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こんなんだったら、好きになんかならなきゃ良かったのにね。

 失恋した。


「あたし、遠山君のことが好きです」

「……嬉しいけど、ごめん」


 たった二行の告白劇。その結果は玉砕で。

「失恋した」

「うん、二度目」

 あたしの幼馴染は、あたしが奢ってやったイチゴオレをストローでずーずーやりながら頷いていた。その紙パックを暴発させてやろうか。

「遠山は鉱物だから」

「コウブツ?」

「鉄鉱石とか、そう言う系の鉱物。好きなもんじゃないよ?」

 わけわかんないんですけどー、って文句言ったら、あいつの目は時々鉱物になんだよ。って返された。ますますわけわかんないよー、ってあたしは要らないプリントをぐしゃっと丸めてゴミ箱目がけて放り投げる。プリントはゴミ箱の淵に当たって、外へと弾かれた。

「でも知らなかった、お前、遠山のこと好きだったんだ」

「……悪い?」

 にらみつけると、輪島は、いや別に? とちょっと嘲笑う感じで答えてきた。

「恋愛けっこうじゃないか。高校生たるもの、恋愛の一つも立派な人生のスパイスになるもんだぜ?」

「誰が言ってたの?」

「どっかの漫画家がインタビューで」

 へー、なんて聞こえるか聞こえないかぐらいの声で生返事をしつつ、二つ目のプリント丸めたのをゴミ箱へ放り投げる。あ、すっごい外れていった。

 自分でもどうでもいいような恋愛話。正直なんでこんなつまんない話、って思うけれど、どうして輪島は聞くんだろうね、それも嬉しそうに。幼馴染ってだけじゃ、こんな嬉しそうに聞かないでしょ。

「……もしかしてさ、輪島って人の不幸は蜜の味ってタイプ?」

「は? 何でだよ、俺ってば人類みんなの平和を願うようなタイプだぜ?」

「……嘘くさい」

 あたしは帰ってから飲もうと思っていたフルーツオレにストローを突き刺した。横から輪島が、ずりー、そっちの方が良かった、なんて言ってるけれど気にするものか。お前は人の不幸でも吸って生きてろ。

「そういえば、お前は遠山のどこがよかったわけ?」

「う、わー……」

 聞いちゃいます? そんなこと。あたし、失恋したばっかりだよ? そんな傷心ガールに聞いちゃうの? 女心ってのをもっと分かれよー。

 ぶにー、と輪島の頬を思い切り引っ張る。いひゃいいひゃい、とちゃんと発音できずに笑う輪島に私は余計にムカついて。輪島のイチゴオレをかっさらって、一気にズゴーッと吸い尽くす。

「あ、おい! 俺のだぞ?!」

「黙れ! 元々あたしのお金だ!」

「そうかもしれないけど! でもお前のグチ聞く報酬じゃん!」

「グチを聞いてもらうことよりも、あたしのイライラが勝ったのさ!」

 フルーツオレに伸ばしてくる輪島の魔の手から逃れるように上体を反らす。椅子の前足は宙ぶらりん。ついでにあたしの足も空中に。そしてそのまま重力に沿って背中から――――

「――――っつ! いった!」

「あぁあぁああぁぶなかったあぁああぁっ!!」

 床に激突する前に私の右手首は輪島に掴まれていた。男子高校生の力が半端なく使われて皮膚がひきつっていたたたたたたた!!

「ちょ、痛い痛い痛い痛い! 大丈夫、もう大丈夫! 私もう大丈……、ってフルーツオレエェエェエェエエェッ!!」

 あたしの愛しいフルーツオレは教室の床に無残に零れてしまっていた。慌てて力を弱めたけれど、半分ぐらいにまで減ってしまっていた。ティッシュ、ティッシュ! と鞄を漁っていると後ろで輪島は淡々とティッシュでフルーツオレを吸い取っていた。

「あーあ、勿体ねぇ」

「うっさいなぁ……」

「いっそトイレットペーパー貰ってこいよ、あれで吸いとりゃなんとかなるだろ」

 そっか、と納得したあたしはダッシュで女子トイレに入ると一個のトイレットペーパーをつかんで教室に戻ると、フルーツオレを吸い取った。全然使わないうちに吸いとれたけれど、黒いごみ袋は臭いことになってしまった。

「……捨てに行かなきゃ」

「つーかもう帰ろうぜ……」

 そうだね、と何だか削がれちゃったあたし達は机を元通りに直して教室を後にする。


 ごみ置き場に小さなゴミ袋を放り投げる。パサ、ともドサ、ともつかない音がして、綺麗にごみ山の頂点に収まる。あ、なんかこれ嬉しい。

「なぁ」

 輪島が後ろから声をかけてくる。けれどあたしは振り返らない、スカートのポケットから自転車の鍵を探すことに忙しいから。

「お前さ、選ぶんならもっと楽なやつ選べよ、俺とかさー」

「うぬぼれんな」

 サックリと輪島の冗談を切り捨てる。後ろからチェッ、という声が小さく聞こえる。あ、鍵あった。

「帰りますかー」

「帰りますかー」

 シャッ、とペダルを一回空回りさせてからこぎ出す。坂道をけっこうな勢いで下る、下る。先に下ってるのがあたしで、後ろからブレーキかけながら下ってんのが輪島。ここから先はほとんど会話もなく、最終的にそれぞれの家の近くの分かれ道でさようなら。これの予定だったんだけど。


「――――――――――」


「え? 輪島ぁーっ! 何か言ったーぁ?」

「……っ! 何もねーよっ!」

 ちょっとだけいつもと違っていた。何て言っていたのか、結局分からずじまいだった。



――――こんなんだったら、好きになんかならなきゃ良かったのにね。

どうも、玖月あじさいです。

今回もお題をお借りして書いております。

この話でストックが切れました。どうしましょう。

とりあえず、次を書いていますのでお待ちいただければ幸いです。

それではー

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