一言が具現化するなら、僕の周りには言葉が一杯だよね。
学校というのは騒々しいところだ。ただし休み時間に限る。
あちらこちらで話し声が響き渡り、笑い声がこだまする。そこには僕らの声も混ざる。声だけではない、走るときや椅子を引きずるとき、ロッカーの開閉などに伴う音も合奏に混ざる。
現在時刻は十二時四十分、昼休み。机の並びも規則正しかった僕らの教室も、島が形成されて不規則な並びになる。
僕は夢樹と向かい合って、お弁当を食べている。夢樹はご飯のときは無口なタイプで、僕らの昼休みは双方が食べ終わってから始まると言っても過言ではない。むしろ的確すぎる。
僕らの島の横の方には、このクラス最大の島がある。運動系男子の島その一で、本当なら夢樹もあの中のはず。けれど夢樹はあのノリについていけない、と僕とともに昼休みを過ごす。一人にならなくてホッと安心しつつ、夢樹は強いな、と思ってしまう。だって僕なら絶対流される。こっそりと耳を傾けなくとも聞こえる。彼らはどうやら昨日みたテレビ――マヤ文明についてのようだ――で盛り上がっているようだ。太陽のフレアについての説明が適当すぎて笑いを誘う。
僕らの島の左斜め前には、二番目に大きい男子の島。運動系・文化系がごったになっている。こっちもこっちでマチュピチュについて話している。古代文明ブーム来たる? ……あ、なんか今、輪島と目が合った。聞き耳立ててるのバレたかな? 僕はそっと視線を逸らす。
教室の一番奥の廊下側、僕らの島から一番遠い場所には、女子グループの一番大きな島。ピラミッド構成の上の方の人たち。他のクラスからも集まってきてるっぽい、賑やかすぎる、それからこういうグループが苦手って子が食堂や中庭に行くからプラスマイナスゼロ。どうしても高い声は投げつけられる感覚がして落ち着かない。話題はあれだ、ジャニーズの話。正直、あまり分からない、ミクとかの方が好き……、違うな、ミクじゃなくて特定のPさん。だってインディーズも好きだし。
女子の巨大島の隣には、二番目に大きい女子島。運動系と吹奏楽部の女子で主だって形成されている。ちょっと男子に近いノリ。訳の分からない一言で爆笑できるとことか。夢樹にも似てるしね。笑ってるフリして笑っていない子、とか。僕なんかはうまく笑えないから、どうしても苦笑になってしまうし、他人の嘘笑いを見抜けるのも困りものだ。気を使わざるを得ない。……あ、そっか、夢樹はもしかすると僕が嘘笑いを見抜けるから一緒にいるのかもしれない。と言うか、それ以外の貶められるような理由だとヘコむ。
僕らの島のちょうど後ろ――しかし幾分距離は離れている――には、女子二人組。永田さんと延沢さん。会話はほとんどない。永田さんは窓の外を眺めているし(永田さんが何を見ているのか気になって僕も窓の外を見てみたら、お熱いリア充がいた。爆発しろ)、延沢さんは携帯をいじってる。なんとなく僕らのとこと似ている。僕は周りの会話に聞き耳を立ててしまっているし、夢樹は黙々とご飯を食べている。夢樹は見た目によらず、かなり食べる。僕の二倍食べる。そのくせ食べ終わっても腹が張らないんだから、人体って不思議だ。永田さんたちの会話は聞こえない。周りがうるさいのもあるけど、二人の会話は比較的静かな感じだから。永田さんは夢樹と話すとすぐ口論になる、その時は耳が痛くなるほどの大声。延沢さんは他の人といたら賑やかなのに、永田さんといると静か。けれど、二人とも嫌な沈黙になっている感じはしない。
他にも静かな人はいる。大きな島と中くらいの島の間にぽつんと浮かぶ一人島が三、四個。彼、彼女らは大体、携帯いじるか、ノートになにか書くか、うつむくかをしながら昼食をとって、昼休みの長い時間を消費する。一人ぼっちだとバレるのが怖くて、私はやることがあるんです、っていうスタンスを貫き通そうとする。……ほとんど誰も見ていないのに。奇特な観察者――この場合は僕――ぐらいしか見ていないのに。そのうえ、見る人が見たらすぐに崩れる虚勢だったりする。
天井付近にはなにもない。空気ぐらい。けれど言葉は飛び交う。島内はもちろん島から島へと。見えたら楽しいだろうか。楽しくないかもしれない。単純な明朝体、黒限定ならまだしも、言葉にあわせて色がつくと嘘がより分かりやすくなってしまう。綺麗な嘘もあるのだから。
言葉があふれる。具現化したら窒息してしまうだろう。もしくは圧死。
具現化しなくても常に言葉で僕らは縛られている。心地いい沈黙というのは、言葉の鎖から解放されているからなんだろうな。今みたいな。
――――一言が具現化するなら、僕の周りには言葉が一杯だよね。
玖月あじさいです。
毎回毎回の予約掲載です。
6月掲載のこれも、5月に打っています。
今年の梅雨はあまり雨が降りませんね。
……当たっているのかな、これ。
それではー