表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で幼稚園の先生をすることになりました  作者: めんだCoda


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/32

第18話 食事への誘い

「話したいことって…なんでしょうか…?」


(また私への嫌味かな…あるいは、ラエルノアさんのことか…)


 揺莉はビクビクしていると、エルサリオンは咳払いをし掴んでいる揺莉の腕に視線を落とす。


「傷の…傷のあった場所はもう痛まないか?この前の、サークのときにつけられた傷だが」


「あぁ、あの傷でしたら、エルサリオンさんが治してくださったおかげで、もう全然痛くないですし、なんともないです。ありがとうございます」


「そうか…それなら良かった…」


「はい」


 揺莉は、まだ自分の腕を掴んだままのエルサリオンに困り見つめる。

 エルサリオンは、掴んでいる揺莉の腕に視線を落としながら、また黙る。


(また沈黙だよ〜…気まずい〜)


「…あ…あの…」


 揺莉は沈黙を脱しようと声をかけると、エルサリオンが急に話し出した。


「アノーリオンは随分と成長した。君と会ってから」


「あっ、本当ですか?ありがとうございます。確かに、言われてみると、なんだか最近は会った当初より大人びた感じがして」


「君がアノーリオンと会ったときは5歳、中身もそれに応じていたが、今は中身だけでいえばもっと歳を重ねているだろうな」


「えっ?どういう…??5歳じゃないってことですか…??」


「5歳には変わらないんだが、脳や体の内部構造は5歳以上に成長しているだろう、ということだ。我々エルフは、外部の生き物と関われば関わるほど中身が熟練され成長し、そして強くなる。君だけはない、里の外部からきたサークも同様に、子供達の成長剤となるだろう。だが、アノーリオンを見る限り、君と接触することが急成長させたと見える」


「えっ、そんな効果があるだなんて、知らなかったです。じゃあ、私と関われば関わるほど、成長するってことですよね」


「そうだ」


 揺莉は思いがけず自分が与えていた影響に驚くが、すぐにある思いが頭に浮かぶ。


「……それなら、どうして他のエルフ族の方は、私に接触したがらないのですか?」


「君が何者かわからない手前、効果を知ってはいても、預けたくはないんだろう」


「なるほど、そうですよね…。…じゃあ、なぜ…エルサリオンさんは、私にアノーリオンくんを預けてくださったのですか…?」


「…どこの者か分からないからと言って、ただ排除するのは反対だっただけだ…」


「そうですか……」


(ちょっと、答えに期待した私が馬鹿だったな…)


 エルサリオンの答えにガッカリし視線を落とす揺莉だったが、エルサリオンが掴んでいる揺莉の腕に力を込めたのに気付き、揺莉は顔を上げる。


「前にも伝えたが、君には感謝している。何よりも1番は、アノーリオンの笑顔が増えたことだ。母親を失ってから元気がなかったが、今は以前のように明るく見える」


 エルサリオンは、揺莉の腕をゆっくりと離した。


「…お母様が亡くなって…?…ごめんなさい、私知らなかったです…お母様を失っていること…いつ頃…ですか?」


「アノーリオンが4歳のときだ。エルフの里の外に母親と数人のエルフと共に出かけたときに、外の魔獣に襲われ、そのときにアノーリオンを守って亡くなった」


「…アノーリオンくんは…お母様が亡くなるのを見て…?」


「聞いた話でしかないが、目の前で殺されたらしい」


「そんな……ひどい……アノーリオンくんはそんなこと一言も……」


「口にはしたくないんだろう。酷い殺され方だったと聞いている。同行していた他の大人のエルフも魔獣の圧倒的な力差に敵わず、敵にされるがままだったと聞いている。力があった魔獣はボールのようにエルフを丸めて、地面に転がして遊んだりしていたそうだ。…鬼畜な奴らだ」


「——あっ…だからだ……!」


 揺莉は目を見開き、両手で口を押さえる。


「…さっきマットの上で転がる練習をしてまして…、アノーリオンくんは、できなかったんです…挑戦はしてくれたんですが…もしかしたら、これが理由だったのかも…!ごめんなさい、私、アノーリオンくんに嫌な記憶を思い出させてしまったかもしれません…!申し訳ありません」


 涙ぐんだ揺莉は、エルサリオンに頭を下げる。

 頭を下げ続けるが、エルサリオンからの言葉はなく、エルサリオンが怒っているだろうことに体は萎縮し、心臓はバクバクなっている。


「……この幼稚園には、アノーリオンの意思で毎日来ている。ここが嫌になれば、来なくなるだけだ。君が必要以上に、我々への接し方を気にする必要はない」


「…はい……」


 幼稚園では、先生としての立ち位置で振る舞っていた揺莉だったが、よく考えればこの幼稚園に来ることは強制ではない。


(アノーリオンくんも、来なくなっちゃうのかな…)


 落ち込んだ揺莉は、下に視線を落とし地面を見つめる。

 すると、エルサリオンから今まで聞いたことがないほどの優しい声で話しかけた。


「君がしたことは、善意からだろう。それについて謝る必要はない、と言いたかったのだが…、言い方が悪かったようだ、すまない。私は昔から言葉遣いがうまくなく、誤解されることも多い。もし君に誤解されたのであれば、解いておきたい」


「え…あ、いえ、大丈夫です…。私もこの里での自分の立ち位置も分かっていますし、元の世界に戻るまでの居候でしかないですから…」


「…転送するための魔法は、今も準備中でまだ時間はかかる。君には、まだしばらくはここにいてもらう必要がある」


「分かりました……お忙しいなか、私のことでお手を煩わせて申し訳ありません…。よろしくお願いいたします」


 揺莉は精一杯笑顔をつくって、エルサリオンに頭を下げたが、エルサリオンの目を見ることができなかった。


「…今度、私の家で一緒に食事はどうだろうか」


「……え?」


 揺莉は目を丸くし、顔を上げてエルサリオンを見る。

 すると、エルサリオンは恥ずかしそうに横を向きながら、話を続けた。


「もちろん、アノーリオンも一緒だが」


「それは…嬉しい…お誘いですが…、この前のサークの件といい、私のことをよく思わないエルフの方もいますし、里に近づきたくはないので…せっかくですが…申し訳ありません……」


「…それなら、君の今の家で食事をするのはどうか」


「えっ…私の…?でも、あそこは罪人が入れられる場所なんですよね?そこにお2人が入ってきて食事をするのは、良くないんじゃないですか…?それに、私、まだここでの料理もうまくできなくて、食事の用意もできないですし、ご迷惑かと…」


「料理なら私がしよう。君はその間、アノーリオンの相手をして待っていてくれればいい」


「いや…!それはさすがに…申し訳ないというか…!」


「…そんなに、私と食事を取るのが嫌か」


 エルサリオンにじっと見られ、揺莉はよく分からない感情に支配される。

 困惑と緊張と微かなドキドキと…?


(え…分からない…私、嫌われていたはずなのに、なんで食事に誘われているの…?え…どうしたら、いいんだろう…)


 揺莉が答えに困っていると、後ろから腰あたりを誰かに叩かれる。


「ゆり、父上と何を話しているの?」


 アノーリオンとサークを抱いたクルゴンが、揺莉を不思議そうに見上げていた。


「あ、ごめんね。アノーリオンくんの幼稚園での様子などを、お父様に話していたんだよ」


「そっか」


「さ、エルサリオンさんも迎えにきているし、お帰りの準備をしにお教室に戻ろうか。エルサリオンさん、すみません、帰り支度を済ませてきますので、もう少々お待ちください。あっ、宜しければ、お教室内に一緒にお入りください」


「…わかった」


 エルサリオンはまだ何か言いたそうであったが、揺莉はアノーリオンとクルゴンの肩を掴み教室へとササッと向かう。


「ありがとうね」


「え?なにが?」


 揺莉は2人にお礼を伝えるが、2人はキョトンとした顔で揺莉を見上げる。


(あの場から離れられて、良かったな…)


 エルサリオンと、いや、エルフ族と2人でいることに緊張し、抵抗がある揺莉。


(とりあえず、食事の件は今後も触れないようにしておこう…余計な問題は起こしたくないし。ここにいる間は、当たり障りなく過ごそう)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ