何かの物語のプロローグ
『そろそろ戻ってきたがいいぞ。
その水深だとお前でもスーツが壊れたら耐えられない。』
ザザッという音とともにそれはヘルメット内に響く。
水深メーターを見てみるともう6000mを突破している。
確かに、ここでスーツが壊れたら私でも流石に死ぬな。
エネルギーはまだ持つけどもうそろそろ上に行こうかな。
この後デートの予定もあるしね!!
『分かったわ、直ぐに戻る。
この後少し予定があるから、ノーチラスの点検をお願い。』
すると後ろのバックパックから空気が勢いよく射出されて
ノーチラスは上に上がっていく。
空気残量はだいぶ少なくなってる。
でもこれだけあれば500m地点までは上がれるかな?
その後はコクピットを開けて水を入れればいいかな、エネルギーはあるから
その後はスクリューに切り替えればいいし。
ノーチラスにまた無茶させるかもしれないけど......
まぁ、許してくれるよね? それにどうせマシンだし......
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『空気残量が少なくなっています。』
警告音がヘルメット内に響き、目の前には警告記号が表示される。
「もう500mか、また開発部が改良したのかな?」
【地上以外では引かないでください】
と注意書きされたレバーを躊躇いなく引く。
するとコクピット内には大量の水が入り込んでくる。
水圧のせいで少し胸が苦しくなる。
あ、ヘルメット外してなかった。
早く外さないとヘルメットが壊れちゃう。
ヘルメット地上用を少しだけ改良したやつだしね。
急いでヘルメットを外すと、間一髪のところで壊れなかった。
このヘルメット防水加工くらいはされてるよね?
コクピット内が完全に水で満たされると、自分の体のエラが開いた。
やっぱり、肺呼吸の方が息はしやすいね。
首元に冷えた水が通るのは少し気持ち悪い。
『空気が無くなりました。』
少し早めだが、機械音がコクピット内に響く。
水の中だと音の聞こえた方が違うのは何でなんだろう?
素朴な疑問が浮かんでくるが、今はどうでもいいので無視することにした。
取り敢えずジェットじゃなくて、スクリューに変えないと。
慣れた手つきでジェットからスクリュー操作に切り替える。
すると、さっきと同じようにスーツは浮上を始めた。
安堵の息を付くと首元から泡がブクブクと漏れ出した。
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少しずつ上の方が明るくなってきた、太陽の光が水に反射してキラキラしている。
ああ、ここは地上や深海のどこよりも綺麗だな。
そんな天国も束の間で直ぐに水面に浮上する。
一瞬息が出来なくなるが、エラが閉じると普通に息ができるようになる。
「お前、またコクピット内に水を入れて上に上がって来たのか!?
それをやるとノーチラスが痛むからやめろと何回も言ってるだろう!!」
お父さんが上がってきた私がエラを閉ざすのを見て怒り出す。
「そんなのどうでもいいよ。
ノーチラスはマシンなんだから壊せば直せばいいじゃん!!」
「何回言ったら分かる!?ノーチラスはマシンじゃない!!
ノーチラスは家族なんだぞ!!」
これをどう見たら家族に見えるの? ただの鉄塊でしょ。
ああ、面倒くさい。
こうなるとお父さん面倒くさいんだよな~。
ほらまたノーチラスに助けられた事について語りだしてるし......
そんなの【新人類】の私に分かるわけないじゃん。
ああ、面倒くさい。
まぁ、こんなのパッパと聞き流して早くミケランジェロに会いに行こう!!
今回は三回目のデートだしそろそろ告られてもいいよね?
取り敢えずパッパと自分の部屋に戻って、綺麗な服に着替えないと!!
一応勝負下着にも着替えておいた方がいいかな?
いや、そんな事ありえないよね? まだ三回目だし......
一応着替えておこうかな......
「アンナ、もしかして君新人類だったの?」
聞き覚えのある声が聞こえた。
首を少し右側に動かすとその人物は見えた。
私より少し上の場所から見下ろしている、逆光で顔は上手く見えない。
先ほどまでの父親との口論で私は気付かなかったようだ、すぐ近くにいたのに。
「何でいるの?」
お父さんも私の声に気づいたらしく、後ろに振り向いた。
すると世界には静寂が訪れる、波の音と自分の鼓動以外は聞こえない。
はぁ、はぁ、まだ大丈夫、まだ誤魔化せる、大丈夫。
それにミケランジェロは良い人だ、分かってくれるかもしれない。
「ち、違うよ、ミケランジェロ。こ、これは」
ノーチラスの上に立っている私を、いや化け物を見つめる様な目を見ると言葉に詰まる。
息が苦しい、エラが開いてくる。
今すぐ海に飛びこみたい、そして馬鹿な事をやった頭を冷やしたい。
「君は新人類なんだな?」
「違う! いや、違くないけど......
でも新人類は化物じゃ...」
すると彼は嘔吐した。
音もなくただ口から吐しゃ物をだしていく。
海に落ちてそれはすべて綺麗に波にのまれ、なくなる。
それはまるで目の前にあるものが信じられず、自分の意識とは無関係に吐いているように見えた。
いや見えたのではなくそうなのだろう。
「新人類は化物だよ、アンナ。
すまない今日の予定は無しだ、そしてこれから僕に会わないでくれ。」
口元をハンカチで拭いながら、彼は立ち去ろうとする。
「何で、何でよ!!
私だって少しだけ違うだけの、人間なんだよ!!」
興奮して、口からは罵声がでる。
口の中には鋭くとがった犬歯が多く並んでいる。
「君は人間じゃない。」
そう言い残して彼は去っていった。
目頭が熱くなり、涙が出そうになるが直ぐに凍り、涙は砕け散る。
お父さんは気まずそうに去っていった。
「何でよ。」
バン!!
ノーチラスを叩く、叩く、叩く、ただ叩く思いが収まるまで。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ごめんね、ノーチラス」
先ほどまで叩いていた場所は私の血によって赤く汚れている。
「ブーン」
ノーチラスから返事が聞こえたように感じた。
「ありがとう!
さっきはごめんね、ノーチラスがただのマシーンだなんて言って。
ちょっとだけお父さんが言う意味が分かったかも。」
ノーチラスから返事は聞こえない。
さっきのはただの誤作動だったのだろうか?
違う、さっき確かにノーチラスは答えてくれた。
「ちゃんとメンテナンスしてあげるね。」
くよくよしていたって始まらない、切り替えないと。
さっきの事なんて私にとってはよくある事だ、切り替えないと!
さぁ、ノーチラスのメンテナンスをしてあげよう!!
後掃除もしないとね、汚いままだったら可哀そうだ。
一度ノーチラスから降りて工具箱と掃除用具を取ってきた。
コクピット内に工具箱を持って入る。
ノーチラスを操作して燃料のパイプをバックパックに繋げる。
空気のパイプをバックパックに繋げるとコクピット内にあった水は引いていった。
これで作業できる。
「ここ壊れちゃってるね、今治すね。」
工具箱から必要な物を取り出す。
ギュイィィン、ガチャガチャ、ジジジ...... 小気味よい音がコクピット内に響く。
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「これで大丈夫かな?」
コクピット内はさっきとは見違えるほどキラキラと光っている。
次はノーチラスの外側を綺麗にしないと!!
最近無茶させてたから関節部分が傷んでるかもしれないし。
コクピット内から出て、掃除用具からモップを取る。
「あ、コクピット内に工具箱忘れて来ちゃった。
取りに戻らないと!」
コクピット内に入ると椅子の上にちょこんと工具箱が置いてあった。
あった、あった。
ドゴォォォン!!
大きな爆発音が聞こえた。
何この音!? 急いでコクピットから出る。
しかし押し寄せる熱波で上手く目が開かない。
衝撃波によって掃除用具は吹っ飛んで冷たい海の中に落ちていった。
その間にも爆発音響く。
目をちゃんと開けられた時、目の前の【ダンブレル南極基地】は壊滅状態だった。
「どういう事? 何でダンブレル南極基地が襲撃されているの?」
大きな爆発音がずっと響き続け、職員の阿鼻叫喚が聞こえてくる。
私が今いるスーツドック場はダンブレル南極基地の端なので被害は受けていないが、次第に被害を受けるだろう。
「え? あれって【スーツ】?
それにあのマークは四大名家のバスベルク家?」
爆炎で隠れてあまり見えないが、ノーチラスと同じ大きな人型ロボットが見える。
肩にはバスベルク家の家紋である雪の結晶が見える。
それに手に持っているのはライフル?
スーツを戦闘で使うのは条約で禁止されているんじゃ……。
スーツは一体しか確認できない。
どうしよう……。
逃げた方がいいのかな? でもお父さんはまだ基地の中心部にいるし。
それに逃げたってどこに行けばいいの?
南極から日本までノーチラスを最大速度で移動しても二日はかかる。
それにそんなに多くの燃料はない。
プルルルル、プルルルル
「電話!? 誰から?」
ドックに設置されている公衆電話を取った。
『アンナ、まだドックにいるか?』
電話の先の声はお父さんではなく、ミケランジェロだった。
『いるけど、そんな事よりそっちは大丈夫なの!?』
電話越しからは爆音が聞こえる。熱線銃の特徴的な音も聞こえる。
『大丈夫じゃない、僕は片腕を失った。
今はそんな事どうでもいい!! 早く逃げるんだ、アンナ!!』
『嫌だよ、お父さんはまだ基地の中にいるし……。
友達だってまだ基地の中なんだよ!?』
『うるさい!! 君が死ねばダンブレル家は多大な損失を受けるんだ!!
君の命は君の物じゃない!! ダンブレル家に属する物だ!!
逃げるんだ!! 君は死んでいい生物じゃない!!』
ミケランジェロがそう言った後、電話は急に切れた。
コードが途中で切れたのかもしれない。
「何でそんな事言うの? 私の命なんだから好きに使わせてよ。
私だって新人類で生まれたかったわけじゃないんだよ?」
このまま基地の中に入り、戦火に揉まれて死んでしまおうか?
あの爆炎の中に入れば楽に死ねるだろう。死んでしまおうか?
『おねぇ、仕事頑張ってきてね!!』
『アンナ、大丈夫? 南極はここより寒いのよ?
ちゃんとお盆休みぐらいは帰ってきなさいね。』
脳裏に弟のアレックスとお母さんの声がよみがえる。
これは南極に行くときに言ってくれた言葉だっけ?
『アンナって新人類なの!? 何か、かっこいい!
今度スーツに乗った時の事聞かせてよ。』
同部屋で仲良くなったさっちゃん。
さっちゃんも特殊人種だったから、すぐに仲良くなったっけ?
今は故郷で家族と仲良く暮らしているかな?
やっぱり死ぬのはやめよう。
私はまだこの白くて美しい世界で生きたい。
「私の命は私の物だ!!!! 何がダンブレル家の物だ? この馬鹿野郎!!!!」
モップを投げ捨てて、ノーチラス号の中に乗り込んだ。
燃料の補給は完了していないが、オセアニア州ぐらいまでは行けるだろう。
「ごめんね、ノーチラス。あなたを綺麗にするのはもう少し先になる。
それじゃあパッパとこんな所から逃げるよ!!」
電源ボタンを押すと、コクピット内が主電源へ切り替わる。
『システムオールフリー パイロット、アンナ・トガシ確認』
ガコン。
レバーを下げると、コクピット内に警告音が鳴り響く。
「コマンド 新人類専用モード完全同期」
パスワードを入力すると警告音が鳴りやむ。
『意識拡張ロック:解除 エネルギーリアクターロック強:解除
人工神経ロック:解除 カメラロック:解除 完全同期スタート』
上からヘルメットが降りてくる。それが頭に嵌るとブラックアウトした。
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目を開けると、私の視界はノーチラスに同期していた。
ノーチラスを自分の体のように動かすことが出来る。
少し脳に負荷がかかるが問題はない。
良かった、成功だ。
完全同期は初めてだったから少し怖かったけど、今のところは大丈夫みたいだ。
今は緊急時だから半同期だと操作が遅れるかもしれないから、完全同期を使う。
さあ、早く逃げよう。
ピ――――!!
頭の中に甲高い音が響く。
何!? 少しずつ頭が痛くなっていく。
これ以上完全同期はマズい、すぐに止めなくちゃ!!
いった!!
左肩に激痛が走る。
『攻撃を確認、左肩に5%の損傷を確認。』
誰かから攻撃された? 後ろへ振り向くと、さっきまで基地を破壊していたスーツが私へ照準を合わせながら熱線銃を構えている。
あれにやられたのね……。
このまま海に飛び込んでもやられるだろう。どうする?
私はスーツで戦闘をすることは出来るの?
いや、出来るかじゃない、やるんだ!! 殺さなきゃ、殺される!!
相手のスーツはしっかりとコクピットがある頭部に照準を合わせた。
大丈夫、熱線のスピードは案外遅い。来るところが分かるなら避けられる!!
きた!!
熱線をしゃがんで回避し、相手に近づくために屈んだ状態で移動する。
このままならいける!!
相手は熱線が避けられた事に驚き、怯んでいるようだ。
このまま行っても相手に攻撃することが出来ない!!
何か武器になりそうなものはないの!?
視界の隅に煌々と灯りをともした電柱が入った。
これだ!! 電柱を根元から引き抜いた。
電柱内に通っていたガソリンが空中にぶち撒かれる。
今だ!! 相手のカメラにガソリンがかかる。
電柱を槍のようにして頭部を狙って突き出したが、紙一重のところで防がれた。
まだ終わらない!! 相手の左腕に突き刺さった電柱を捻った。
すると肩から左腕が外れ、バランスを失った相手のスーツは左側に倒れた。
大きく雪ぼこりが舞い上がる。
重くなった電柱は捨て、そのまま思いっ切り蹴り上げた!!
バキ、ベキ、ボキン!!
大きな音とともに相手の頭は吹っ飛んだ。頭は空中で爆発を起こす。
空からは頭部の残骸が降り注ぐ。降り注ぐガソリンは『雨』のように見えた。
よし!! 早く逃げなきゃ!!
ガタン!!
目の前の視界が急に下がり、そのままドックの床に頭を打ち付けた。
ピィィ――――!!
頭の中で響くあの音はどんどん大きくなっていく。
頬を何か熱い物が通っているのがわかる。
早く、完全同期を解かなきゃ!!
「コマンド!! 完全同期解除!!」
口の中に鉄臭くて熱い物が溢れる。
『完全同期を解除します、意識拡張ロック エネルギーリアクター強ロック
視覚同期ロック 触覚同期ロック』
私の視界はまたブラックアウトした。
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「はぁはぁはぁ、危なかった。とりあえず今は逃げないと……」
首元のエラから血が流れている。
視界に黒い斑点があるのは毛細血管が切れたからだろう。
振り返ると、黒い斑点のせいで上手く見えないが、ダンブレル南極基地が見える。
すぐ近くにはもう動かなくなったスーツが見える。
私はついさっき人を殺した。
目の前の頭部が無くなったスーツがそれを物語っている。
あそこにさっきまで人が乗っていたのは知っているが殺した感覚があまりない。
しかしどう言い訳しようとも私は人を殺したんだ。
目の前が震える、いつもは優しく感じるスーツが急に怖く思えた。
吐き気がする、口の中の血の匂いでそれは増幅されていく。
……っ、オエッ
気持ちわるい、一瞬人を殺した事に納得した自分が気持ち悪い。
まだ私は純真潔白でいたいようだ、今までがおかしかっただけなのに......
さあ、早く逃げよう。
そしてオセアニア州のどこかでゆったりと過ごそう。
今日は災難な一日だった。
読んでくれてありがとうございました




