」


「物騒な単語を連呼するんじゃありません!!」



俺の目の前で死ねを連呼する見た目猿の妖怪を地面に叩き伏せると追撃とばかりに頭を踏みつけ、ぐちゃりという嫌な破壊音と共に絶命に追い込む。その際飛び散った肉片が服に付着するがこの際無視だ。



「面倒な!」



死体から足をどけ、辺りを見渡す。既に空に向かっていた矢の嵐は収まってしまっていて、代わりに大量の妖怪共が降り注いでくる。



「なんて量だ、晴明!」


「分かっておるわ!! じゃが手が空かんのじゃ!!」



晴明に声を掛けるも邪魔が入ってしまっているらしく怒鳴り声しか帰ってこなかった。



「幽香、なんとかできるか!?」


「無茶言わないでよ、私の身体は一つなの、よ!」



どうやらこっちも手が空いてないようだ。今もお気に入りの傘で雑魚を殴り飛ばしている。



「ゆk」


「言わなくても分かってほしいわね!」



駄目か…


紫もスキマや傘等を使い雑魚をバラバラにしている最中だ。



「なら俺がやるしかねえか!」



俺は一気に空に飛び上がると空中戦に挑む。こいつら先に潰さないと絶対敗北するだろうからな!


そんな中、空中に一人飛び出したせいか飛んでいる辺り妖怪共の視線が一気に俺に集まる。



「おいおい、自殺志願者か~~?」


「馬鹿がいるぜ」


「殺してやれ!!」



最後の一言を機に辺りの妖怪が俺に向かって仕掛けてくる。だが悪いな、ここは地上じゃなくて空中だ。人がいないんだ。



「ようは、遠慮する必要が、無いってことだよ!」



俺は一気に妖力を込め印を切る。すると俺を中心に風が強く吹く。



「な、何だ!?」


「何が起きるってんだ!」



すると一人の妖怪が何の音も発さずいきなりバラバラになり物言わぬ肉片となって地に落ちていった。



「い、今のは?」


「さ、さあ?」


「何か知りたいか?」



疑問に思う馬鹿共に俺が不敵に笑みを浮かべると



「ちょっとしたお手製鎌鼬さ」



辺りに目に見えない鎌鼬が発生する。正直俺も肉眼で捉えられません。



「な、なにw、ぎゃーーー!!」


「ひ、ひいーー!」



そんな鎌鼬の嵐が起きている中、次々と肉片に変わっていく雑魚。首が飛ぶ者も居れば切り刻まれすぎて身体の中身が晒せれる者もいる。



「これで後は時間の問題か」



俺は絶命していく者達を見て、そう思う。しかし



「うおう!?」



俺の頬を掠めていく何かによりそんな思いも打ち砕かれてしまう。

俺はとりあえずその掠めた何かが飛んできた方に身体ごと向ける。そこにいたのは



「…骨が折れそうだ…」



新たに現れた雑魚共であった。それも先ほどより幾分か多く…ん?



「ちょっと待て、何か変じゃねえか?」



俺はちょっとおかしいと思ってしまった。何がおかしいって…



「なんだこれ、鎧付けた妖怪とか初めてだぞ?」



鎧を着けた見たこともない奴ら。その見た目はもちろん、発せられる雰囲気すら先程とは桁が違う。まるで長年戦い続けた熟練兵のような…。見た目に関しては顔が牛や、猫とかよく見るものではあるのだが、半分潰れた顔、腐って判別不能な顔、別々の動物の顔など、明らかに異常を通り越している。そして共通することが、皆、顔や身体が黒く、血管が浮かび上がり、目が赤い。中には人の姿を残して化物になっている者もいる。

 いや確かに今までも色んな妖怪は見てきた。それこそ牛の顔に熊の体とか、そんな混ざり物まで。でも今回は、違う…。まるで地獄から来たような…



「ちっ、悩んでも仕方ねえ! 晴明に聞いてみるか!」



俺は方向を転換すると晴明のもとに急ぐ。それを見てか、異形の者達も地上に向けて降下を開始し始めた。



「やっぱそうなるよな! それ、置き土産だ!」



俺急停止すると出来る限り時間を稼げるよう軍団に向かって持続性の竜巻を発生させる。



「!!」



どうやら物の見事に嵌ったらしく、進軍が一時停止した。今のうちに!



「晴明!!」


「なんじゃ!!」



地上についた俺はまだまだ多く残る雑魚を蹴散らしながら晴明に近づく。



「陰陽術とか法力の中に異形の者を呼び寄せるものはあるのか!?」


「あるにはある! 地獄の兵や怨念を呼び出すものはな! だがそれは人間を捨てねばできん禁忌、通常では出来ん!!」


「じゃあ道尊が人間を捨てたのは本当だな!! ほら!!」



俺の指差す方を見る晴明。するとすぐに舌打ちが帰ってきた。



「あやつめ、そこまで堕ちよったか…」


「どうするよ!?」


「そうじゃな…あれを還すには二つ方法がある! まずは奴らの出現元の門自体を壊すことじゃ! ただし地獄から召喚された者達が消えるだけで、怨霊達は居続ける!」


「それ駄目じゃん! 他は!?」


「他は、術者本人の抹殺、じゃ!」



言いながら札を使い雑魚をまた一人殺す晴明。


抹殺って



「ようは本人を殺せば良いのか!?」


「そうじゃ! しかし道尊を見つけねばどうにもならん!」


「ふはははははは!! その必要は無いぞ、晴明ぇぇぇぇ!」



その時、突然姿を現した禍々しい雰囲気漂う誰か。頭には角が生え、手の爪は有り得ない程伸び、口には飛び出した八重歯、そして人の目ではなくなった赤黒い目、肌には血管が所々浮かんでいる。まさかコイツが…



「道尊…堕ちるところまで堕ちたか!」


「ふははははは! 久方ぶりに会うてその言葉か、相変わらずよなぁ!」



大げさに腕を挙げ気味の悪い笑みを浮かべる道尊。腕を上げた時に見えたが、腕が黒い。



「ようやく、ようやくぞ! 貴様をあの世に屠り、我がこの世を治める瞬間が、ようやく目の前に来ている!!」


「愚かな…」


「ふはははは!! 何とでも喚け! 雑魚が吠えたところで怖くもないわ!」


「…」



喧しい程高笑いをする道尊に対し晴明は呆れにも似た表情が浮かぶ。



「今更聞いても遅いだろうが、何故鬼に身を堕とした!」


「…」



その質問を聞き、ぴたりと笑いを止める道尊。そしてゆっくりとこちらを、正確には晴明を睨みつける。



「貴様の、貴様のせいじゃぁぁぁぁ!!! 貴様が、貴様が儂より優れているなどと言われおるから!! 言われおるからぁぁぁぁ!!」



発狂なんて表現が優しいくらいに発狂する道尊。それを見て晴明は、もはやままならんか、と悲しげに呟いた。



「まあ良いわ!! そんな思いも今宵で終わり!! さあ晴明!! 共に踊ろうではないか!! 貴様をあの世に見送る死の踊りを!!」



そう言うとまた高笑いを浮かべ、そして急に姿を消した。



「帝の間で待っているぞ、晴明ぇぇぇぇぇ!!!」


「…だ、そうだぞ、人気者」


「…辛いものよの」



そう言うと一瞬哀しげな表情を浮かべる晴明。しかしそれもつかの間、すぐに顔を引き締め、陰陽師としての顔に戻すと、行ってくる、と短く静かに告げ、帝の間に向け、歩き出していく。



「…頑張れ人気者、それまではこっちでなんとか耐えてみるからよ」



出来れば早めにして欲しいがな…

そんな折、俺の目に前に見覚えのある者が姿を現した。



「お前は亜紀の式神!」



亜紀の式神の狐である。所々切り傷があるところ見るとかなりの強行軍をしてきたのだろう。

俺はその式神が加えている紙を受け取る。



「なっ!?」



そこに書かれていたのは、短く























幽々子様負傷、至急救援を
























たったこれだけ。しかしその意味がどれほど重大であるかを知らしめるには十分過ぎた。


俺は一瞬頭が真っ白になる。しかし頭を振り、すぐに意識を戻すと近くにいた紫に怒鳴り声で声を掛ける。



「紫!!! 亜紀の所に戻ってくれ!!!」


「はぁ!!? 貴方正気!? 晴明が抜けた分辛い状況なのよ!?」


「分かってるけど、幽々子が、幽々子が負傷したんだ!!」


「!!」



それを聞いた紫は雷でも打たれかのように静止する。そしてみるみる内に怒りが体から溢れ出す。



「…分かったわ…行ってくる…愚かな雑魚どもを消しに」


「頼む…」


「ええ…ごめんなさい、ここは任せるわ」



そう言うとすぐにスキマを出し、亜紀の下の行く紫。それを確認した俺は弱っている亜紀の式神を出来る限り安全な場所まで運び改めて戦場に目を向ける。そこに広がっているのは、今なお戦い続ける兵士達、無念にも敗れて逝った兵士達の亡骸、兵士に斬られくたばった妖怪、身体の部分、中身…慣れない者が見たら嘔吐確実な光景が広がっていた。



「骨が折れるな…これが終わったらしばらくどこにも行かねえからな!」



そう言うと俺はそんな屍が転がり今なお戦闘が続く激戦地に突進していった。





































「はぁ、はぁ…まだいるのかよ」


「そう、みたいね…」



あれからどれだけ時が経ったのだろうか…短い気もしたし、長い気もした。幽香の服も俺の服も返り血や切り傷、所々に破れが目立つ。

そして辺りには先程よりも量の増えた死体、逆に減ってしまった兵士や陰陽師達。そして今なお増え続ける異形の者。

よく見れば普通の妖怪達は全く居ないんじゃないだろうか、そう思えるくらいに奴らがいた。


そしてさらに追い討ちをかけるのが、俺ら防衛側の疲労が頂点に達しかけているということ。


どれだけ戦ったのか分からない。でも少なくとも疲労感が出るほどには戦っている。

兵士や陰陽師達の顔には生気があまり宿っておらず、中には絶望感たっぷりの者までいる。

今は辺りの奴らをなんとか押しのけ、退ける所まで退いてきたから敵は居ない。だがそれでも着々と奴らの足音がこちらに向かってきている。



「晴明、何してやがる、早くしねえと本当に全滅だぞ…」



幽々子達は無事だろうか? ふとそんな事を考える。



「ははっ、他の奴より己の身を心配しろってな…」



壁に背を着け、つい愚痴を漏らす。

そんな時



「ぐあっ!!」



一本の矢が疲労困憊の兵に向かって飛んできた。そしてそれを受けた兵士は当然の如く、息絶えてしまった。



「そうか、そこまで来てるか…」



意識すると奴らの足音がもう間近まで来ているのが分かる。あ~、生きて帰ったら俺も修行のやり直しだな。



「行くか…」


「そうね…」



俺が壁から背を離し迎撃に出る体制を取る。それを見て幽香も同行しようとする。



「ま、待て! あんたら正気か!?」


「そうだぞ!? もはや我らは負けたのだ!! 諦めるしかないのだ!」



根性がねえなあおめえら…



「知ったことか…諦めるのはあまり好きじゃねえんだ」


「右に同じく、よ」



そう言うと彼らは何も言えず黙り込んでしまった。



「さて、死地に向かう準備は? 幽香さん」


「いつでも良いわよ蔡さん」



そう言うと敵に向かって歩み始める俺と幽香。心身妖力全て共に来ているが、まあなんとかなるだろう。



「んじゃま、行ってみようか」



俺は腕を挙げ戦闘態勢を取る。腕が重いが気にしない。



「よっしゃぁぁぁぁ!! 派手に行くぜぇぇぇ!!」



派手にくたばろうと意気込んで幽香と共に突撃した。その時



「蔡!! 道尊を討ち取ったぞぉぉぉぉぉ!!」



聞き覚えのある声が響いてきた。


そうか…やったか…おめでとさんこの野郎…


俺はそんな事を思いながら謎の浮遊感を感じると、暗い世界に旅立っていった…







長かった…

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