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花に埋もれても無機質は変われない

 無機質の定義とは。

 無機物を作る元素。

 ただこれだけだ。

 じゃあ無機物ってなんだ、ってなると今度は鉱物とかミネラルとかになるわけで。

 それなら無機質人間って言うことがあるけれど、それは鉱物の一部である人間ってことになるんだよな。ならあいつは何の鉱物の一部なんだろう。

 というわけで、遠山夢樹。俺のクラスメイトである。

 中肉中背の無機質人間で、なんだろう、際立ってこういう奴だ! と胸を張って言えねぇ奴。

 ……と周りのクラスメイト曰く。しかし俺自身はそれは少し違うんじゃないかな、と思っている。遠山はなんとなく無機質人間って感じがする。

 休み時間には宿題に励み、昼休みは仲のいい奴らで固まって弁当食べて、放課後は部活に励む。ゲラゲラ笑ったり、しょぼくれたり、照れたりもしている。これだけ言うと、普通に楽しげな男子高校生で、別に無機質人間じゃないように思えるかもしれない。

 でも、あいつは。


 例えば。

 何か友達と話していて、笑っていた時。あいつだって笑う。けらけらげらげらあははみたいな、さ。けれどある時突然笑みは消えるんだ。


 ふ。

 

 そんなときの遠山の顔はすごく真面目、というか何も感じていないような目で。声をかけるのもためらわれる感じがする。

 無機質、というか、鉱物、って言うのが合っているように思う。とは言え、一瞬後にはもう普通に周りのやつらに合わせて目を和らげているのだが。

――――あの瞬間を、見るのは変な感じがする。

 ちょっと覗き見してるような。人の裏側垣間見ちゃってますし。

 今現在も、見えちゃってますよ、裏側。

 放課後の時間で、教室には俺と遠山だけ。俺は家よりも集中できるから、と勉強をしていて、一方遠山はぼんやりと机に寝そべってまっすぐ前を見ている。そんな遠山の目が、鉱物になっていた。

 鉱物、無機質。

 鉱物とか言うと、宝石とかもカテゴライズされるけど個人的にはそんな綺麗なのじゃないような気がする。なんか、濁った奴。不格好なやつ。キラキラ美しいものなんて、あいつには合わない。

 じわりと汗ばむ。あぁ、不愉快だ。まだ梅雨は明けそうにない。遠くの木にやたらとでかい花が咲いている。あれ、何て言うんだろうな。本当に大きな花弁。ぼとりと茂みに落ちた白い花弁がさ、緑の中ですげぇ浮いてる。近くの赤桃色のツツジよりも目立ってるんだ。

 いつのまにか、椅子が大きく音を立てて倒れていた。遠山が俺の方を不審げに見たようだけど、鞄も椅子もそのままに俺は教室から出ていく。

 土ふまずと、靴下の空間が妙に生温かくて、んで、それにも負けず劣らずの皮膚にまとわりつく空気のぬるさ。指と指がべたついて、イライラする。靴履き替えるのも面倒だから、そのまま外へ。あ、ヤベー、スリッパの溝の間に土とかはいりこむ、まぁいいか。

 ぺそぺそと音を立てて教室に帰ると、相も変わらず遠山は机の上に伏せていた。目は閉じられていて、あ、鉱物見えねぇや。そういえば、俺が倒したままの椅子は元に戻されていて、あー、直してくれたんだ。

 俺は無遠慮にスリッパを高く鳴らしながら遠山の机の横に立つと、抱えていた白色の花と赤桃色の花とを遠山のちょうど上からはらはらとはらはらとはらはらとかけてやった。

「…………何だよこれ」

 細く眼を開けた遠山が不機嫌そうな声で抗議してくる。

「花」

「分かってるよ、それぐらい」

 遠山はぶつぶつと、机と椅子とか直してやったのになんでこんなことやられなきゃいけねぇんだよ、とか、花とか何だよただのごみじゃねぇか、とか文句言っている。だから。

「遠山ってさ、一瞬鉱物になる時あるから」

「好物?」

「宝石とか、鉄とかの鉱物な」

「どういうこと?」

「笑った後とか、ふっ、って無表情になるから。鉱物チックなのがお前なのかなって、思って」

「だからって何で花をぶっかける方向に行くんだ?」

「花に埋もれたら、なんか変わるかなって」

 俺は床に散らばったり、遠山の上に器用にとどまっていたりしている花を両の手に集めた。開いた窓の前に立つ。

 両手を広げる。

 落ちる、花。


 白と。


 赤桃色。



――――花に埋もれても無機質は変われない

どうも玖月あじさいです。

pixivより、なんて気持ち悪い30のお題

をお借りして書かせていただきました。

第二話。

鉛筆の芯とダイヤモンドって同じ炭素のはずなのにどうしてこうも違うのか、そういうお話です。

嘘です。

それではー

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