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        亜紀と俺・後

今日も今日とて平常運行。まあようはいつも通りイミフと言うこと。

作者自身書いてて途中から、あれ? 何書いてんだ? てなりましたから…







「蔡様、私は…」



静かで虫の音しか聞こえない黄昏時、つまみと酒が用意された部屋で緊張状態の中、俺は亜紀と向かい合い、亜紀は俺に何かを伝えようとしている。



「…」



まだ来て間もないのに手には俺の不安を表すかのような少量の汗。

座っているだけなのに鉄のごとく硬くなってしまっている身体。

何か問いたくても閉じきった貝のごとく開かないこの唇。


いつ終わるのだろうか? 終わるなら早く終わって欲しい。でもこういう時程時間は流れにくいらしく、亜紀は言葉を中断させたまま何も言ってこない。


早くしてくれ、頼むから


俺の心の中はいつの間にかその言葉で埋め尽くされつつあった。



「…良し!」



そんな折、何か決意でも固めたのか、急に声を上げる亜紀。その何かの掛け声らしきものを聞いた俺は体が一瞬で硬直する。やばい、何する気なんだろう…


暴力沙汰ならまだなんとかなる。こいつは俺からしたらまだまだ雑魚、負けることなんてありはしない。

なら何が不安か…裏切りか。


さっきの森での一件、そしてその後から時期良く姿を現したこの小屋。今の亜紀の実力ならどれも実行可能な事ばかりだし辻褄も合う。

それに部屋を包むこの重苦しい空気…所々に殺意が混じっている。恨むというようなドロドロしたものではなく、ただ純粋に殺すという殺意。


もし…もしも亜紀が俺に対し敵意を見出していたらな…



「蔡様!!」


「は、はい!!」



そんな絶望にも似た心境に陥る中、突然の亜紀からの名指しに俺は普段では出ないような高い声を出し返事する。



「私は長年貴方の元でありとあらゆることを習ってきました!」


「あ、うん、そうだね」


「幾度となく危機的な状態からも助けられ、幾度となく勇気づけられ…無茶なことだって何度も強いられました!」


「…」



今思い返せば確かにそんなことした気もする。



「でも私はある時ふと思ったのです! そんなことばかりでいいのかと!」


「は、はぁ…」



あまりの勢いに押されそうになりながらもなんとか耐える。



「それから私は長年あることを考えてまいりました! そして昨日ついに決心しました!」


「あ、ああ、そうか、そりゃあ、良かったな」



昨日って…えらい長いな…



「それは…」


「それは?」



亜紀は深呼吸すると酒の入った盃を俺に渡してきた。ん? 盃?


少し疑問に思い、亜紀を見ると俺の方にぐいっと自分の盃を突きつけてくる。



「蔡様!! 恐れながらも! この亜紀と、義兄弟の契を交わしては頂けないでしょうか!!」


「…は?」



あまりにも突然の申し出に俺は完璧に固まってしまった。

いやだって、いきなり義兄弟って…



「…ちょ、ちょっと待ってくれ! 義兄弟の契を交わして欲しい、って! いきなり何を言ってんだよ!」


「確かにいきなりではありますですが! 私にとってはいきなりではありません!」


「いやお前のいきなりとかじゃなくてだな」


「だったら何がいきなりなのですか!」


「いやだから…」



亜紀のあまりの迫力に負けた俺は頭を掻き、どうしたものかと天井に顔を向ける。



「何時からなんて覚えていません…何か特別これという事件があったわけでもありません…でも悪い所があれば叱ってくれ、怪我や病気を患った時には一日中看病していただき、何か達成できれば優しく褒めてくださり…」



すると涙声ながらも、語り始める亜紀。



「そんな家族のように接してきてくれる蔡様に、私はいつ頃か血の繋がった本物の兄と思うようになったのです」


「亜紀…」


「不思議と違和感はありませんでした。兄弟を持ったこともないのにですよ? でも家族愛というのは分かります。短くも親から愛情を注いでもらえてましたから」



涙を流しながらおどけたように笑う亜紀に俺は胸が痛む。



「そして私はいつ頃からか…この人と、義兄弟の契を交わしたいと、思うようになったのです…」


「義兄弟の…」


「もちろん初めはそんなこと考えるなんてなんと愚かなのだと自分を幾度となく叱りつけましたよ。でも少しずつ、本当に少しずつ、私を蝕んでくるのです…あなたと義兄弟になりたいと…」



何かが狂ったかのように喋り続ける亜紀に俺は不思議と険悪感はなく、むしろこうなるだろうと納得している自分がいた。



「まるで何かを欲するかのようにですよ? はは、気味が悪いですね」



何かを欲す…その言葉を聞いて俺は


こいつが何を求めてるか…それはあれだ。


とある予想が頭に浮かぶ。

だとしたら…




「亜紀」



俺は不意に亜紀の名を呼び、亜紀の意識をこちらに向けさせる。



「はい、なんでしょうか…」



案の定、意識はこっちに向いた。

それを確認した俺は自分の盃を手に持ち、亜紀の方に振り向く。



「今からすること言うことは、一切の情けも同情もないし、義理もない。良いな?」


「え、あ、はい…」



弱々しくも返事を返す亜紀を確認すると俺は小さく、今日はおめでただな、と言葉をこぼし、一気に



「え?」



盃の酒を飲み干した。

それを見て驚く亜紀に俺はおもしれえ顔、と思い、言葉を漏らす。俺の想いを…



「俺にはある一人の変わった旅仲間がいる。そいつは何をするにもドジするし、失敗するし、すぐに根性折れちまうし…まあとにかく中々に面倒なやつだった」


「…」



俯く亜紀に俺は構わず言葉をつなげる。



「でもな、いつ頃かそいつの頑張ろうとする姿に暖かいものが心に溢れるようになったんだ。これが何なのか今まではっきりと分からなかったが、ある一人の奴がある言葉をくれておかげで最近すっきりしたんだ。何かわかるか?」


「…わかりません」



どこか諦めたような、そんな暗い表情で分からないと告げる亜紀に俺は、まだまだ勉強不足だな、と思いながらまた言葉をつなげる。



「家族だよ」


「!」


「その言葉を聞いたとき、ああ、なるほどな、この暖かいものの正体って家族愛のことだったんだな、て思ったよ」



俺は亜紀に酒の入った瓶子を持たせ



「でもな、その時ある不安が頭によぎったんだ。それが、その暖かいものが無くなったらどうなるんだ、と。たとえば何かの理由で離れ離れになった時、どうすればいいんだ、って。でだ、そこで、ならば離れても繋がる目に見えないものを作ってしまえばいい、て結論が頭に出たんだ。だからさ…」




そして亜紀の前に盃を突き出すと



「よかったら俺と義兄弟になってくれねえか?」



にっ、と笑みを浮かべながら入れてくれるようお願いする。

それを見た亜紀は目を見開き、かなり驚いた様子で俺を見る。しかしすぐに涙を拭った顔と思うと満面の笑みで



「はい!」



了承すると俺の盃に酒を注いでくれた。


注ぎ終わったのを確認すると上に盃を掲げる。それに習い亜紀も掲げる。そして



「よろしく頼むぜ、弟よ」


「お任せあれ、兄さん」



お互い微笑むと一気に酒を飲み干す。小屋のそとから俺らを祝うかの如く輝く月下の下で…
























「ちっ、失敗したか…妖怪の分際で…まあ良いわ…何れワシが殺してくれるのだからな…それまでせいぜい不抜けて暮らすのだな、都に害なす妖怪どもめ」

















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