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月迄何歩


 逃げてしまいたい。

 どうしようもなく逃げてしまいたい。

 俺は、久間千秋から逃げてしまいたい。


 初めは普通に告白されたんだ。人の少ない、封鎖された屋上へ続く階段に、放課後呼び出されて、好きです、って。

 うん、最初に言っておく、久間千秋はかわいい。

 黒髪セミロングがさらさらで、近くにいたらフローラル? とにかく甘めのシャンプーの香りがする。目、大きめ、気のつくタイプ。

 もちろん返事はオッケー、俺たちは晴れて恋人どうし。

 久間千秋は頭が良く、つくすタイプで、昼休みには分からないところを教えてもらい、帰りには俺の部活が終わるまで待って――あいつの部活は陸上部より終わるのが三十分早かった――二人で並んで帰った。そのときにグチを聞いてもらったりしてたんだ。俺の考えに同調してくれて、俺の好みとあいつの好みは一致した。すごいね、運命かもね、なんて喜んだりしたもんだ。

 ……偶然が怖くなったの、いつだっけな?

 あまりにも一致しすぎる好み、傾向。私もだよ、と同調するだけだったらまだ合わせてんのかな? とか思うけど、違うんだ。あいつは俺の一歩先の思考を読んで、マジで!? 俺もそうだよ! と言ってしまう一言を用意している。そこまでピッタリと寄り添うような思考、好み。不自然さが貼りついて離れない……。そう、あいつは俺のことならなんでも知っていた。部屋で漏らした何気ない一言さえも。

 久間千秋の手の中には、ピザまん。

「この前、言ってたよね?」

 言っていない。

「嘘うそ、私ちゃんと聞いたよ?」

 聞いているわけがない。

「ピザまん、久しぶりに食べたいなぁ、って」

 一人、部屋の中で呟いただけ。

 それに。

「俺、あんまピザまん好きじゃない……」

「え?」

 笑顔が凍りつく、目、目が笑っていない。

 俺の血流、凍って爆発しそうだった。



 このとき俺は確信した。



 高校受験を言い訳に、別れを告げてみた。無駄だった。あいつは全然それを別れの言葉だと感じていない、考えようともしていない。行間読め、と言っても国語の成績はすばらしくいい。ただたんに、都合のいいように事実を改変しているだけだ。けれど受験にだけは気を使ってはくれた。別れを告げたあと一度だけ、俺の家にきたらしい。結局会わなかったけれど、物の位置が変わっていたから、新たに仕掛けたか、撤収したか……。盗聴器を探知する機械を使っても反応がなかったから、後者だと判断した。

 驚くほどに心が安らいだ。見張られていないってすばらしい! 同じ部活だった先輩にメールで喜びを報告したら、憐れんでいるような顔文字が送られてきた。普通じゃないのは分かってますってー。



 ちゃんと合格した。

 宣言していた志望校よりも一つ上の高校。



 親にしか言わずに受験した。これであいつから離れられる! そう思いこんでいた。……甘すぎた。



 入学式。桜は残念ながら咲いていなかった。大体がツボミ状態。けれど不安や楽しみや緊張で、桜とかどうでもいいや、とか思っていたりした。

 初めて袖を通した制服。合格発表のとき以来かな、高校の正門をくぐったところで、後ろから声をかけられた。

「後ろのしつけ、取ってないですよ?」

 振り向いて確かめる前に、動かないで、と制止の声が入る。パチン、シュルッ。糸を切って抜いた音。そのまま首を切られるかと思った。周りは騒がしいのに、やけにハサミの音は大きく聞こえた。

「久間……さん、どうして……?」

 久間千秋が、いた。

 にこやかに立っていた。

「合格したから」

 笑った。


 俺の理想郷はどこだろうか?

 あとどれほどでたどり着くんだろうか?



――――月迄何歩


どうも玖月あじさいです。

後書きが困るぐらいまでに書いてきました。これで11話目。

あと4話で折り返し。

無事に30完結させたいものです。


それでは。

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