君の居ない世界なんて要らないのに、自分のエゴの為に、僕は君を手放すことにした。
君がいなくなってから、寂しくなってしまった。
世界が一つ消えた。比喩ではない。僕は君の存在する世界を消してしまったのだから。
死んでしまった君。
僕が殺した。
パソコンの画面の中、僕の作った君。僕が創った君。愛した世界の中で。
笑って死んでいた。綺麗な顔で死んでいた。僕がそうなるように話を作ったんだから当たり前なのだけれど、それでも、哀しい。
かなしい故にかなしい。
君は死ななければならなかった。話の流れ上、仕方がなかったんだ。世界を守るために死ななきゃならなかった。けれど世界を守る奴らなんて何人もいたじゃないか。
勇者が大量に存在する世界。
それが君の世界だろう? 他の奴らに任せればよかったんだ。なのに、なんで君は、世界を守るために死んだんだ?
ちがう。
僕は気付いて、プロットを開いた。
君は、僕が殺したんだ。なのにどうして僕は今、君が自ら死んだような言い方をした?
「キャラって言うのはね、暴走するもんなんだよ」
かつて文芸部の先輩が言っていた言葉。
どういうことですか? と聞き返すと先輩は補足した。
「暴走と言っても、多種多様。話を崩壊させることもあれば、引っ張っていってくれることもある。つまりは、勝手に動きだしちゃうんだよ」
そう言って立ち上がると、僕の背後の本棚から一冊の本を取り出した。紙で作られた冊子、僕らの部誌。そしてパラパラとめくり、一つの話を僕の前に差し出した。
「ほら、これなんかそうだよ」
先輩の作品。崩壊した世界で、女の子が自殺する話。
「先輩が殺したんじゃないですか?」
「人聞き悪いね、違うよ。勝手に死んだの」
「その言い方も変ですよね」
「そうかな」
「そうですよ」
……これは、君が選んだ道?
画面の中の君に問いかける。
まだ元気だったころのプロットの中。勇ましげな少女が、剣を持っている。
きっと、そうなのかな…………。
ワードで書いてあったプロットをスクロールする。かつての勇者の軌跡が映し出される。
「え……?」
彼女が選んだ道ならば。
そう思って死を受け入れようとしていた矢先だ。
見つけてしまった一言は。
――――誰かが死んだら、クライマックスは盛り上がる。
そんなちんけな言葉だった。
――――君の居ない世界なんて要らないのに、自分のエゴの為に、僕は君を手放すことにした。
どうも玖月あじさいです。
見返してみると、どうにもこのシリーズ、一つ一つが短いですね。
字数がもっと多い方がいいのかな、なんて。
思ったり。
……なんだか後書きがだんだん雑くなってる気が。
ではでは。