第5話 トイレと更衣室が、最後の現実問題
ここまで書いてきたことは、正直に言えば楽しい話ばかりだ。
キャプテンという呼び名。
コスプレOKという許可。
限定日という、ゆるい合図。
どれも決心さえあれば、すぐに始められる。
けれど、人が本当に増え始めると、
必ず出てくる問題がある。
トイレと、更衣室だ。
これは思想では解決しない。
気合でも乗り切れない。
現実の問題だ。
だから、ここはちゃんと現実的に考える。
まず大事なのは、
最初から完璧にしないことだ。
人が来るかどうかわからない段階で、
設備だけを整えると、必ず空回りする。
維持費だけが残り、
「やっぱり無理だった」という話になる。
だから最初は、
既存のトイレを案内する。
更衣は、各自工夫してもらう。
少し不便なくらいで、ちょうどいい。
そして、人が増えてきたら、次の段階に進む。
商会として、空き店舗を一つ借りる。
目的は明確だ。
トイレと、更衣と、荷物置き。
それ以上のことはしない。
商会名義で借りるのがポイントだ。
個人の善意ではなく、
街として用意する場所にする。
ここで無料にしないのも大事だ。
有償にする。
金額は高くなくていい。
でも、きちんと払う。
有償にすることで、
使う側も、運営する側も、
この場所を大切に扱うようになる。
料金体系は、回数制ではなくフリーパスにする。
一日出入り自由。
なぜなら、
コスプレは一度着替えて終わりではないからだ。
汗をかく。
直す。
別の衣装に変える。
また撮る。
再入室できることは、
快適さではなく、必須条件だ。
そして、もう一つ。
大きめのコインロッカーを置く。
キャリーケースが入るサイズ。
衣装ケースが入るサイズ。
途中で出し入れできるタイプ。
ロッカーがあるだけで、
街に滞在できる時間が伸びる。
滞在時間が伸びると、
商店街は「通過点」ではなく「場所」になる。
ここまで来て、ようやく思う。
トイレと更衣室は、
人を呼ぶための設備ではない。
人が来たあとに、街が耐えるための設備だ。
だから順番を間違えない。
文化が先。
設備は後。
キャプテンの仕事は、
最初から全部を用意することではない。
育ってきたものに、
あとから屋根をかけることだ。
文化が育ったら、
設備は、ちゃんと追いかけてくる。
次の話では、
この更衣室に、名前をつける。
ただの設備を、物語に変える話を書く。




