四十九章 人と妖・前
いつになったら現代編を進めれるんだ…
今回の事件は、あれを参考に書いてみました。わかる人いるだろうか…
長いので2つに分けたぜ!
あの鵺襲撃、とでも言えばいいのだろうか。まあそんな事件から早十年くらい。あれからは一部を除き特に何か大きいこともなく平和に生活を堪能している。
ついでに一部を除きというのは清明が未だ俺らを警戒しているらしいということと最近幽々子の調子が少し悪くなったこと、そして亜紀が妖怪の山の犬走と遠距離恋愛をしていることだ。
ただ晴明に関しては前から営んでいた俺の仕事の依頼と重なったりしたせいか、刺々しさが多少柔らかくなったような感じもする。まあ、多少、だが。
幽々子に関してはまあそういうこともあるんじゃないかということで現在は特に問題視はされていない。
亜紀に関しては、微笑ましい毎日だ。何日か留守にすれば幸せ顔で帰ってくるんだ、微笑ましい以外になるがあるんだってんだ。
まあそれはともかく、それくらいに毎日が気楽に無害な毎日なのだが…ある日、とうとう事件は起きた…
「蔡!! 居るか!!」
毎度のごとく女の姿で縁側でお茶を啜っていた時、俺の耳にいきなり怒鳴り声で俺を呼ぶ声が聞こえてきた。この声は…
「んあ? 晴明?」
どうして清明が俺を? あまり親しくない、というか一方的に嫌われているので喋ることすらなかったはずだが…
俺はそんな突然のことに多少の戸惑いを感じながらも手に持っていた湯呑を置き、玄関に向かった。
するとそこには
「遅い! 貴様客人を待たすとは何様じゃ!」
男性にしてはかなり珍しい括った長髪を頭の後ろに垂らしながら案の定これでもかというくらいお怒りな陰陽師、安倍晴明さんであった。別名女男、亜紀と同じである。
「いや待て、こちらにも事情というものがだな」
「喧しい! こちらはそんなのんきな話をしている暇なんぞないのだ! 上がらせてもらうぞ!」
そう言うとずかずかと縁側の方に向かって歩みだす晴明。
あれ? お客さんだよね?
あまりにも突撃的な態度に少し頭を捻るが、何やらただならぬ様子だったことを思い出し、俺も縁側に向かうことにした。
「蔡様、お茶とお菓子でございます。清明殿も」
藍はお茶とお菓子を丁寧に置いていく。相変わらず気が利くぜ。将来の旦那が羨ましいz
「…」
「すいません、私でした」
読まれてしまったようだ。物凄い視線を俺に向けてきやがった…怖い。
「では私は…」
そう言い、一礼すると別室に去っていく藍。それを見た清明は一度お茶を飲む。そして美味い、と感想を口から漏らすと一瞬の間を置き、こちらに体ごと向く。
「先程はすまぬ、今回のことがあまりにも大きすぎるのでな」
この通りだ、と座りながらも心より謝罪していると分かるくらい深々と頭を下げる晴明。それを見て俺は少し焦ってしまう。
「い、いや、別に構わんよ。むしろいきなり謝罪されると焦るというか」
「そうか? なら良いのだが」
そう言うとまたお茶を啜り間を置く。俺もそれに見習い、お茶を啜る。そしてまた間を置く。すると清明がまた口を開いた。
「最近都が…いや、都と妖怪連中が小煩いと感じんか?」
「あ、ああ、そうだな」
最近都の方があまり宜しくない意味で騒がしい。都に行けばこれでもかというくらい武装した兵士が警備のためか彷徨きまわり、陰陽師もよく見かけるようになった。なんでも聞いた話によれば大きな災いが来るとかなんとか。それに伴ってか妖怪達も騒がしく、紫や藍、幽香や亜紀や流美亜は口を揃えて
最近はどうも血が騒ぐ
と言う始末。おかげで少しばかり短気になってしまっている。まあ幽々子と爺さん、そして俺に関しては妖怪ではないせいか、影響は出てないようだが。
「そうか…なあ蔡よ」
突然俺の瞳を射抜くほど真剣に見つめながら声をかけてくる晴明。何だ?
「ああ? なんだ?」
「…長年、私はお主達を監視してきた。この都に害なす者として」
「…」
「…じゃがお主達は何の行動も起こさなかった。いや、それどころか人間に手を貸していた。妖怪であるにも関わらずに、だ」
「…」
「これはどういうことじゃ? 何故妖怪を駆逐し、人間に手を貸す? どういった魂胆じゃ?」
淡々と述べる晴明の瞳には探るような、何か計り知れないものがあるような気がした。
多分ここで素直に言わなければ、俺達は一生都から追われることになるだろう、そう思えるくらいに。
だから俺は素直に話すことにした。自然に、何の嘘もなく。
「そうだな…正直に言えば喰う喰われるに興味はない。人間がどうなろうが知ったことじゃないし、どうでも良い」
「…」
「でもだからと言って排他的に接したいのかといえばそういうわけでもない。どちらかというと友好的に接したい。難しいことではあるがな」
「…」
「それに、俺らみたいな変わり者からしたらあんたら人間の生き方は面白いからな」
「…面白い?」
「ああ。己一人じゃあにも出来ないくせに何人も集まって、どうすればあれはこうなる、ああすればこうなる…そういうの、俺らみたいな長寿な連中からしたら興味が沸かない訳がない。まあそれを理解できない低脳は今でも山ほどいるが」
それを聞き苦笑いを浮かべる晴明。
「だからこそ、見ていたい。出来る限り近くで。だからこそ、乱したくない。お前らの生き方」
「…」
「だからそれを邪魔するなら妖怪でも容赦なく潰す」
「…」
「まああれだ、ようは俺らは人間好きの変わり者で、観察を邪魔されたくないから邪魔になる奴らを排除する、ただそれだけのことよ」
そう言うと俺はお茶を啜る。あ、お茶が切れた。
「これが魂胆。どうだ、あんたのお目に適ったかな?」
そう聞いてしばらく、清明は黙り込んだままでいると突然小さく笑う。
「何だ? 俺おかしなこと言ったか?」
「ふふっ、そうじゃな、かなり可笑しいのぅ」
酷い言われようだ。
「まあ、じゃがお主らのことはよく分かった」
「そうか」
「そこで、お主らに最終試験を言い渡したい」
「最終試験?」
「ああ、先の都の件じゃ」
先程の笑みは消え、今は危険な者を排除する陰陽師、安倍晴明が真剣な面立ちでそこに座っていた。
「妖怪どもの活発化、都での怪奇現象…此度の一件、お主らにも手伝ってもらいたい」
「…は?」
いきなりのことに頭がついていけない俺は多分物凄く間抜けな顔になっていることだろう。
「ちょちょちょちょ、ちょっと待ってくれ! 今回の一件を、俺らが、手伝う!?」
「ああ」
「ど、どういうことだよ、何故俺らが手伝いを?」
それを聞き清明ははぁ、と何かこう、苦労を感じるため息を漏らす。ど、どうしたんだ?
「その理由を述べていくとじゃな、まずはお主達が信用するに値するかの試験、これは言ったな?」
「あ、ああ、さっき聞いた」
「そうじゃな。次に相手が妖怪だけではなく、同じく人間の陰陽師、道尊ということじゃ」
「…誰それ」
「なんと、こいつを知らんのか?」
「知らん」
聞いたことも見たこともねえ。
「そうか…まあ良いわ。こやつがな、都では陰陽師の頂点に立つ程の実力の持ち主でな」
「ああ、待て待て、読めたぞ。ようはあれだろ? 対抗できるのがお前くらいで、後はへっぽこぴーと言いたいわけだろ?」
「…」
静かに、何も言わず視線を逸らす晴明。よし確定。
「い、いや、まあ他の奴らも弱いわけではないのじゃぞ? ただ今回は相手がな…」
「はは、それでいいのか陰陽師…」
そりゃあ藁にもすがる思い、というやつだな。なるほど、それで俺らに…
「まあそういうことも含めてここに来たんじゃ…」
「…終わったら再教育してやれよ」
「終わったら? まさかお主!」
「手を貸してやるよ。お前から信頼を得るためにもな」
それにどの道、俺らも無関係で済む問題じゃないしな。
「そ、そうか!」
「ああ。さてそうと決まれば早速準備に入るわ。お前も家に帰ったらどうだ?」
「う、うむ! そうじゃな! では帰るぞ! 集合場所は後ほど式神の教えに越させる! ではな!」
そう言うと一瞬で姿が消える晴明。便利だなおい。
「藍、聞いた通りだ、紫達にも伝えておけ。早急に」
「御意」
俺は藍に襖越しで伝える。すると藍はすぐに去っていった。
「さて、忙しくなるなぁ」
遠方で雷が鳴る雲行きの怪しい天気を見てそう愚痴る。