Kちゃんの話
スタンドマイクで場所を移動せず、ボソボソと語ってる感じでご覧ください。
この前ね、少し前に大きな事故があった場所に行く用があったんですよ。そしたら急に肩が重くなるから、あーついて来ちゃったなーと思って。
でもさ、見たいじゃない。どうせついて来てるんならイケメンの方がいいし。
で、振り向いた訳ですよ。
急に肩が軽くなりましたよねー。
ども、篠田林檎です。
なんかスピーチしてと頼まれたんだけど、どうしようかなーと考えてて。
よく怪談とか喋ってますけど、私は幽霊って見たことないんですよね。どっちか言うと、避けられてる感じで。
だから、けっこうネタに困ってるんです。ネタを仕入れようにも、友達少ないし。
でも、その数少ない友達に、ちょっと変わった子がいて、今日は彼女の話をしようかなーと。
仮にKちゃんとしておきます。
Kちゃんは中学の同級生で、お互い友達が少なかったから、いつもつるんでたんですよね。
それで、Kちゃんがどう変わってるかと言うと、霊感がめちゃくちゃ強い……というか、霊の存在が当たり前だから、別に大したことじゃないと思ってるレベルで。
何回かKちゃんの家に行ったことがあるんですけど、右手が神社、左手がお寺で、裏が墓地っていう、冗談みたいな家に住んでたんですよ。
だから、神社の横の児童遊園のブランコで、生首がギコギコ揺れてても、お墓で火の玉が酒盛りしてても、まーそんなもんかなーくらいに思ってる感じで。
そんなんだから、私も興味があって、Kちゃんに聞いたことがあるんです。
「一番怖かったことって何? やっぱ幽霊?」
そしたら、
「幽霊は怖くないよ。元は人間だから、『うぜぇんだよ消えろ』って思えば平気」
って笑うんですよね。それから急に真顔になって、Kちゃんはこう言いました。
「一番怖いのは、山にいる」
――――――――
Kちゃんが小学校の五年生の時の話。
まぁ、どこの小学校でもあると思うんですけど、キャンプ合宿。
山の方にある「県民の森」みたいなところに泊まって、カレー作ったりキャンプファイヤーやったりするアレですよ。
で、一晩泊まった次の日に、森を散策しつつのウォークラリーがあるっつー訳です。
で、Kちゃんの班も普通にウォークラリーに行ったんですけどね。
なんか、遭難したらしいんですわ。
普通、ありえないでしょ。
小学生が歩くんだし、きちんと整備された遊歩道で、一本道なんですよ。
けれども、Kちゃんの班はどういう訳か、道じゃないところに入っちゃったんですよね。
チェックポイントごとに先生が立ってるはずだから、そんなに困らないだろうと、Kちゃんたちは呑気に構えて、適当に歩いてたみたいなんですけど、どこまで行っても全然道に出ないから、やっぱおかしいんじゃ……となったのが、みんなとっくにゴールしてお昼ご飯を食べてるはずの正午過ぎで。
さすがにバスに乗り遅れたらまずいとなって、Kちゃんたちは慌てたんです。
「おーい」
「おーい」
と叫びながら、森を歩きました。多分、先生たちも探してるから、見つけやすいように声を出したんですよね。
でも、全然反応なくて、いつの間にか辺りが暗くなってきた。
これはヤバいとなって、まぁ、小学生だし、みんな泣きますよね。
でも、Kちゃんはなぜかあんまり怖くなくて、
「まぁ、とりあえず落ち着こうや」
てな感じで、リュックのおやつをみんなと交換して食べてたんです。
そうしてると。
「おーい」
「おーい」
って、声が聞こえたんですって。
みんな大歓喜ですわ。迎えが来た、ってなって、大急ぎで声の方へ向かったんです。
……そしたら、キャンプファイヤーの真っ最中で。
先生に、
「おまえら、何やってたんだ」
と、めちゃくちゃ怒られたみたいなんですけど、Kちゃんたちからしたらポカーンですよね。
でも、よくよく話を聞くと、昨日なんですよ。
意味分かります?
私もどう言っていいかよく分からんのですけど。
要するに、タイムループ?
そんな感じみたいで。
それからまた、Kちゃんたちはキャンプファイヤーをやって一泊して……。
ウォークラリーはさすがに怖くて、頭が痛いとか適当なことを言って、みんなでサボったって言ってました。
それで、普通に家に帰ったんですよね。
そしたら、お母さんがめちゃくちゃ変な顔をしたんです。
「あんた、昨日帰ってきたじゃない」
って。
でもまあ、それからは普通の日常に戻ったんですよね。
で、小学校を卒業した春休みに、早速同窓会があって。同窓会といっても、小学生だから、地元の大きな公園に集まって花見するとか、そんなんですよ。
で、断りにくくて、一応は参加したんですよね、Kちゃんも。
その時、キャンプで同じ班だった子に、
「遭難した時は怖かったよねー」
なんて話をしたら……。
「何、それ」
って、めちゃくちゃ冷めた返事が返ってきて。
はじめは、「あんまり怖かったから、忘れようとする心理的な反応だろう」って思ったそうなんですけど、やっぱ気になって、家に帰ってからお母さんに言ったんですよ。
「実は、キャンプの時に遭難したんだよね」
そしたら、お母さんがこう返したんです。
「だって、あんた、キャンプの後から別人に入れ替わってるもんね」
――――――――
Kちゃんからそんな話を聞いた時、「まーた適当な作り話をしてー」みたいな反応を返したんですよね。
でもKちゃんは真面目な顔で。
「私も、夢か何かで見たのを現実だと思い違いしてると思ってたんだけど」
と言って、こんな話を付け加えました。
山の神様は寂しがり屋で、寂しくなると「神隠し」として子供を拐う。
でも、拐った子供が死んじゃうと、余計に寂しくなるから、最近の山の神様は、時空を歪ませて、常に何人かの子供を彷徨わせている。
「どこからそんな発想が出てくるの?」
と私が笑うと、Kちゃんはちょっと首を傾げて、
「ずっと部屋にいる小さいおじさんが言ってた」
とか言うから、どこまで信じていいか分かりませんけどね。
でも、確かなことがあって。
キャンプ後の身体測定で、Kちゃん、身長が五センチ伸びてたらしいです。
「多分、『神隠し』されたのは私だけで、私が寂しくないように、班のみんなと一緒にいるっていう幻想を見せられてたんだよ。半日だと思ってたのも、実は何ヶ月か、一年くらい経ってたのかもしれない」
Kちゃんはそう言ってました。
でも、ひとつ疑問が残りますよね。
Kちゃんよりも一日早く帰宅したKちゃんは誰なのか。
多分、それが本来の時空線でのKちゃんで、今のKちゃんと入れ違いに、山に呼ばれたのかなーって。
本当は同時に入れ替わるはずだったけど、山の神様が、一日間違えて帰したのかもね、と。
「山はね、そういうところだから」
Kちゃんのお母さんも、そんなことを言ってたみたいです。




